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中村文則「逃亡者」から「公正世界仮説」について

2019.03.07.13:27

表題は東京新聞朝刊で連載中の小説です。現在ほぼ150回を超えたところ。中村文則らしくサスペンスフルなストーリーに、むき出しの現代社会批判が含まれてて、まあそういう所を小説らしくないと言うこともできるかもしれないんだけど、作者の思いは強く伝わってきます。何れにしても新聞小説というのをこういう風に毎朝欠かさず読んでいるのは記憶にないです。

昨日、今日(3月6日、7日)と「公正世界仮説」というのが出てきました。個人的には初めて聞く言葉だったんだけど、ウィキにも載ってますね。アメリカで実験結果から出された説のようです。以下、中村文則の小説の言葉で説明します。

「人々は、基本的に、この世界は公正で安全であって欲しいと願う。自分たちの世界が、理不尽に不条理に危険が存在する社会ではない方がいい。努力は報われ、悪いことをすれば罰せられる」

「だから広く広がる物語というものは、ほぼこの公正世界仮説に沿うように作られている。正義は勝ち、努力は報われ、悪は敗れる」

「だから物語では、(中略)何かの犯罪者が現れた時、その犯罪者にも過去に様々なことがあったり、同情すべきことがあったりすると、社会や人間という存在全体に関わる話になってしまう。だから犯罪者は生まれながらに特殊で、犯罪者的資質を備えた同情の余地のない悪魔と考えたくなる。そしてそういう犯罪者が罰せられると人々は安堵し、その安堵は時に快楽を連れてくる。罰した時に犯罪者にも同情すべきことがあると、モヤモヤとしたものが残りストレスだからだ」


これって拙ブログで言ってきたことと通じます。説ブログのモットーの漱石の言葉も同じことだし、拙ブログでは99.99%の普通の人と0.01%の悪人がいるわけではないと言ってきた(何回書いたか後で調べてみます 笑)のも同じことです。僕が死刑に反対だと言ってきたのも、南京事件やナチスの蛮行について書いてきたことも、すべて同じ土台をもとにしています。僕は言葉は知らないまま、この「公正世界仮説」というやつを散々批判してきたんだと膝を打った次第。

そして同時に現代の日本の社会を覆う雰囲気にも当てはまるような気がします。ここまであからさまに、露骨に、武田砂鉄の言葉を借りれば、「私たちは繰り返し、ねぇ国民のみなさん、これからあなたたちを騙しますからね、ほら、ほら、今、騙してますからねと公言」(「日本の気配」p.79)している政権に対して、ほとんどの人が無関心でいられるのはこの「公正世界仮説」というやつが働いている結果なんじゃないでしょうか?


この後小説ではさらにこんな風に続いていきます。

「気づいただろうか。公正世界仮説の危険は、この考えが人々の中で強くなりすぎると、弱者批判に転じることだ。世界は公正で安全だと思いたい。だから何かの被害者が発生すると、君にも落ち度があったのでは? と人は問うようになる」

「つまり死にゆく人間に公正世界仮説では「過失」を要求する。あんな失敗をしたから君は死んだというように。社会背景も消え、悪をなした人間は問答無用に悪人で(中略)公正世界仮説は社会の問題を個人に還元する」

つまり、自業自得という言葉であり、また21世紀に入って突然猛威を振るっている「自己責任」という言葉を支えているのがこの「公正世界仮説」と言えるでしょう。

そして結論です。

「つまり、公正世界仮説的な物語が世の中に広がると、その分だけ、世界や社会を改善しようと思う人間が減るのだ」

拙ブログで取り上げてきた映画や小説は、多分、あくまで多分だけど、この「公正世界仮説」を否定するものばかりだったような気がしてます。これに気がつくと、もう勧善懲悪の水戸黄門的ドラマや本は結構という気持ちになります。ただ、これを完全否定できない自分もいたりするんじゃないか、と思ったりしてね 苦笑)


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アンコウ

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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、クラシック音楽(特にバッハ)、友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎても困るが)。少し前から草食動物と化そうと「努力」しています。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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