「朝まで生TV」に出演した村本大輔という芸人が叩かれているらしい。僕は「朝生」は21世紀に入ってからは一度も見ていないし、この人の芸も見たことがない。だから本当は何も書いてはいけないのだろう。だけど、あちこち孫引きされて文字になっているニュースを読む限り、彼の発言が叩かれることについては、正直に言って不思議な気分である。
やり取りを見ていないから文字ニュースから取ってくるしかない。というわけでヤッフーニュースから一部をコピペする。
……
村本さんは1月1日未明放送の「朝生」で憲法論議。憲法9条2項を「読んだことないです」としたほか、「僕は全部それ(戦力、交戦権)放棄した方がいいかなと思うんです」と「非武装中立」を主張。「なぜ中国とか北朝鮮が日本を攻撃するという発想になるのかわからない」と疑問を述べた。
司会の田原総一朗氏が「米軍と自衛隊がなかったら、尖閣(諸島)は中国が取りに来る。取られていいわけね?」と尋ねると、村本さんは「僕は取られてもいいです。明け渡します」と返答。「(中国が)『沖縄ください』と言ったらあげるんですか?」と問われると、村本さんは「もともと、でも中国から取ったんでしょ?」と返していた。さらには「敵を殺さないと自分が殺される状況に置かれたらどうする」と聞かれ、村本さんは「殺されます。だって誰かを殺すわけでしょ?」とも述べている。
…出典
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180103-00000010-jct-sociこれについて漫画家の小林よしのりが文句をつけているのだが、この漫画家、最近では安倍政権批判を強め、リベラル側からずいぶん持ち上げられているらしい。だけど、僕はこの人が現在のネトウヨ的社会を生み出した張本人の一人だと思っているから、彼が何を言っても、何を今更という気持ちが強い。
さて、この芸人が憲法を読んだことがないというのは論外。憲法を読んだ上で発言すべきだ。これは憲法がらみの話をしたいのなら絶対的な前提条件だと思う。だから僕はこれまでにも、憲法を変えることに賛成か反対かを問う世論調査には、まず最初の質問として、「あなたは憲法を読んだことがありますか?」というのを入れなければ無意味だと書いてきた。ただ、これはこの芸人さんの「かまし」かもしれないけど。つまり、憲法を読んでない普通の人の意見として言ってみた、ということかもしれない。
ただ、僕もこの人と同じように「なぜ中国とか北朝鮮が日本を攻撃するという発想になるのかわからない」という意見には全く同意だ。
さらに田原総一郎の質問もひどいものである(この人は11月頃に、今月中に安倍首相は北朝鮮との対応に歴史的なことをやりますよ、と大風呂敷を広げていたが、その後、この件について、どこかで何か発言しているのだろうか?)。尖閣は石原が諸悪の根源、あんなことを言いださなければ、そして野田がそれに乗らなければ現在のような面倒な事態にはなっていなかった。
いまからでも遅くないから、1970年代に両国で話し合っていた尖閣棚上げ論に戻すべきだが、ネトウヨ程度の思考法しかない安部が首相である限り、それは多分無理だろう。
さらに「(中国が)『沖縄ください』と言ったらあげるんですか?」という質問もどうかしている。中国政府が沖縄を中国の領土だなどといったことは一度もない。中国が沖縄をよこせなどと言うはずはないだろう。そもそも、中国が沖縄をよこせと言ったら、沖縄は中国領になるのか? この辺り、リアルに考えてみてほしい。中国は、沖縄は日本から独立した方がいいと言っただけだ。それは沖縄の歴史を考えた時、一理ある話ではある。しかし、一方で村本がいうような「中国から取った」というのはもちろん言い過ぎである。
ただこのやり取りの内容以上に、僕は田原総一郎の質問の出し方が、現在の日本の無教養・反知性を煽るような(無教養・反知性の風潮に乗るようなというべきか)やり方だと不快になる。つまり、あれか、これかしかない質問の仕方をしているのである。「敵を殺さないと自分が殺される状況に置かれたらどうする」という質問など、その典型である。
例のマイケル・サンデルの白熱教室で、こういう無茶苦茶な極限状況を設定して、正義はどちらかなんて言うことが流行っているけど、こういう質問の出し方を複雑に入り組んだ現実社会の問題に当てはめて単純化するのって不毛だと思う。
死刑反対というと、じゃあお前の家族が殺されても死刑反対と言えるのか、という反論をする人がたくさんいるけど、これもバカバカしい仮定だ。そもそも被害者の親族はみんな加害者の極刑を求めているかのように言うけど、そうではない人もけっこういる。ただし、それはニュースにはならない。それ以前に現在日本の殺人事件はアイルランドと並んで先進国では最小だ。さらに既遂の殺人件数は380件程度。北朝鮮のミサイルが自分の上に落ちてくる心配をするのとよく似ている。ここには北朝鮮の危険性を必要以上に強調しアピールし続けている安倍政権のやり方と同じ、事態の極端化、センセーショナル化がある。
同じように、9条をなくすと某国が攻めてくるって、あまりに単純化しすぎではないか? そもそも他国を侵略と言うとナチスドイツが思い浮かぶけど、そのナチスドイツだってアーリア民族の生存圏を確保するために戦争を始めた自衛の戦争というのが名目だ。
だから、そう考えると、逆説的だけど憲法9条がある限り、どの国も「自衛」を口実に日本を攻めてくることはできない。
無論これをもって今すぐ自衛隊を解体しろなんて言うつもりは全くない。そこまで「冒険しろ」と言うつもりはない。しかし、憲法9条は現在の実態がどうあれ、いつの日が人類が実現するべき理想が書かれているのである。いつの日か、非武装国家という理想を実現できることを願って、憲法に文字にしておくことが大切ではないだろうか? そして、この理想を手放したら人類はどうなるのだろう。
というわけで、「なぜ中国とか北朝鮮が日本を攻撃するという発想になるのかわからない」という村本の言葉は、勉強不足とかいう言い方で終わらせるのではなく、もう少し冷静に考える価値のある台詞ではないかと思う。
以前書いたこちらも併せてどうぞ。
「憲法9条があると日本を守れない?」
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