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映画「名もなき生涯」(完全ネタバレ)

2020.02.22.01:02

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まず最初に、拙ブログとしては、記憶に残る映画に出ていた俳優たちが目白押しで嬉しかったです 笑)主役のアウグスト・ディールは「マルクス・エンゲルス」でマルクス役をやり、「9日目 ヒトラーに捧げる祈り」では主役の神父に対するナチのエリートとして出てきた。そもそもこの映画と今回の「名もなき生涯」は似ていると思うけどそれは後ほど。ついでにこの「9日目」の主役神父役のウルリヒ・マッテス(「ヒトラー最後の12日間」でのゲッベルス役)も義理の父として出てくる。

ヒロインのヴァレリー・パハナー(パフナーと表記してあるけど、ブーフマンとシャハマンの違いだね 笑)も拙ブログでも紹介した「エゴン・シーレ 死と乙女」で、ヴァリー役で出てきていた。さらに先日亡くなった重鎮、「ベルリン・天使の詩」のブルーノ・ガンツ総統閣下 笑)も出てるし、村長役の「ヒトラーの偽札」のカール・マルコヴィクスなんかも、気がついた瞬間嬉しかった。

さらにさらに、「ゲーテの恋」「小さな独裁者」、あるいは「顔のないヒトラーたち」で元ナチの犯罪者たちを追う弁護士役だったアレクサンダー・フェーリングや、ハネケ監督の「ハッピーエンド」「未来を乗り換えた男」の悪党ヅラのフランツ・ロゴフスキまで出てきた。みんな特徴的な顔ですぐにわかる。

他にも「Uボート」や「手紙は覚えている」のユルゲン・プロホノフや「フランス組曲」のマティアス・スフナールツ(このベルギー人俳優もスーナールツなんて表記されてるけどね 笑)なんかが出てたようだけど、この二人は、残念、どこに出てきたのかよくわかりませんでした 苦笑)

監督のテレンス・マリックは「ツリー・オブ・ライフ」について書いたことがあったけど、その前の「シン・レッド・ライン」という反戦映画での、自然の美しさと人間の愚かさを対置するような作りに圧倒された。今回もオーストリアのチロル地方の自然の美しさがすごい。ハイジの世界(むろんあちらはスイス)のように坂だらけの地形でたっぷりと美しい山岳や草原の風景を写し、構図も坂の多い風景のせいか、不安定かつ広角レンズを使ったような歪みを使っていて、映画のテーマを暗示しているようです。

例えば処刑を待つ主人公は空を見上げる。その時小鳥の声が非常に印象的に聞こえます。そして処刑されたと思われる後のシーンに故郷の川が流れる。

例によって色々説明がないところが多くて、よくわからないシーンも多いんですが、今回は「ツリー・オブ・ライフ」のような幻想的な、夢のようなシーンはなく、ある意味わかりやすい映画です。というか、かなり明確に現代の社会の批判と言えるでしょう。

映画の内容は一言で言えば、信仰篤い農夫が自分が悪だと信じたヒトラーに忠誠を誓うことを拒否して死刑になるというもの。うん、どっかで見たと思うでしょう。確かに僕もいろんな映画を連想しました。例えば「ヒトラーへの285枚の葉書」ですね。あれも実話でしたが、この映画も実話。

また、最後の方はキリストの受難を連想しましたが、これについてはパンフにある町山智浩の解説が面白いです。裁判を統括するブルーノ・ガンツの役どころはピラトゥスであり、またフェーリングがやった弁護士は誘惑に来た悪魔だというのはなかなかの視点ではないかと思います。同様に町山が書く「沈黙」との類似性は僕も感じました。要するに、弁護士は主人公にヒトラーに対する忠誠なんか言葉に過ぎない、もうすぐ戦争は終わるし、形だけでいいから忠誠を尽くすという文にサインをすれば死刑にならずに済むんだ、と言うわけです。まさに形だけでも絵踏をすればいいんだ、とロドリゴを諭す井上様と同じで、主人公の信念(信仰)を惑わす悪魔の所業でもあるわけ。

ただ、信仰ということで言えば、僕は「9日目」でも書いたけど、正統的なクリスチャンは死を賭しても転ばないわけで、遠藤周作の異端性と言うのがわかるような気がします。無論転んだ者へ寄り添う遠藤の視点が、逆に正統的なクリスチャンにとっては新鮮だったのかもしれませんが。

主人公はヒトラーへの忠誠を拒否することで家族は村八分になるし、そもそもそんなことをしたって戦争が終わるわけではないし、彼の態度に心打たれる人が出てきて世の中が変わるわけではない。だけど、そこに崇高さを感じるし、彼がなぜ家族や子供を苦しめることになりながら、自らの信念に殉じていくのか、と言えば、拙ブログのモットーのガンジーの言葉を思い出させます。

「あなたの行う行動がほとんど無意味だとしても、 それでもあなたは、それをやらなければならない。 それはあなたが世界を変えるためではなく、 あなた自身が世界によって変えられないように するためです。」

これは上記の「ヒトラーへの285枚の葉書」の夫婦にも言えることでしょう。まあ、マリック監督の前の作品「ツリー・オブ・ライフ」の冒頭でもそうですが、何百年、何千年、何万年の時間の中では僕らの生などあまりにちっぽけなもので、そういう視点から見ると、愛だの憎しみだの、喜びだの苦しみだの、悩みだの希望だの、なんかどれもバカバカしくなりますが、そうしたちっぽけな人生を悔いのないように、自分の信じたものを裏切ることなく生きて死んでいった人たちがいたってことです。そして、彼らがその後の社会を少しでもよくするための防波堤になっているのかもしれません。映画の最後はジョージ・エリオットのこんな文言で締めくくられます。

「歴史に残らないような行為が世の中の善を作っていく。名もなき生涯を送り、今は訪れる人もない墓に眠る人々のお陰で、物事がさほど悪くはならないのだ」

最後に、音楽もいいです。多分神の存在を最も感じさせてくれる音楽だろうと個人的に思っているアルヴォ・ペルトが美しい山や森や空や川の風景の中を流れるかと思うと、主人公がいよいよ徴兵され、村を離れるシーンではバッハの「マタイ受難曲」の冒頭の合唱が流れる。この曲は十字架を背負って歩むキリストを描いた曲で、そういう意味ではもろ直球ですね。 

初日の新宿の映画館はほぼ6割ぐらいでした。3時間近いけど全く退屈することなく、何度か目頭が熱くなるシーンもあり、特にラストの妻のセリフがねぇ。。。 このモデルの奥さんは数年前に100歳を超える高齢で亡くなったそうで、旦那に再会できたかなぁ。。。

今回はリンクだらけ 笑)

追記(200223、12:00)
うーん、昨日もそうだったんですが、今日も折に触れて思い出します。しかも内容というより、一瞬の情景が繰り返し思い出されます。こういう映画ってやっぱり優れた映画だということなんでしょう。いや、あくまでも「僕にとって」という意味でですが。おそらく、もう一度見にいくだろうという予感があります。


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アンコウ

アンコウ
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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、クラシック音楽(特にバッハ)、友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎても困るが)。少し前から草食動物と化そうと「努力」しています。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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