「君はちょうど八十二歳になったばかり。それでも変わらず美しく、優雅で、いとおしい。一緒に暮らし始めて五十八年になるけれど、今ほど君を愛したことはない。最近また、君に恋をした。」
最初と最後にこんな台詞が置かれたラヴレター。最後の文章は「僕たち二人とも、どちらかが先に死んだら、その先を生き延びたくはない。」
まあ、若い頃ならこんなことを言ったり思ったりすることもあるだろう。だけど、本当にそうなる可能性を考えた上で、こう言いきれるだろうか。ここで言われる「君」が不治の病で余命幾ばくもなくなった一年後、ふたりは心中する。
きっと世界中に数え切れないほどある(あるいはあった)愛の物語のひとつである。はたからみれば、なんともロマンチック、でも、人間80を過ぎて、連れ合いとの過去を思い出す時、こんな風に思い出せると、それはとても運が良い人生だったと言えるんだろう。
途中、というか、中間部分にはサルトルや68年という戦後フランスの思想界や政治に関わる話も出てくる。これらの事情について知識があったほうがきっとリアリティが増すんだろうけど、ただし、それがこのラヴレターを読むのに絶対に必要な知識ではないのは言うまでもない。
著者のゴルツはユダヤ系オーストリア人。ナチスによる蛮行に、自らの出自であるドイツ語を捨て、フランスに帰化して、主にフランスの左翼に近いところで活動してきたジャーナリスト・哲学者。ドイツ語を決して使わないとしながら、死ぬ少し前に、早世の名歌手キャスリーン・フェリアーの歌うドイツ語の歌詞に心を動かされる。切ない話である。
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