今回のは満を持してのご紹介、というとちと大げさですが。。。いや、拙ブログを始めたときから、いつ紹介しようかと思っていた記事がいくつもあった(ある)んですが、今回のはその一つ。ただ、満を持して、の割には大したこと書けないですけど (>_<)
シャルパンティエという作曲家は有名なのが二人いるようですが、こちらはマルクァントワーヌのほう。典雅とでもいうのでしょうか。17世紀のバロック音楽の作曲家です。
そして、やっぱり思うのは、こうした17世紀の「芸術家」たちって、先日紹介したピンゼルもそうですけど、間違っても自分が「芸術家」だなんて思わなかったということです。じゃあ、なんだと思っていたか?音楽家も画家も彫刻家も、みんな自分のことを職人だと思っていたわけです。そもそも現在あまりに安易に口にされる「芸術」ってなんなんでしょう? 芸術でござい、とばかりに偉そうになったために、なにか新しいこと、奇抜なことをしなければいけなくなってしまい、思いつき任せになってしまって、音楽も絵画も彫刻もつまらなくなったような気がして仕方がないんですよね。
さて、以前にもちょっと書きましたが、
映画「シベールの日曜日」でクリスマスのミサのシーンと最後のシーンで流れるのが、このマルクァントワーヌ・シャルパンティエの「真夜中のミサ」というクリスマス用のミサ曲の一部です。この映画のおかげで、このシャルパンティエやアルビノーニの「アダージョ」を知ったのでした。あちこちのレコード屋を探して、このレコードを見つけたときはむちゃくちゃうれしかったですね。

ジャケットも昔のレコードは大きいから映えます。ジョルジュ・ド・ラトゥールとシュテファン・ロホナーの絵ですね。考えてみれば、北方ルネッサンスの絵が好きになったのはレコードのジャケットの影響もあったかもしれません。
さて、アルビノーニの方はそのうち、その大仰さにだんだん飽きてしまいましたが、シャルパンティエの方は全く飽きずに現在に至ってます。そのシャルパンティエの中で、特に大好きなのはこれ。3声のマニフィカトという曲です。
マニフィカトというのは、聖書のルカ伝にしかないんですが、聖母マリアが身ごもったとき、同じく洗礼者ヨハネを身ごもっていたエリザベツを訪問して歌う神への賛歌です。でも、身ごもったことを喜ぶ歌としては、このシャルパンティエの曲はちょっとメランコリックに響きます。まあ、他の、たとえば有名なバッハのマニフィカトも祝祭的面とともに、どこか憂愁をたたえた曲ではあります。
新川和江という女流詩人がいますが、この人の大昔の詩に「某月某日」という出産間近な女性のモノローグみたいな詩があります。
わたしの赤ちゃんが生まれるんだもの 生まれるんだもの
あしたは天気の悪いわけがない
鐘という鐘がいっせいに鳴らぬわけがない
と始まり、わくわくしている女の描写の後、出産の場面で一瞬の不安を感じ、最後に
〈坊や〉と彼女は落着いた声でつぶやいた
〈生といっしょにおまえは何を連れてきたの?/おばかさんねえ〉
と言いながら涙を流す、という詩で、なんとなく大昔に読んで以来、今に至るまで忘れられずにいましたが、今このシャルパンティエのことを書きながら、マニフィカトから、そんなものを連想しました。そう、最後は30歳そこそこで磔になって死ぬことになるイエスは生といっしょに何を連れてきたんでしょう?
まあ、それはともかく、このレコード、すり切れるほどよく聴きました。フランスのドミニク・ヴィスという今では超有名な「ソプラニスト」(一般に裏声の男性歌手はカウンターテノールというんですが、この人は自分のことをソプラニストと言ってます)の若い頃に録音したものです。その後CDの時代になり、あちこちの輸入レコード屋で探しまくったけど、シャルパンティエはたくさん「マニフィカト」を作っていて、もう一つ別の「マニフィカト」がCDになっていて、紛らわしいんだけど、この曲のCDはついに見つかりませんでしたね。(ちょっとネットで調べると、今はCD化されているようです)ちなみに、このレコードの演奏も YouTube にあります。演奏としてはスタジオ録音ですから上の実況よりは瑕疵がないんでしょうけど、上の方が映像的に舞台装置が良いですね。
他にもYouTubeにはいくつか、charpentier と magnificatで検索すると引っかかりますが、おおむね実況録音で音質が悪いのが残念です。また、こういう古楽にありがちですが、ピッチの違いも顕著です。もともと、この曲は、指揮者のクリスティという人がシャルパンティエの研究者で、たぶんこの人が発見したものだろうと思います。だから、このレコード(1980年録音)がシャルパンティエ死後では初めての演奏だったのではないかと思われます。
そのクリスティが指揮している実況演奏もありました。
こちらではヴァイオリンではなく、ヴィオールという小さなチェロみたいな古楽器が使われています。
三拍子の単純な繰り返しなんですが、もうなにか日常のつまらないことなんか全部、どっかへほっぽらかしてしまいたくなるような、そんなすばらしい曲です。
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