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シャルパンティエの「マニフィカト」

2011.11.16.07:56

今回のは満を持してのご紹介、というとちと大げさですが。。。いや、拙ブログを始めたときから、いつ紹介しようかと思っていた記事がいくつもあった(ある)んですが、今回のはその一つ。ただ、満を持して、の割には大したこと書けないですけど (>_<)

シャルパンティエという作曲家は有名なのが二人いるようですが、こちらはマルクァントワーヌのほう。典雅とでもいうのでしょうか。17世紀のバロック音楽の作曲家です。

そして、やっぱり思うのは、こうした17世紀の「芸術家」たちって、先日紹介したピンゼルもそうですけど、間違っても自分が「芸術家」だなんて思わなかったということです。じゃあ、なんだと思っていたか?音楽家も画家も彫刻家も、みんな自分のことを職人だと思っていたわけです。そもそも現在あまりに安易に口にされる「芸術」ってなんなんでしょう? 芸術でござい、とばかりに偉そうになったために、なにか新しいこと、奇抜なことをしなければいけなくなってしまい、思いつき任せになってしまって、音楽も絵画も彫刻もつまらなくなったような気がして仕方がないんですよね。

さて、以前にもちょっと書きましたが、映画「シベールの日曜日」でクリスマスのミサのシーンと最後のシーンで流れるのが、このマルクァントワーヌ・シャルパンティエの「真夜中のミサ」というクリスマス用のミサ曲の一部です。この映画のおかげで、このシャルパンティエやアルビノーニの「アダージョ」を知ったのでした。あちこちのレコード屋を探して、このレコードを見つけたときはむちゃくちゃうれしかったですね。
DSCF6610_convert_20111115133425.jpg

ジャケットも昔のレコードは大きいから映えます。ジョルジュ・ド・ラトゥールとシュテファン・ロホナーの絵ですね。考えてみれば、北方ルネッサンスの絵が好きになったのはレコードのジャケットの影響もあったかもしれません。

さて、アルビノーニの方はそのうち、その大仰さにだんだん飽きてしまいましたが、シャルパンティエの方は全く飽きずに現在に至ってます。そのシャルパンティエの中で、特に大好きなのはこれ。3声のマニフィカトという曲です。



マニフィカトというのは、聖書のルカ伝にしかないんですが、聖母マリアが身ごもったとき、同じく洗礼者ヨハネを身ごもっていたエリザベツを訪問して歌う神への賛歌です。でも、身ごもったことを喜ぶ歌としては、このシャルパンティエの曲はちょっとメランコリックに響きます。まあ、他の、たとえば有名なバッハのマニフィカトも祝祭的面とともに、どこか憂愁をたたえた曲ではあります。

新川和江という女流詩人がいますが、この人の大昔の詩に「某月某日」という出産間近な女性のモノローグみたいな詩があります。

 わたしの赤ちゃんが生まれるんだもの 生まれるんだもの
 あしたは天気の悪いわけがない
 鐘という鐘がいっせいに鳴らぬわけがない

と始まり、わくわくしている女の描写の後、出産の場面で一瞬の不安を感じ、最後に

 〈坊や〉と彼女は落着いた声でつぶやいた
 〈生といっしょにおまえは何を連れてきたの?/おばかさんねえ〉

と言いながら涙を流す、という詩で、なんとなく大昔に読んで以来、今に至るまで忘れられずにいましたが、今このシャルパンティエのことを書きながら、マニフィカトから、そんなものを連想しました。そう、最後は30歳そこそこで磔になって死ぬことになるイエスは生といっしょに何を連れてきたんでしょう?

まあ、それはともかく、このレコード、すり切れるほどよく聴きました。フランスのドミニク・ヴィスという今では超有名な「ソプラニスト」(一般に裏声の男性歌手はカウンターテノールというんですが、この人は自分のことをソプラニストと言ってます)の若い頃に録音したものです。その後CDの時代になり、あちこちの輸入レコード屋で探しまくったけど、シャルパンティエはたくさん「マニフィカト」を作っていて、もう一つ別の「マニフィカト」がCDになっていて、紛らわしいんだけど、この曲のCDはついに見つかりませんでしたね。(ちょっとネットで調べると、今はCD化されているようです)ちなみに、このレコードの演奏も YouTube にあります。演奏としてはスタジオ録音ですから上の実況よりは瑕疵がないんでしょうけど、上の方が映像的に舞台装置が良いですね。



他にもYouTubeにはいくつか、charpentier と magnificatで検索すると引っかかりますが、おおむね実況録音で音質が悪いのが残念です。また、こういう古楽にありがちですが、ピッチの違いも顕著です。もともと、この曲は、指揮者のクリスティという人がシャルパンティエの研究者で、たぶんこの人が発見したものだろうと思います。だから、このレコード(1980年録音)がシャルパンティエ死後では初めての演奏だったのではないかと思われます。

そのクリスティが指揮している実況演奏もありました。


こちらではヴァイオリンではなく、ヴィオールという小さなチェロみたいな古楽器が使われています。
三拍子の単純な繰り返しなんですが、もうなにか日常のつまらないことなんか全部、どっかへほっぽらかしてしまいたくなるような、そんなすばらしい曲です。


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comment

アンコウ
それはよろしゅうございました (^-^)

同じメロディの使い回しはいくらでもあるでしょう。H.76のマニフィカトは、ぼくも昔ひっかかりました。(×_×)
2012.04.02 08:09
CYPRESS
「H.73」、有りました!(^^)!。
買いました!(^^)!。

タワーレコードの通販で、去年の年末に発見。
これ↓
http://tower.jp/item/3021489/M-A-Charpentier%EF%BC%9A-Beata-est-Maria
本日山野楽器銀座本店で発見購入。
嬉しい事に1曲目!(^^)!。
売り場で探していた時、バッハの『音楽の捧げ物』を聞いていたおかげかねぇ!(^^)!?

EU製と書いてあるけどフランス盤に間違いないでしょ。
解説は仏語と英語。ラテン語の歌詞と仏語訳付き。
ルカ傳の一節だから日本語訳を調べるのは簡単で、問題無し。
このCDの7曲目
"Ad Beatam Virginem 'Hodie Salus'" H.340
の最初がH.73の一部と同じ。英語の解説を読んでも何も書いて無し。

ところで山野楽器の通販サイトに載ってるのも銀座本店に有ったんで買ったら、
「H.76」
で違いました。
「三声のマニフィカト」ですが、曲が違います。
参考↓
http://store.shopping.yahoo.co.jp/yamano/4105090419.html
このサイトには「三声のマニフィカト」とだけ書いてあり、「H.76」が書いてないので要注意。
CDの日本語解説には「H.76」が書いてあります。

日本のAmazonにはダウンロード用のMP3が有ったんですが、今日調べたらシャルパンティエの曲が1曲も無し(涙)。
尤も、私の様にウォークマンだとPCやOSを変えた時、CDに落としてないと転送出来ないのでMP3はちと面倒臭い。

山野楽器へ行った帰り、ついでに近所の教文館書店へ前から欲しかったラテン語訳聖書を買いに行ったら洋書部は日曜閉店だった(涙)。
2012.04.01 15:16
アンコウ
ockeghemさん、

こんにちは。なるほど、教えていただいたサイトで見ると、このレコードは1979年に出ているのですね。うーん。聴いてみたい。古楽って演奏者によってずいぶんとイメージが変わりますからね。

ただ、79年ということは、クリスティのレコードより前かなぁ?レコードは実家においてあるので今調べられないんだけど、そうするといよいよ、本文に書いたクリスティがこの曲を発見したなんていうのは怪しくなりますね。YouTubeでこの曲を検索すると実況録音がいくつかヒットします。きっとこれからもCD化されることがあるんじゃないかと思います。
2012.01.25 15:22
ockeghem
アンコウさん

ockeghemです。コメントありがとうございます。
そういえば、プロカンティオーネ・アンティクヮのソロはマルゴワールの指揮で、もう一曲はテ・デウムだったなという記憶を頼りに検索してみたら、フランスのサイトで中古のLPがヒットしました。

http://www.priceminister.com/offer/buy/67992058/Malgoire-J-C-M-A-Charpentier-Te-Deum-Magnificat-Trois-Noels-33-Tours.html

演奏者がばっちり一致していますので、このLPを放送したようです。残念ながらCDにはならなかったのでしょうね。探しても見つからないはずです。
なんとか取り寄せようと試みたのですが、フランス国外への発送はしていないようです。残念です。
今後、よい演奏が出てくることを祈るのみです。マルゴワ版は私にとって完璧な演奏だっただけに残念です。
2012.01.25 00:03
CYPRESS
オケゲムといえば、
『ミサ・プレスク・トランジ』
をウォークマンに入れてます。
これも天上的な声が響き渡り、ある意味、いかにも宗教曲であります。
2012.01.22 18:23
アンコウ
ockeghemさん、

初めまして。コメントをありがとうございました。ハンドルネームからしても、かなりコアな古楽ファンとお見受けします。合唱団バージョンのLPもプロカンティオーネ・アンティクヮの放送も知りませんでした。結構あるんですね。シャルパンティエの研究者のクリスティが探し出してきて再現した曲なんだろうと思っていたんですが、ひょっとしてもっと前から普通にあったのかもしれませんね。

今後とも、よろしくお願いします。
2012.01.21 12:10
ockeghem
こんにちは。徳丸といいます。ネットではockeghemというハンドルネームを使っています。
シャルパンティエの3声のマニフィカトをどうしても聞きたくて検索でやってきました。久しぶりに聞きましたが、とてもよい曲ですね。この曲が大好きです。
僕が持っていた録音、ノンサッチが出していた米国の合唱団の演奏(バイオリンの代わりにオーボエだったと思う)のLPと、バロック音楽の楽しみからエアチェックした、プロカンティオーネアンティカのメンバー(イアン・パートリッジ、ジェームス・グリフェット、マイケル・ジョージ)がソロをつとめた演奏で、後者が大好きでしたが、どうしても探し出せません。パートリッジはテノールですが、高音のパートをとても綺麗に歌っています。
このクリスティの演奏もとてもよいですね。久しぶりにこの曲を聴いて、とても懐かしく、うれしくなりました。
ありがとうございました。
2012.01.21 09:39
アンコウ
CYPRESSさん、

こんにちは、古楽の世界にもアジア系の人が増えましたね。上のやつはバスがウェスリー・チンという中国(系)のようですし、第二ヴァイオリンの女の子もアジア人ですね。

80年代に古楽器演奏が出てきた頃、楽器の演奏も歌い方もノンビブラートで、今にも音程を外しそうで、なんじゃ、このへたくそなのは!と思ったんですが、レベルも上がり、なんら違和感がなくなりました。

クリスティのマニフィカトのCDはドイツのアマゾンにはありますね。ただ、送料が結構かかるからなぁ。。。どこかに輸入CD屋ってないの?

http://www.amazon.de/Deux-Oratorios-William-Christie/dp/B00007EEK5/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1321754654&sr=8-1
2011.11.20 11:07
CYPRESS
一言抜けました。
ドミニク・ヴィスのCDですな、無いのは。
2011.11.20 02:47
CYPRESS
『三声のマニフィカート』はCD化されたようですが、絶版みたい。
Amazonにも無いし、ネットでさがしても引っ掛かりません。
2011.11.20 02:37
CYPRESS
一番下のクリスティのコンサートでヴィオールを弾いている方は上村かおりさんですね。
化粧がどう見てもバブルの頃の日本人なんで調べたら、やはり日本人だった(笑)。
2011.11.19 15:29
CYPRESS
久し振りに聞きましたが、いいね。記憶通りにいい。

曲自体もいいけどカウンターテナーの音域も非常に耳に心地いい。
こういう曲を聴くと人間の声がいかに美しいか、「魅力」と言うより「魔力」があるのが分かりますな。

このブログ始まって以来の良い記事です。この『三声にマニフィカート』が好きだから(笑)。
2011.11.17 00:15
あるふぁ
話がそれて申し訳ないですが
日本の特にJ-POPと言われるような連中が自分たちのことを
アーティストと呼んでることに違和感とともに怒りさえおぼえます
芸術とは対極の曲ばっかり歌ってるのに特にAなんとかのレコード会社なんかはね
すみません私も昔音楽を志してたもんでつい
2011.11.16 23:32

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アンコウ

アンコウ
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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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