
今日は(ってもう昨日になっちまったか)仕事が夕方からだったので、渋谷はイメージ・フォーラムであるドイツ人一族の歴史を描いた3時間半以上にわたる淡々としたドキュメンタリー映画を観てきました。
100年前の1912年に、14歳の監督の祖父が書いた強烈な反戦詩から始まり、それにつづけて、第一次大戦開始直後に同じ祖父が描いたとても微妙な愛国的な詩が朗読される。
この映画は監督のトーマス・ハイゼの祖父母、父母と三代にわたる一族の家族史を描いたドキュメンタリーである。一家の遺品である手紙や日記を、現代のドイツの旧東ドイツに属す地域のモノクロ画面にのせて(時々遺品の中の写真も映るが)、朗読するだけの映画である。
20世紀のドイツは第一次世界大戦、敗戦後の共産主義革命とその失敗、ハイパーインフレ、ヒトラーの台頭、第二次世界大戦と国土を戦場にした末の敗戦、そして戦後は東西に分けられ、特に東ドイツでは社会主義への理想が潰えていき、独裁体制下で密告社会となり、さらに冷戦の終結とその後の東西格差から排外主義的なネオナチの台頭、と20世紀の歴史の主役だったわけだけど、このドキュメンタリーではそうした歴史の決定的な瞬間はほとんど出てこない。
ベルリンっ子の祖父は共産党員で、ウィーンのユダヤ人の娘と結婚する。祖父は教師、祖母は彫刻家だったが、ナチスが政権を取るとユダヤ人はご存知の通り強制収容所へ送られ、多くが殺される。祖母はユダヤ人だったが夫がドイツ人だったために収容所送りは免れるが、父母や一族郎党はみな収容所へ送られる。この経緯が、収容所へ送られたユダヤ人の名簿を延々と移しながら、祖母の日記と祖母に宛てて書かれた親類の悲痛な手紙で語られていく。ドイツ人の祖父も妻がユダヤ人だったために公職追放される。そのときの不服申請嘆願書の手紙が下書きの形で、書き直した文面もかぶせるようにしながら、朗読される。
父はおそらく二分の一ユダヤ人としてかなり辛い思いをしたと思われるが、強制労働収容所を生き残り、戦後、恋多き女だった母と結婚して監督のトーマス・ハイゼが生まれることになる。しかし父は祖父の影響で共産主義者だったから東ドイツにとどまり、ベルリン大学で教鞭を取ることになる。
東ドイツも社会主義・共産主義の理想をお題目に唱えながら、ただの独裁国家、密告国家になっていき、父は徐々に政権から睨まれ、大学を辞めざるを得なくなるとともに、シュタージ(国家保安省。ナチス時代のゲシュタポみたいなものと考えれば遠くないでしょう)に監視される。
特に父はベルリン大学で哲学教授だったこともあり、旧東ドイツの著名な作家たち(主に反体制的)とも交流があった。そうした有名な作家も、東西ドイツ統一後には、シュタージの協力者だったと言われたけど、実は母も一時シュタージの協力者とならざるを得なかったことも、朗読された手紙からわかる。
そして映画は2014年、父はすでになく、母も介護施設にいる。おそらく今年中に亡くなるだろうと、淡々と監督のナレーションが入る。
最後のシーンを除き、ほとんどが手紙や日記、公的な履歴書の写しなどを、監督自身が読み上げていくという構成で、そこに流れるシーンは主に廃墟となっているかつての東独の廃墟と化した建物や、巨大な風力発電用の風車、鉄道や駅、無数のレールが並ぶ転轍場などで、ときどき語られている人物の写真がはさまる。
いろんな映画を思い出した。特に去年見た
「ある画家の数奇な運命」は時代と場所が完全に被るし、また、後半のドイツ統一後の旧東側の人々の心情は
「希望の灯り」(これもいい映画でした)を思い出した。
普通のドキュメンタリーなら、この映画に出てくる一族の日記や手紙の朗読に被せて、その時代の記録映像などをながすのだろうけど、それを全くやってない。上にも書いたように、祖母の兄弟が明日は強制収容所に送られるのかもしれないという不安を書いた手紙の朗読では、収容所に送られたユダヤ人たちの名簿が延々と(おそらく20分以上?)映し出される。普通ならアウシュヴィッツとかの、たとえば現在の映像とか、あるいはヒトラーの映像とか、当時のユダヤ人を映す映像とか、そんなものがでてきそうなものだが、まったくない。だから、20世紀のドイツのことを知らなければ、わかりづらいというのは間違いない。だけど、なんとも言えない余韻が残る。特に監督のトーマス・ハイゼは1955年生まれ。ほぼ僕と同じ年齢だし、祖父の生まれたのは1898年だというから、僕の祖父とこれまた同じ(僕の祖父は97年)。ただ父母は僕の父母より少し年上だけど、やはり自分の一族のことを連想せざるを得ない。
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