
第三作目は「エレナの惑い」。これは話がわかりやすいし、映像的にも他の作品と比べれば、びっくりするようなことはしてない。前作のヴェラの祈りが絵画のような風景(僕が思い出したのは映画の「1984」の中で主人公が何度か思い出す美しい風景があったけど、それを連想した)だったのに対して、これはむしろ室内が圧倒的に多い。冒頭シーンでもそうだけど、室内の光と陰のコントラストが面白い。監督は映画ごとに画面の色調やカメラワークを変えてるんじゃないかなぁ?
主人公のエレナは50代半ばぐらいだろうか? 実業家の夫は70ぐらいだと思われる。それぞれ再婚で、それぞれに前の結婚での息子と娘がいる。夫が十年前に入院した時に看護師だったエレナと結婚し、都会の高級マンションに住んでいる。夫はスポーツジムに通い、バイアグラを飲んで朝からエレナを誘ったりして元気なんだけど、突然心臓麻痺で倒れる。とりあえず一命を取り留めるのだけど、遺書を書くと言い出し、財産は自分の娘に相続させ、エレナには遺族年金で生活できるようにすると言う。
エレナの息子は働く気もないどうしようもないクソ男だけど、そんな男にも家族があって15、6歳?の子供がいる。エレナはその子(=孫)をえらく可愛がっていて、大学へ裏口入学させようと考えている。しかしそのためには金が必要なのである。そこで、エレナはどうしたか。まあ想像できるでしょうけど、今回もネタバレはしません。
エレナが住んでいる都会の高級マンションと、息子家族が暮らす発電所のある町の狭く汚いアパートで、ロシアの格差社会を暗示し、そこに暮らす孫たち少年の生活もなんともやりきれないものがある。
エレナと夫は年齢相応に仲が良さそうに見えるが、唯一ぶつかるのがこの息子たちと、夫の方の娘のことだ。娘の方もこれまたどうしようもないクソ娘なんだけど、父親は彼女を愛していて、遺産を全て残そうとする。
冒頭の早朝の枯れ枝のカラスから始まって、小津安二郎か?っていうような人のいない室内を繰り返し写した後、エレナが目を覚まし、夫を起こして朝食の準備をし、二人向かい合って食事をするまでの10分ぐらいを、ほとんどリアルタイムじゃないか、っていうテンポで写す。このシークエンスはさすがにワンカットではないんだけど、後半、クライマックスのワンカットはすごい。あることを待つエレナの姿から台所であるものを燃やすまでの5分以上のワンカット。カメラの動きも、エレナの反応も、エレナの前で燃える炎のアングルも、そして何よりその難しいシーンを演じきるエレナ役の女優の演技力もものすごい。そういえばズビャギンツェフの映画の俳優たちの演技はみんなものすごいレベルの高さだと思う。
そしてラストは冒頭の枯れ枝のアップ。しかし冒頭と違ってカラスはいない。そして時刻は夕暮れ時だ。このラストも普通の映画ならどんでん返しが待っているはずなんだけどね。こうした終わり方ってロシア的なのかも。少し前に読んだチェーホフの短編に「谷間」と言うのがあったけど、あれもこんな感じだった。勧善懲悪とかつじつま合わせというものを徹底的に拒否している感じだ。
どこかの映画館でズビャギンツェフの特集か連続上映会でもやってくれないかしらん? ただ、陰々滅々だからなぁ。。。 笑)
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