経済のことはなにもわかってないから、この本を読むのはかなり骨が折れた。なにしろ基礎的なことすら分かってないんだからね 笑)
副題は「これからの『社会民主主義』を語ろう」となっている。古色蒼然たる社会主義の話か、と思うかもしれないけど、これが全然違う。ネット上では明らかに読みもしないで、いまさら社会主義かよ、という書き込みも見られるが、読んでから書こうね。社会主義と社会民主主義は違うものだしね。
まず、最初にも書いたように、ものすごく読みづらかった、というか、頭にすんなり入りにくかった。これは本のせいではなく、上にも書いたように、こちらの知識不足のせいだ。対象となるのはほとんどアメリカとイギリスを中心としたヨーロッパの戦後の経済政策の話ばかりで、具体的な政策の話が出てきても、全く知らないことばかりでぴんと来ない。
でも、日本でもさんざん言われた民営化すれば効率が良くなるとか、経済が成長すれば社会の問題は良い方向へ向かうとか、はては金持ちをもうけさせれば貧乏人もおこぼれに預かれるなんていう「トリクルダウン理論」なんてのもあったけど(これに類したことを私の市の市会議員が胸を張って言ってたことがあったっけ。あんた何様?ってあきれた)、こうしたことの嘘がよくわかる。格差社会は市民同士の信頼感を損ない、不平等は社会問題を悪化させる。不平等は社会の絆を崩壊させる。不平等な社会は不安定な社会であり、内部分裂から、「遅かれ早かれ内部紛争へ発展し、反民主主義的な成り行きが待っている」わけだ。
繰り返すが、この本は社会主義のすすめではない。社会主義というと、国家が経済政策を計画的に行い、産業を国有化するものだという印象がある。ソ連の崩壊とともに、これは終わった。それに対して、社会民主主義というのは、たとえば、北欧は長年社会民主党が政権を担ったが、そこでは主要産業の国営化などなかった。むしろ累進課税により富の再分配を行って、福祉を初めとした社会サービスの供給に力を入れた。社会民主主義というのはヨーロッパで生まれ、そこでのみ開花した「妥協の産物」で、「資本主義ーおよび議会制民主主義ーを枠組みとして受け入れ、そのなかで、これまでなおざりにされてきた国民大衆という大規模社会層の利益を守っていこう」とするものなのである。社会主義は頓挫したけど、社会主義と民主主義の折衷案という日和見的(!)な社会民主主義は、現実には北欧を初めとしたヨーロッパの多くの国で政権を担ったわけ。
著者のジャットは2008年にALSを発病し、2010年に亡くなった。この本は亡くなる年に出たものである。死を目前に控えたジャットがこの本を書いたのは、現代の行きすぎた市場原理主義による「何か途方もない間違い」を若い人々に伝えたいという思いだったんだろう。日本でも人間の存在を「経済的に」考えて、コストがどのぐらいかかるという言い方が大手を振ってまかり通っている。ホリエモンは「命の次に大切なお金」とか「お金で買えないものはない」なんてマイクの前で恥じることなく言っていた。
でも、「1970年代までであれば、人生の核心は金もうけにあり、それを奨励するために政府がある、などという考えは、資本主義に対する伝統的な批判者のみならず、その最強の擁護者の多くからも、嘲笑されていた」 んだよね。日本でも少しずつ認識されるようになってきたと思うんだけど、格差や不平等は様々な社会問題を悪化させるんだよ。
「社会」民主主義というとなにか社会がそのままひっくり返ってしまうのではないかと思うかもしれない。実際、アメリカではそう考えられているらしい。でも、そんなアメリカでも大恐慌に対処するためのニューディール政策に始まり、指摘利益よりも公共の福祉に重点を置いて国が介入する政策はいくつもあった。
それなのに、いつの間にやら(その経緯がこの本では詳しく挙げられている)「高い課税は成長と効率を妨げる」とか、「国家が小さければ小さいほど社会は健全」として、民営化礼賛へ向かってしまった。実際は、長い期間で見れば民営化がいかに非効率かは、この本の中ではイギリスの例などでいくつも挙げられているし、なにより、非効率以上に逆累進的(金持ちへの再配分)であるとともに、いわゆるモラル・ハザードへつながっていく。
この本で指摘されているのはアメリカやイギリスの例だが、たとえば今回のフクシマで明らかになった電力会社のことなども、民営化とは直接つながらないにしても、いろいろと連想できる。
ジャットは現代の「荒廃する世界」で必要な規模で対応できるのは政府だけだと社会民主主義的政策の必要性を説きながら、しかし、この社会民主主義は理想の未来像ではないし、過去においても理想的な姿を現したことはなかったことは強調し、にもかかわらず、現在手元にある選択肢としてはこれが圧倒的にベストだと言う。
結局、権力を持つ者が、ではなく、一般の市民であるわれわれが、どのような社会を求め、その実現のために、どのような取り決めなら受け入れられるのかを考えていこうと言うわけである。
本来アメリカの若い人たちに向けて書かれた本である。でも、アメリカの後追いをしている日本でも是非若い人たちに読んでもらいたい、と思った。
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