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Ch.ブラウニング「普通の人びと」とそこから思うこと

2018.06.08.22:51



漱石の「こころ」に「普通の人が悪いことをするから人間は恐ろしい」というようなセリフがあります(正確ではありません)。それ以来、僕は「善」と「悪」という分け方をするものが大嫌いになりました。

この本も読むのに随分時間がかかったんですが、なんともやりきれない話です。30代40代の警察官が警察予備大隊としてポーランドに送られ、ユダヤ人を女も幼児も含めて大量虐殺するのに加担した話で、著者は当事者からの聞き取りによってそれを検証していきます。

普通のよき父、よき夫たちがなぜ? こればかりはそう簡単に答えは出ないし、答えを単純化させることもできないでしょう。ただ、大切なのは、このような場に置かれたら、自分も必ず同じことをしただろうと自覚する必要があると思うし、さらにはこのような場に置かれるような社会にならないようにしなければならないということでしょう。


ここまでは、ほぼ、某FBグループに書いた文章なんですが、昨日CS放送で「アイヒマン・ショー」という映画を放送していました。以前に見たことがあったので、見なくてもいいかな、と思いつつも、クリテリウム・ドゥフィネまで時間があったので、最後の方をつい見てしまいました。1960年台前半にイスラエルで行われたアイヒマンの裁判については、拙ブログでも何回か書いたことがあります

テレビマンがアイヒマン裁判を世界に向けて放送する姿を描いているんですが、最後の方にものすごい違和感を感じるんですよね。彼らは何とか良い絵を撮ろうとし、アウシュヴィッツの記録映像を見るアイヒマンの姿を見ながら、なぜ座っていられる?なぜ黙っていられるんだ!とイライラする。そしてアイヒマンが自分の罪を認めることにつながるわずかな言葉を捉え、これでアイヒマンを有罪にできると喜ぶシーンで映画は終わります。

アイヒマンは怪物ではない、誰でも彼になる可能性がある、というようなセリフが前半の方であることはあるんですが、最後の方は、いわゆる「凡庸なる悪」アイヒマンをよってたかって追い詰める快感を、見るものに感じさせようとしているような作りになっています。

だけど、イスラエルの現在を見るとき、まさにイスラエルの高官たち自身がアイヒマンになっているではないでしょうか?

アイヒマンを始めとしたナチスの犯罪行為の数々を見るとき、映画「否定と肯定」で弁護士がアウシュヴィッツへ行って言うセリフ「「恥を感じた。もし自分があのような立場に立たされたら、自分だって同じことをしただろう」こそ、僕らが考えるべきものではないのかと思うのですが。


このところ、子供を殺した夫婦がニュースになっています。わざわざいうまでもなく痛ましい話で、マスコミが伝える殺された子の反省文を読めば胸が締め付けられ、こちらの頭がどうかなりそうになる。当たり前のように、みんながみんな鬼のような親だと非難する。でも、と僕は思う、彼らが自分の子供を殺すようなところに追い詰められたのはなぜなのか、それをしっかり考え、そうならない社会を作ろうとしなければ、こういう事件は今後もいくらでも起こるだろうと。

最後に、勘違いしないでほしい、と書いておきます。例えば死刑は廃止すべきだと言うと必ず被害者やその家族の気持ちを考えないのか、というなんとか一つ覚えのような反応が来ます。だけど、犯人と被害者の人権は一枚のパイではないでしょう。パイのぶん取りあいのように、犯人の人権を主張すれば被害者の人権が凹むと考えている人が、この世の中には多すぎる。だけどそれぞれの人権は別の次元の話でしょう。今回の事件を見て、親を鬼とか悪魔と非難するのは簡単です。でも、それだけでは、こういう事件はいくらでも繰り返される(実際繰り返されてきた)と、僕は思うわけです。そしてそう考えることが、殺された子供のことを考えていないということにつながるものでないのは、言うまでもないことです。


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和氣正幸
突然のコメント、失礼いたします。はじめまして。
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貴ブログを拝読し、ぜひ本が好き!にもレビューをご投稿いただきたく、コメントさせていただきました。

本が好き!:http://www.honzuki.jp/

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名前の通り「本好き」の方がたくさん集まって、活発にレビューを投稿して交流をされているサイトですので、よろしければぜひ一度ご訪問いただけましたら幸いです。

よろしくお願いいたします。
2018.06.13 15:07
アンコウ
あるふぁさん、

アベノミクスとやらが、どう考えても現在の格差社会をなんとかしようと考えているものではなく、もっと格差を広げることを目指しているのは間違いないと思うし、それによって国民の分裂を図っているのも間違いないと思いますね。

これによって人々の気持ちが不寛容なトゲトゲしたものになっていくでしょうし、死刑制度はそうした人たちの怒りのはけ口になっていくのでしょう。

いや、僕だってもちろん罪を犯した人間を許せ、なんて言うつもりはありません。法を犯せば当然罰せられるべきです。ただ、死刑はあまりに突出した刑罰なんですよね。
2018.06.10 22:23
あるふぁ
昔は貧乏人の子沢山なんて言葉がありました
貧乏でも暮らせたってことですね
今はよっぽど金持ちじゃないと子沢山なんて無理そうですね
何を持って豊かになったと行っているのでしょうね
働き方改革なんて言ってるけど内容は企業の人件費の節約のお手伝いの働かせ改革ですね
死刑については私も反対です、死刑にするより、刑期の間中、毎日反省と被害者と被害者家族に謝罪をさせる、今は人権とか言ってそんなことにはならないんでしょうね
犯罪を犯した人に、謝罪と反省をさせるのは当然なことだとお毛んですかどね
あ、脱線ばかりですいません
2018.06.09 23:11

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アンコウ

アンコウ
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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

* 時々コメントが迷惑コメントとしてゴミ箱に入れられることがあるようです。承認待ちが表示されない場合は、ご面倒でも書き直しをお願いします。2017年8月3日記す(22年3月2日更新)

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