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オリヴィエ・ゲーズ「ヨーゼフ・メンゲレの逃亡」

2019.03.11.02:01

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ヨーゼフ・メンゲレ、アウシュヴィッツの死の天使と呼ばれた医師。過去様々な映画で悪の権化のモデルとして描かれ、戦後南米へ逃げ、とうとう逃げ切り天寿を全うした男。ダスティン・ホフマンの「マラソンマン」でローレンス・オリビエがやった「白い天使」は完全にメンゲレがモデルだそうだし、「ブラジルから来た男」ではグレゴリー・ペックがメンゲレそのものの役で出ているそうです(こちらは未見【追記参照】)。以前拙ブログで紹介した「顔のないヒトラーたち」は戦後のドイツで若い検察官たちがなんとかメンゲレを逮捕しようとして、一歩の差で逃す話でした。また「アイヒマンを追え」とか「検事フリッツ・バウアー」なんかも見てると、この小説がさらに楽しめるでしょう。特に「アイヒマンを追え」は作者のゲーズがシナリオに参加し、それが縁でこの小説を書くことになったんだそうです。

ところで、私はメンゲレと言われると、なぜかダーク・ボガードの顔がかぶるんですよね。

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左がメンゲレ、右がダーク・ボガード、って、並べるとあんまり似てないか 笑)

この人はアウシュヴィッツに到着した列車から降りてきたユダヤ人の選別をした人で、左へ合図すれば労働力として使え、右に合図すればそのままガス室へ(左右逆かもしれません)というのを自らやっていたそうです。また医者ですから医学実験に使える双子を集め、無茶苦茶な実験をいろいろやったそうです。つまり、ナチスとしてはゲルマン民族を増やしたいから、自在に双子が産めるようになれば人口が増えるわけで、そのための実験をしていたと言われています。

先日のT4作戦のパネル展示会でも感じたことだけど、医者ってのは良心を失うととんでもなく残酷になれるようです。何しろ人の死には慣れているわけですからね。ただ、この小説(!)ではそうしたアウシュヴィッツでのメンゲレの様子はほとんど出てきません。

仲介者を介してイタリアからアルゼンチンへ逃げ、たくさんのナチス戦犯たちとともに、偽名を使い分けながら、現地のナチス信奉者たちに庇護され匿われながら南米各地を逃げ回り、家族から見捨てられながら、最後に息子の非難にさらされるけど、後悔する事はついにないまま、ブラジルの海辺で心臓麻痺で死ぬまでを、かなり淡々と描いています。

しかし、こういう小説ってフランスからたくさん出てますね。ロベール・メルルの「死はわが職業」ではアウシュヴィッツの所長ルドルフ・ヘスを主役に据えた小説だったし、ローラン・ビネの「HHhH」はプラハでのナチスナンバー3のハイドリヒ暗殺を淡々と描いていました。この小説もこの「HHhH」の雰囲気があるかな。

あるいはここ何年かで一番圧倒された海外小説のジョナサン・リテルの「慈しみの女神たち」も、これは完全なフィクションだけど、元ナチス親衛隊の中佐の回顧という体裁をとった、実在の人物てんこ盛りのものすごい話で、作者はアメリカ人らしいけどフランス語の小説でした。

優秀な医者で、時代があんな時代でなければ、普通にどこかの大学で医学を教える教授になっていたのかもしれないし、普通に虚栄心や嫉妬心を持ち合わせた普通の人間として家族に囲まれ、普通の人生を終えたのかもしれない。だけど、とんでもないことをやらかした後も、何ら良心の痛みも感じず、アイヒマンと同じように命令に忠実に従っただけだと言い続けます。

アウシュヴィッツでの選別も、多くのユダヤ人をガス室に送らず救ったという論理で悪びれるところもなく、さらに、収容所を使って自分よりもうまい汁を吸った者がいるし、産業や銀行、政府組織が膨大な利益を上げていて、「制度がそれを奨励し、法がそれを許可した、殺人は国家の事業だったのだ」(p.157)と、全く後悔の様相なし。その上自分を匿ってくれた人たちに対しても感謝どころかバカにし、奥さんを寝取り、ダメだ〜こりゃ。

こうして描かれたメンゲレの生涯のあと、最後に著者はこんな言葉で小説を終えます。

「二世代か三世代が経過し、記憶が衰弱し、先の大量虐殺の最後の証人が去っていく頃、理性は陰り、一部の人間たちはまたぞろ悪を吹聴しはじめる。/夜の無限がどうか私たちから遠くにとどまっていてくれますように。/警戒、人間は影響を受けやすい生き物だから、人間こそ警戒すべきだ」(p. 239)

まあ、私が言いたい事は、またいつものことです。メンゲレは普通の人だったんですよ。それが空前絶後の悪を成した。メンゲレは私たちと違う人間ではなく、私たちだって、時代が時代ならメンゲレになったかもしれないってことです。まあ、私なんかはメンゲレみたいに優秀じゃないから収容所の看守程度だったことでしょうけど 苦笑)

登場人物も次々出てきて、どの人物が重要かが分かりづらく(私はメモしながら読むことをよくやりますが今回もそうしてみました)、正直に言って読みやすい小説ではないです。予備知識も、ちょっと偉そうに言ってしまえば、最初に書いた映画ぐらいは見ていた方が良いでしょう。

追記(2019年、3月22日)、このときは未見だったんですが、偶然TVで見ました。なるほど、グレゴリー・ペックの怪演ぶりはすごいわ。しかしここでのメンゲレの末路はやっぱりアメリカンな映画らしく都合よく描かれてます。どうもこういうところがね。アメリカ映画が好きになれない理由だな 苦笑)


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アンコウ

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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、クラシック音楽(特にバッハ)、友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎても困るが)。少し前から草食動物と化そうと「努力」しています。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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