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映画「サンセット」(完全ネタバレ)

2019.03.19.23:18

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「サウルの息子」の監督ラースロー・ネメシュによる第二作目。前の「サウル〜」の舞台がアウシュヴィッツだったのに対して、今度は1913年のブダペスト。この時代はオーストリア・ハンガリー二重帝国の時代です。オーストリアというのは今でこそ日本にニュースなどほとんど入ってこないし、大学生の中にすらカンガルーやコアラのいるオーストラリアと間違える人がいるような小国ですが 笑)、歴史的に見れば陽の沈まない大帝国だった時代もあるんですよね。そんな大帝国も19世紀半ばにはイタリアやプロシアとの戦争で連戦連敗でボロボロ、もともと中部ヨーロッパの大帝国だけに多言語・多民族国家だったから内部から崩壊しそうだったので、泣く泣くハンガリーと妥協してオーストリア皇帝がハンガリー王も兼ねる二重帝国となったわけです。まあ、これは心ある人たちからはクソ帝国(カカーニエン)と呼ばれていたようですが。

そして、そうした欺瞞にあふれたこのクソ帝国、この映画にも出てくる皇太子夫妻がセルビアで爆弾テロで暗殺されて第一次世界大戦が始まり、その敗北によって崩壊するわけです。だから映画の題名「サンセット」はそういう含意があるのは明らかです。

さて、「サウル〜」で圧倒されたのは主人公の後ろに張り付いて離れないカメラでした。シーンのかなり多くがサウルの後頭部の大写しで、その周辺の音響がすごく、周りの状況はピントが合ってなくてボケボケで、でも何しろアウシュヴィッツですから、周囲で何が起きているかは特別な想像力なんかなくても誰でもわかります。

この映画でもほぼ同じやり方が踏襲されていて、主人公の女性の後頭部のアップがかなり頻繁に出てきます。しかもハンディカムで、あまりスタビライザーを効かせてないみたいでやたら揺れます。そしてワンカットの長いこと。また登場人物たちがよく見極めがつかない。あれ? この人さっき出てきた人だよな、と思いつつ、誰だっけと思っているうちにもう話は先へ進んでます。

というわけで、主人公の娘は当時オーストリア・ハンガリー領土だったトリエステ(現在イタリア最東部)からブダペストの帽子屋へ就職しようと出てきた娘ですが、どうやら反政府グループの指導者となっているらしい実の兄を探して怪しげな場所に出入りしたり、兄が殺したと噂される貴族の家を探りにいったり、果てはその帽子屋へやってきたオーストリア皇太子夫妻と絡んだりしますが、結局兄とは何だかわからないまま、会うことができません。そう書くと迷宮的な、めくるめくようなおどろおどろしいカフカ的、ボルヘス的雰囲気を連想するかもしれないんだけど、むしろヴィスコンティ的な絢爛豪華な上流階級の雰囲気満載で、迷宮という言葉とは合わないかなあ。

というわけで何しろ主人公の後頭部ばかりで、画面の視野は狭いし、出てくる人たちが誰が誰だかよくわからなかったりするし、正直一度見ただけだとよくわからない。うん、僕もできればもう一度見たい。まあ、半年後のツ●ヤかな 笑) 

そうしてついに最後には暴動が起こります。主人公の娘の後頭部に張り付いて離れなかったカメラがここでお役御免とでもいうかのように離れていきますが、暴動の闇の中、立ち去っていく娘の後ろ姿はピントが完璧に外れてぼけぼけ。

そして突然画面が変わって、第一次大戦の塹壕の中になります。雨がザーザー降っている中、カメラが誰かの目になって、左右に疲れ切った兵士たちが寄りかかっている中をどんどん進んでいき、正面に従軍看護婦となった主人公の娘が、ここで初めて(?)カメラを正面から見つめ、ちょっとだけ微笑んで、映画は終わります。

だけど、これ何なんだろう? カメラの目は、本編の中でついに会えなかった兄なんでしょうか? それ以上に最後の娘の笑顔は、前作の「サウル〜」のラストを思わせるし、その時と同じくラスト暗転してからもずっと雨の音が聞こえるのも「サウル〜」と全く同じです。

正直にいって、「サウル〜」のような圧倒的な迫力と衝撃はありませんでした。個人的にも期待していたほどではなかったかなぁ。。。でも監督がこのスタイルをどのぐらい貫き続けるのか、ちょっと興味はあります。

音響効果が、周囲の会話や物音を拾ってそのまま流すようなやり方で、臨場感がものすごくある点は前作の「サウル〜」と同じです。音楽はシューベルトの「死と乙女」が繰り返し流れ、ああ、そういえば同じ時代の画家エゴン・シーレを描いた映画の副題が死と乙女だったっけと連想がつながりましたが、あちらは同じオーストリア・ハンガリー二重帝国でもウィーンで、この時代のウィーンを舞台にした映画な多いし、シーレやクリムトだけでなくフロイトやマーラーもウィーンで、それに対してブダペストを舞台にした映画ってあまり思い浮かびませんね。


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アンコウ

アンコウ
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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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