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映画「手紙は覚えている」 危険! 完全ネタバレ

2018.01.19.01:29

この映画はネタバレしたら面白さは半減ですので、観てない方は絶対に読まないように。そしてもし可能ならこの映画を観てから読んでくださいませ。

いや、驚愕のラストという映画は色々あることでしょうけど、これほど衝撃的な終わりはあまりないです。その点ではどなたにもお勧めできます。鬱エンドがダメという人は除く 笑)

**以下完全ネタバレです**

現在のアメリカ、90歳になる主人公ゼヴは認知症を患っていて、半年前から夫婦で施設に入所していましたが、1週間ほど前に奥さんを亡くしています。この主人公の老人をやってるのがサウンド・オブ・ミュージックのトラップ大佐のクリストファー・プラマー。寝ていて目がさめるたびに、必ず「ルース」と先立ってしまった奥さんの名前を呼びながら起きるんです。これがなんとも辛い。

奥さんのユダヤ教による服喪があける行事で、ゼヴもその息子もユダヤの帽子をかぶっていて、どうやらユダヤ人の一族であることがわかります。そして同じ施設にいる車椅子のマックスから、アウシュヴィッツの看守長で自分たちの家族を殺したルディ・コランダーという男に復讐するという約束を果たせ、と言われます。

ところが認知症のゼヴはその約束をしたことを覚えてない。そこでマックスが全てやるべきことを一部始終手紙に書いてゼヴに渡します。ゼヴは施設の職員のいない隙をついて、マックスが手配したタクシーに乗り込み、計画を実行しようとします。

復讐すべき相手はルディ・コランダーの偽名で元囚人のふりをしてアメリカへ逃げたとされ、その名前の人間はアメリカとカナダに4人いて、ゼヴは途中で拳銃を手に入れて、一人ずつ会いに行くんですが、これが一種のロードムービーみたいで、電車や長距離バスの車内からの風景も美しく、うたた寝して目がさめるたびに「ルース」と亡き妻の名を呼ぶ老人の姿に、なんとも胸がつぶれる思いがします。

一人目のルディ・コランダーはブルーノ・ガンツがやっていて、元国防軍の兵士でロンメルの元で戦ったことがわかります。二人目は寝たきりの老人でアウシュヴィッツにいたと言いますが、看守ではなく同性愛で収容されていたことがわかり、これもハズレ。三人目はすでに3ヶ月前に亡くなっていて、その息子の州警察の警官にもてなされますが、やはりアウシュヴィッツの看守ではなかったことがわかります。で、この息子がハーケンクロイツの旗を壁に貼り、ヒムラーの写真を飾っている、絵に描いたようなネオナチ野郎で、ゼヴはユダヤ人の正体がばれて罵られ、犬をけしかけられて彼を撃ち殺してしまいます。

ついに四人目のルディ・コランダー、本名オットー・ヴァリシュのところへ。これが「Uボート」でヒゲ面の艦長をやったユルゲン・プロホノフ。多分かなり老けメイクをしているのだと思いますが、最初見たときは誰だかまるでわかりませんでした。名前を見てかなりのショックでしたね 笑)

さてこのコランダーがゼヴとの再会を喜んでいるように見えるんですね。このあたりから、あれ? これは何かあるな、と思わせます。いや、それ以前のところでゼヴがピアノでワーグナーを演奏するんですね。いうまでもなくワーグナーはユダヤ人にとっては憎むべき作曲家でしょう。ワーグナー自身は無論19世紀に死んでますから迷惑な話でしょうけど、ヒトラー始めナチが一番もてはやした音楽家ですからね(無論ワーグナー自身も反ユダヤ的なことを言ったり書いたりしています)。

さて、ゼヴはコランダーに、家族の前で自分の正体を正直に言えとピストルで脅し、そこに行方不明の父を探していた息子も到着、クライマックスとなります。

で、ホントのホントに、完全ネタバレです。

ピストルを手にコランダーに迫ったゼヴは、コランダーからゼヴこそがオットー・ヴァリシュであることを告げられます。二人ともにアウシュヴィッツの看守長でたくさんのユダヤ人を殺し、戦後、二人で囚人番号の刺青を彫り合って逃げたということがわかります。ゼヴはコランダーを撃ち殺し、「思い出した」(これがこの映画の原題)と言って自殺します。

施設ではこの事件を報じるニュースを見ながら、マックスが全ては自分が仕組んだ通りに進んだことを知るわけですが、その表情は満足感とは程遠いものです。

話としてはとてもうまくできていて、何しろ主人公のクリストファー・プラマーは目がさめるたびに「ルース」と亡き奥さんの名前を呼ぶので、思いっきり感情移入。なんとかうまくことが運べばいいが、と思うわけです。だから三番目のコランダーの場面ではネオナチ野郎を撃ち殺すシーンも、第三のボスキャラをやっつけた感じで、いよいよ本丸へ、と気持ちは高ぶります。で、最終ボスキャラかと思ったら、探していたのは実は自分だったなんていう正邪逆転の大どんでん返しですからね。

ただ、見てしばらく経ってみると、マックスが全てを操っていたというのが今ひとつ面白くない。おそらく冒頭の約束というのも、実際にはしていなかったのでしょう。だから、マックスがゼヴの認知症につけ込んで、最初から全てを仕組んだ上でのことだったのでしょう。

それから認知症と言っても、自分のナチ時代を丸々すっぽりと忘れるなんてことがあるのかどうか。途中、クリスタルナハトというナチの暴虐事件のことは覚えていたりするわけですから、ちょっと都合良すぎない?って感じもあります。また、息子もユダヤ教徒であることがわかりますが、ゼヴはユダヤ人ではなかったわけで、戦後アメリカへ渡ってユダヤ人のふりをしてたのでしょうけど、変な話、割礼はどうしたんでしょう? 息子の様子から見れば、熱心なユダヤ教徒のようなので割礼しているわけでしょうけど、お父さんは??

確かにドストエフスキーの小説によく出てくるように、嘘をつき続けた人間が自分のついた嘘を真実であると信じてしまうことってあるのかもしれないけど、それでも認知症だからといって、戦前の記憶がフラッシュバックしないはずはないと思うんだけど。と、映画の粗探しっていうのはあまりすべきではないかもしれないんですけどね。

途中ピアノを弾くシーンが2回出てきて、一つは上に書いたようにワーグナーを演奏するんですが、クリストファー・プラマーはもともと音楽家になりたかったそうだからものすごく達者なものです。しかし、その前に、彼がメンデルスゾーンを弾くシーンで、彼のピアノの先生がユダヤ人だったことが暗示されているので、ゼヴことオットー・ヴァリシュ及びその家族はユダヤ人に対して反感を感じてはいなかったということなのでしょう。だけど、たとえそうだとしても、アウシュヴィッツの看守長になれば、たくさんの人を殺さなければならなかった。そしてうまく逃げ、そして忘れた。

ナチに限らず、戦争という「国家」が始めたことに、「個人」が巻き込まれていく時のおぞましさを感じさせられます。文句もいっぱいつけたけど、でも素晴らしい映画でした。



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アンコウ

アンコウ
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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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