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薬師院仁志「ポピュリズム」覚書き

2019.08.27.23:29

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ものすごくわかりやすくて面白かった。

ポピュリズムっていう言葉は今世紀になってやたらとよく聞く言葉だけど、どうも意味がよくわからない言葉だった。よく言われていたのは、この本でも徹底的に批判されている橋下徹だろうけど、最近では山本太郎までポピュリストのレッテルが貼られる。でも、僕の印象ではポピュリズムというのは扇動によって「ザマアミロ」と悪意を掻き立てる、というものだったから、山本太郎をポピュリストというのはどうも違和感があった。そういうわけで、この言葉のもっと正確な定義を知りたかったのが、この本を読んだ理由だ。

しかし面白かった。いろいろとアフォリズムと言いたくなるような文が出てくる。例えば、「多くの人々の『本音』が汚れていくとき、ポピュリズムが台頭する」(p.18)とか、「ポピュリストによる民衆扇動は、まるでパンドラの箱を開けるように、誰もが心に抱える負の部分に火をつける」(p.64-5)なんて、僕のポピュリズムという言葉のイメージとドンピシャで一致する。

この本によれば、ポピュリズムの定義としては、反エリート・反エスタブリッシュメントであることが第一条件である。ポピュリストたちはまず自分たちが国を支配する一握りのエリートに対して反旗を翻す人民の代表者であると自己規定する。そして、自分たちを批判する学者やインテリたちは人民の敵なのである。厄介なことに、彼らは「批判を浴びれば浴びるほど、人民の敵たるエリート層との戦いを演出しやすくなる。自分を批判するものこそ、非エリートたる人民の敵だ」(p.92)とすればいいのだ。

続いて、ポピュリストたちは論理的な議論は放棄し、人々の感情に訴える。人々が誰でも「心に抱える負の部分に火をつける」(p.65)。「中身を持たないポピュリストたちは(。。。)他者を否定することによってしか自分を肯定することができない」(p.83)。だから「架空の敵を作り上げる」(p.73)が、実際にその敵が存在してなくても構わないのである。「メディアを駆使して敵の幻影を膨らませることに成功すれば十分」(p.73)なのである。しかも、扇動には「中身のない旗印 ー「改革」がその典型ー を掲げるのが最も好都合」(p.163)なのである。

つまり、「現代型ポピュリズムは、『人民vs人民の敵』という二元論と、『デマと民衆扇動の結合』という2つの特性を持つことになる」(p.79)。ポピュリストの「こうした扇動は、民意に迎合した支持者獲得というよりも、むしろ民意を誘惑する信者獲得に近いであろう」(p.83) 。

この本ではこうしたポピュリズムがはびこる原因として2つのことが強調される。1つは民主主義が多数決だと勘違いしている昨今の風潮である。つまり、代議制民主政治というのは、「全国民の縮図となるように代表者を選び、議会で熟議を尽くし、合意形成を図ること」(p.101)であるはずなのだ。ところが、ポピュリストは「選挙を、国民の代表を決める手続きではなく、国民からの権力移譲を正当化する儀式に掏り替える」(p.84) 。 本来「普通選挙は、代表者を選ぶ手続きであって、権力を委譲する人物を定める手段ではない」(p.102)はずなのに。

選挙は我々国民の中から代表者を選ぶ手続きなのだ。だからこそ、今回のれいわのふなごさんや木村さんという重度の障害者が選ばれたことの意義があるのだ。去年(2018年)の記事だが、障害ある人は人口の7.4%だそうである。障害といっても様々だからこの統計は乱暴といえば乱暴だが、それでも国会議員の数は700人強。その7%は50人近くになる。障害者の代表としてこの二人プラス国民民主の横沢議員をで3人というのは少なすぎると言えるだろう。

閑話休題。このように民主主義が多数決だと勘違いすれば、まっとうな議論など封殺され、「多数さえ押さえれば、『悪』に政治的正当性を付与(。。。)することが可能となる」(p.115)のである。ここから先はもう全体主義へまっしぐらだ。

もう1つ、ポピュリズムがはびこる原因としてあげられるのが、小泉の頃から盛んに言われ出した「小さな政府」というキーワードである。これまた勘違いされることが多い言葉だが、本来の「小さな政府」は(。。。)単に官や公に所属する人間の数が少ないことではない(。。。)小さな政府と人件費が安上がりな政府とを混同してはならない。小さな政府は自由放任を旨とするものであり、強い力を持たないのである。独裁者が強大な公権力を握り、国民を全面的に統治するような体制は、小さな政府などではない」(p.105)のである。

山本太郎が政権を取ったらすぐにやるとした8つの緊急政策の中に、「公務員を増やす」というものがある。ところがこれがすこぶる評判が悪い。リベラルな人たちの間でもこれにだけは反対だという人が多いが、先進国の中で比べれば、日本の公務員数の比率は極めて低いのである。比較的比率の低いドイツでも日本の2倍の比率の公務員がいる。アメリカで3倍弱、スウェーデンなんか4.6倍だ。そして日本の公務員の給与は逆に突出して高い。本来、公務員の給与は民間の給与の基準とされるべきはずだと思うのだが?

何れにしてもこの「小さな政府」という言葉は影響力が強く、そこには橋下が盛んにやった役人批判の影響も大きいのだろう。要するに「安上がりの政府をつくることが『民』を助けることであり、それが『民』主主義だと」(p.108)勘違いされ、それは極端な話、「一人の為政者が最小の政府」で、「独裁者への全権委任が最も安上がりだ」(p.108)となりかねないのである。

つまりポピュリズムから独裁や全体主義まで想像以上に近い。

この本では他にも「リベラル」という言葉が日本では完全に誤解されていることや、トランプやフランスの国民戦線の巧妙なアジテーション、あるいは世界で最も民主的だとされたワイマール憲法のもとでヒトラーが生まれたことなども説明されている。

とてもわかりやすいしガッテンいく解説で多くの人に読んでもらいたいと思った。何れにしても山本太郎を「ポピュリズム」というキーワードで語ることの間違いは理解でした。


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アンコウ

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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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