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ナチスによる障害者虐殺パネル展示会

2019.02.01.22:33

東京は中野の東京都生協連会館で「ナチスドイツによる障害者虐殺『T4作戦』パネル展示&トークセッション」というのが今日明日と行われています。
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T4作戦については拙ブログでもなんどか書いたことがありました。今は絶版だけど、「灰色のバスがやってきたーナチ・ドイツの隠された障害者「安楽死」措置」という小説も20世紀に読んだことがあります。だからこのT4作戦についてはドイツでも有名な話なのだろうと思っていました。だけど実はこの事件について正式にドイツ精神医学精神療法神経学会がこれを認めて謝罪したのは2010年になってからだったそうです。

ナチスは政権を取った翌年の1934年から精神障害者や知的障害者の断種手術を始めます。そうした障害は遺伝的欠陥であると考えられた結果、40万人が断種させられたそうです。まず保険担当の役人や障害者施設所長による強制断種の要請があり、それに基づき判事が裁判所でそれを承認し、それに従い医師が手術を実行したわけです。

戦争が始まった1939年後半からは病気や障害のある人の登録が義務付けられ、40年からはT4というコードネームがつけられた障害者安楽死政策が開始されることになります。これは第三帝国秘密事業と称され、ヒトラーの命令書に従って内務省と法務省も関与します。この作成によって殺害された人数は20万と言われてきましたが、最近の研究では40万とか50万という数字も出ているそうです。

当然ナチスドイツの時代に一般人がそれに対して抗議することはできなかったでしょうが、カトリック教会がこれに反対の声をあげ、41年夏にはフォン・ガレン枢機卿(ローマ法王に次ぐ位階)が説教の中で障害者の安楽死を殺戮と明言し、これが直接的な引き金となってT4作戦は中止されます。

しかし中止された後も障害者の安楽死は密かに続けられ、医師や看護師たちによって飢餓殺や薬殺により、中止以後の犠牲者の数はT4作戦が実行された期間の数を上回るそうです。

そして戦後、この計画のトップの責任者は死刑になったものの、直接的に関与した医師や看護師たち、研究者たちはほとんど罪に問われることもなくその地位を継続し、天寿を全うします。そしてもっと残念なことに強制断種された犠牲者たちや安楽死させられた犠牲者たちの家族もこのことに口をつぐみました。

これらの被害者がナチの迫害の犠牲者であると認知されたのは1980年代に入ってのことでした。

パネル展示には被害者たちの写真や家族写真などがあって胸が痛みますが、一番見ていて辛かったのは、安楽死させられた障害者の家族への通知のところでした。障害者たちを安楽死させた事務官たちは、犠牲者の家族に「お悔やみの手紙」を出します。それぞれ一通一通違うものに見えるように装って、偽りの死因や死亡時の場所や日時、状況、死亡証明書と医師のサインなどを何万通もの通知を出します。彼らはどんな思いでそれらの通知を作成したのでしょう? 
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もちろん殺された障害者の痛ましさはいうまでもありません。でも僕らはここで、「この悪党どもはなんとひどいことをしたのか!」と怒るのではなく、「私だって同じ立場に立たされたら同じことをしただろう」と恥るべきなんだと思います。

同じようなことはナチスのユダヤ人虐殺は無論のこと、南京大虐殺だって同じでしょう。同じ立場に立たされたら、ほとんどの人間は彼らと同じことをします。もし私があの時代の精神神経科の医師だったら、強制収容所の看守だったら、南京に送られた日本軍兵士だったら、間違いなく同じことをしたでしょう。だから、そういうことをしないで済む社会にしなければならない。まあ、これは拙ブログでもなんども言ってきたことですが 苦笑)

会場では拙ブログでも以前書いたT4作戦に関するNHKの番組が流され、その後でその番組に出演されたきょうされん専務理事の藤井克徳さんが話をされました。その時に会場の質問者の方が日本の精神神経学会も戦時中もそうだし戦後も優生保護法のような悪法について反省すべきだし、それを働きかけるべきではないのか、という話をされました。
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ナチスがやった悪は日本の比ではない。それは間違い無いでしょう。犠牲者の数、その理念性、組織性、徹底性、どれを取ってもものすごい。だけど、それに対する反省の表し方の誠実さも日本とは比べ物にならないのではないでしょうか? 

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comment

アンコウ
伊丹さん、

こんにちは。この時の藤井さんの話では、ドイツで戦後すぐにはとてもそうした総括はできなかったそうです。当事者がみんな死んで、やっとこの件、まさに学会の負の面を取り上げることができるようになったと。なぜ、もっと早くできなかったのか、と問うた藤井さんにドイツ精神医学精神療法神経学会の会長は、だって彼らは私たちの恩師であったのだから、とても恩師を糾弾することなどできなかったと言ったそうです。

同じようなことは白水社で出ている「ヒトラーの裁判官フライスラー」でも、戦時中ナチスのために無茶苦茶な判決を書いた裁判官たちは戦後になっても糾弾されることなく、法務の仕事を全うすることができたそうです。

まあ、日本では父祖のやったことを糾弾すると、怒り狂う人たちがたくさんいますからね。触らぬ神に祟りなしと、ほっかむりしてしまうのでしょう。
2019.06.08 17:54
伊丹
久しぶりにお邪魔してます。ドイツ産婦人科学会もNS時代の産婦人科学会のかかわりについて大きなシンポジウムを開いています。別にドイツ礼賛ではないですが、日本はこういうことにまったく無頓着というか、歴史を振り返らなすぎますね。1985年のWiezsaecker Redeを聞くと本当に感激するのですが、日本に戦後あのような政治家が出たことはなかったような気がします。
2019.06.08 11:15
アンコウ
あるふぁさん、

コメントをありがとうございます。講演でも語られていましたが、有名な松沢病院では戦時中に精神病患者は餓死させられた歴史まであるそうです。松沢病院と餓死でググると以下のような文言のある長野さんという方が書いた文章が引っかかりますね。

「ナチスのユダヤ人虐殺に先立ち、「精神障害者」や身体障害者が組織的に虐殺されていたった歴史同様に、日本でも精神病院入院中の患者は食料不足のまま放置され餓死し、そしてあるときは意識的「処分」までされたのである。」(「聖戦」と「精神障害者」http://nagano.dee.cc/warandps.htm

それを、遅きに失したとは言え、精神神経学会として総括し反省し謝罪するドイツ。一方日本は? これが美しい国ニッポンの実態であります。
2019.02.03 14:04
あるふぁ
日本じゃ戦後に障害者の避妊手術が行われてますね、ひどいものです
各省庁の障害者の勤務数の嘘、殺さないだけでやってる事は50歩100歩
2019.02.03 07:38

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アンコウ

アンコウ
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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

* 時々コメントが迷惑コメントとしてゴミ箱に入れられることがあるようです。承認待ちが表示されない場合は、ご面倒でも書き直しをお願いします。2017年8月3日記す(22年3月2日更新)

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