8人の子供の母にして、脳梅かつアル中の作曲家シューマンの妻で、ピアニストにして作曲もこなし、その作品は若きブラームスに愛され、と、まあ、スーパーウーマンです。時代が時代だからね、メンデルスゾーンやモーツァルトの姉、マーラーの妻(もっともアルマ・マーラーの才能ってどの程度か知らんけど)みたいなもので、才能はあったけど、男の影にどうしても隠れてしまうって話になりがちなんだろうけど、さすがにドイツの閉塞した時代の女性を描いてきたブラームスの家系に連なる女流監督。ポイントはクララの解放かな。アマゾンのレビューでは史実に対する歪曲を非難する声が多いようだけど、監督の意図は史実を忠実に再現するなんてことではなかったんでしょう。本当のクララは解放されなかったんだろうけど、監督は意地でも解放させようと思ったんでしょうね。
映画としても魅力的なシーンがいくつもあります。たとえば、夫の代わりに練習でオーケストラの指揮をした後、草原を向こうからこちらへ走ってくるシーン。ベックリンに似たような色柄と構図の絵があったと思います。そういえば、最後のほうの仮面のシーンはアンソールか。
シューマンとクララが一緒になって指揮するコンサートシーンも、あんなことを本当にやったのかどうか、知らないけど、象徴的なシーンなんでしょう。クララの影に夫のシューマンが隠れて指揮するのは、シューマンの影に隠れていたクララの解放のイメージではないかしらん。ただ、本物のブラームスがあんなに露骨に言い寄ってくることはなかったでしょうね。最後のシーンも絶対にあり得ないシーンだと思うけど、クララの解放というキーワードで見れば必要なんでしょう。
クララ役のマルティナ・ゲデック、「良き人のためのソナタ」や「素粒子」なんかにも出てたけど、「マーサの幸せレシピ」でぴりぴりと気を張り続けて無理している女性の役がすばらしかった。ハリウッドの女優とは違って、アップになるとおばさんであることが一目瞭然、へんな化粧っ気がなくて自然で良いです。
しかし、こういう音楽家の映画ってどうしても演奏シーンのリアリティが気になってしまう。あ、これは弾いてないな、ってすぐにわかっちゃう奴もあるけど、この映画ではかなりリアリティがある。ホントに弾けるんじゃない?
むかしソ連映画の「クロイツェル・ソナタ」を見たとき、ブ男のバイオリニスト役の弾くバイオリンの演奏シーンが、もうむちゃくちゃすごくって、これって本物じゃない、あっちの俳優はすんげーな、って思ってパンフを見たら、なんのことはない、本職のバイオリニストがやっていた。だけど、激怒した夫に驚いて窓から脱兎のごとく逃げるシーンなんて、絶対素人技じゃない。向こうの音楽家は演技もすごい!
ところでクララ・シューマンの映画は、もう少し古い映画で邦題「哀愁のトロイメライ」という奴もありました。原題は春の交響曲で、こちらのほうが映画の内容と合っていたと思うけど。
まだ若いナスターシャ・キンスキーがクララの役をやった映画。ちょっとドキュメンタリー風の構図が多くて、大道具小道具に凝っていて、こちらはクララと、クララを独占したいステージパパの葛藤がテーマ。ここでシューマンの役をやった俳優はもともと音楽教育を受けていたと言うことでこれも本物。「Uボート」で従軍記者役をやった人でした。
パガニーニ役にギドン・クレーメル。ただし、クロイツェルとは違って台詞はない。この人のコンサートって昔行ったなぁ。アルヴォ・ペルトのフラトレスをやったのは覚えてるけど、他に何やったんだったか。。。ただ、アンコールで弾いた「魔王」のヴァイオリン編曲版。これは、ホントすごかったです。あのアンコールだけははっきり覚えているけど、メインで何やったんだったかなぁ。アンコールのすごさでメインが吹っ飛んでしまいました。
というわけで、クララ・シューマンの映画2本、どちらもそれなりにおもしろいです。
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