
例によって図書館で借りてきました。副題は「関東大震災の三日間」ですが、関東大震災での被災の状況ではなく、その後の一般日本人たちの朝鮮人に対する異常な恐怖と憎悪、呆れるような差別心のドキュメントです。小説と銘打ってますが、作者(この関東大震災を機に社会主義作家になったそうです)が実際に体験したドキュメンタリーと言えます。震災から1年半後に書き終えられています。
震災当日、作者は東京の郊外(といっても初台)に住んでいて、大きな被害には遭わないけど、2日目から朝鮮人が井戸に毒を入れたとか、暴徒化して乱暴狼藉を働いてると言う流言蜚語(デマ)が出回り始める。
作家で朝鮮人留学生とも知り合いの作者も、当初はそのデマを信じて家に閉じこもって怯えたりする。朝鮮人の暴徒に襲われ、知り合いの朝鮮人が助けてくれるという夢想・幻想すら浮かんだりする。だけど、他の人よりは遥かに早く、こうした話がデマであることを察知、知り合いの朝鮮人留学生を自宅に匿ったりする。
そうなると、もう怖いのは日本人の自警団である。暴徒が襲ってくるから武装して警戒しようと言う連中がまさに暴徒と化しているのである。朝鮮人とみなされた作者は姪の証言で日本人であることが証明される。しかし、自警団の連中は「安心したと言うよりも、むしろがっかりしたように立ち止まっていた。そして恨めしそうに(。。。)こちらを見送っていた。」(167)こんな話が山ほど出てくる。
デマは震災から1週間以上経って、警察がすで暴徒の話は流言蜚語であると言っているにもかかわらず、多くの日本人が相変わらず、朝鮮人が井戸に毒を入れているだの、ガソリンや爆弾を持っているだのと言うデマを信じているのにも、恐ろしいものがある。ここには当時の日本が朝鮮を暴力的に植民地化していたことが、ちょうど反撃に会うのを恐れているいじめっ子のように、逆の意味で暴発したのだろうし、多くの日本人が、朝鮮の植民地化で自分が偉くなったように勘違いして差別的な感性を持っていたこともあったのだろう。第一次世界大戦から5年しか経ってなかったし、戦場で武勲を立てることは美談だっただろうから、自警団もそうした武勲を立てたいという連中が多かったのだろう。デマは最初に警察が流したという説もあるが、そこに多くの日本人が容易に乗ったのはそういうことが原因だったのだろう。
おかげで震災時に崩れた家から赤ん坊を助けた高潔な朝鮮人留学生は、引き留める作者たちを振り切って、自分にはやましいところは微塵もない、自警団といえどもそれをわかってくれるはずだ、と言いながら都心の知り合いのところへ向かい、行方不明になる。
読みながら、
ナチス時代にユダヤ人を助けた人たちのことを書いた岡典子の「沈黙の勇者たち」を思い出した。市民的勇気(=市民として善をなす勇気)というやつ。ここに書かれているような状況で、はたしてそんな「市民的勇気」を出せるか? ただ、311でもその後の災害でも、関東大震災時のような大規模なデマが出なかったのは、時代の違いもあるが、多くの日本人にこの時の流言蜚語の知識がある程度根付いていたからではないか? だとすれば何度でもこうした記憶を反芻するべきなんだろうと思う。
しかし、最後の方に出てくる作者の言葉は、そのまま今でも都知事の小池や自民党の官房長官の松野に聞かせてやりたい。
「もとより今度の震災は歴史上稀なるものであるに違いない、(…)しかしそれはそうであるにしても、それは不可抗な自然力の作用によって起こったことで、もとより如何とも仕方がない。運命とでも呼ぶなら呼ぶがいい。しかし朝鮮人に関する問題は全然我々の無知と偏見とから生じたことで、
人道の上から言ったら、震災なぞよりもこの方が遥かに大事件であり、大問題であると言わなければならないと思う。」(p.285、下線はアンコウ)
日本人としての自分を律する意味だけでなく、ドキュメンタリー文学として、当時の雰囲気を感じさせ、ものすごい筆力だと思う。
関東大震災朝鮮人虐殺事件については、過去にも何度も書いてるので、興味があればこちらもどうぞ。
加藤直樹「九月、東京の路上で」覚書きEテレ ETV特集「関東大震災と朝鮮人」震災の被害者と虐殺された人の違いがわからない人たち加藤直樹「トリック」覚書き今日の東京新聞から、蟲に憑かれた人たち特に加藤直樹の「トリック」は、虐殺はなかったと言い張る連中の「根拠」が徹底的に潰されて爽快です。最近せやろがいおじさんもYouTubeで解説してますね。
***追記(9/23, 15:20)
少しだけ加筆しました。
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