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清水潔「『南京事件』を調査せよ」

2017.03.24.11:20



図書館で予約してから随分待った。南京虐殺を否定する人たちを見ていて、前からずっと思っていたのは、南京事件の証言をしている元兵士たちが沢山いるのに、ということだった。この否定する人たちは彼らを嘘つきだというのだろうか?

この本の中には数冊の日記まで出ている。兵士が日記を書くということが不思議だろうか?しかしドナルド・キーンさんは太平洋戦争に従軍して、死んだ日本人兵士の日記を読むことを仕事にしていたのは有名な話だ。日本軍は、世界的にも珍しいらしいが、兵士に日記をつけさせることを奨励していたそうである。さらに多くの証言がビデオやテープに残っている。

こうした当事者の話を、南京事件がなかったと言っている人は、一体どう考えるんだろう? 上に書いたように、元兵士たちが嘘をついているというのだろうか? 確かに従軍慰安婦を強制徴用したと嘘をついていた吉田某という著述家もいた。しかし、あんな人が何人もいるだろうか? あの吉田某は著述家で、嘘でも売れればよかったのだろう。ネタとして嘘をついたのだろう。だけど、本にするわけでもない一般の元兵士たちが嘘をつくだろうか? しかも自分たちは沢山の無抵抗の人たちを殺したという嘘を、である。常識的に考えれば逆だろう。そんなことやってないという方が普通の嘘だ。(ついでながら、吉田某が嘘をついたところで、それで従軍慰安婦がなかったということにならないのは、右派の秦郁彦ですら、これを持って強制連行がなかったと言えるわけではない、と言っている通りである。これについても以前書いたことがある。)

もし彼らがみんな嘘をついている(いた)のだ、とそれでも言うのなら、つまり、日本にはかなりたくさんの自虐的な嘘をつく人間がいる(いた)ということになる。嘘だと主張する人たちは、それでもいいのだろうか? 自虐的な嘘をつく人が、世界でも稀なほど沢山いる「美しい国」ニッポン!

細かい検証(調査報道)は、もう、この本を読んでもらうしかないが、虐殺に関わった元兵士の幾つかの話が心に残った。

「何万という捕虜を殺したのは間違いねえ(。。。)俺は生きて帰って、しゃべって、それから死にてぇなと思ってたんだ…」(85)

これを語った人もすでに故人である。命令だったんだから逆らえなかった。当たり前である。こうした兵士たちを責めるような人は、僕を含めていないだろう。だって、もし自分がその兵士だったら、と思えば、逆らえるはずもない。


当たり前の話だが、戦争は被害者を作るが、加害者も作る。若松孝二の「キャタピラー」では、主人公の夫は戦争に取られて両手両足を失うが、冒頭に描かれたように、中国大陸で少女を強姦して殺している。彼は被害者であるとともに加害者でもあったわけだ。この両面を見なきゃだめだよ、と若松孝二監督は言いたかったのだろう。




この本の中の元兵士たちのこんな言葉も心に残る。

「『なかった』というのは、本当は、あったことを知っているから言っているのだと思います。知っていて、それでも『なかったことにしたい人』が言っているんじゃないかと思います」(203)

それでも否定派に限らず、多くの一般日本人の間に広まっているのは、中国は30万人という数字を主張しているが、そんなに殺したはずはない、という言説である。確かにこれはもうわからない。ナチスはウクライナのバビ・ヤールというところで3万人以上のユダヤ人を殺した時、その数字を端数に至るまできちんと数え上げていた。さすがに日本人にはそんな偏執狂的なところはなかったようで、殺した人間の数などわからない。

確かに「白髪三千丈」の国だから大げさに言ったのだというのは説得力がありそうな気もする。しかし、100歩譲って半分だったら15万人、さらに1000歩譲って、10分の1だったと仮定したら? しかし、30万でも15万でも3万でも同じだろう。

「死んだのは、そしてこれからまだまだ死ぬのは、何万人ではない、一人一人が死んだのだ。一人一人の死が、何万にのぼったのだ。何万と一人一人。この二つの数え方のあいだには、戦争と平和ほどの差異が、新聞記事と文学ほどの差がある」(堀田善衛「時間」新潮文庫p.57)

正確な数はいつまでたっても絶対にわからない。だったら、日中の学者が集まっておおよその数を推定していくしかないだろう。そのためにはまず日中の関係がもっと良くならなければダメだろう。

例えば、日中国交回復した時、周恩来は日本人民も被害者だと言って、責任を追及するようなことはしないと言った。日中の関係が一番良かった時期だ。なのに、今頃になって原田義昭元文部科学副大臣は「南京大虐殺や慰安婦の存在自体を、我が国は今や否定しようとしている時」なのだ、と記者団に語る。ラジオ番組に出てきて「捏造だ」と言ってしまう。これじゃあお話にならんだろう。


ベルリンの壁が壊れる前にTVで、北朝鮮から亡命した青年たちのインタビューを見たことがある。彼らはエリートで東ドイツへ留学したのである。電車の中で、胸につけている金日成バッチについて誰だ? と質問され、誰も将軍様のことを知らないことにショックを受けたと言っていた。それぐらい彼らは国内で洗脳されていたのである。

南京大虐殺や慰安婦のことをなかったなんて言って、それを日本人に信じさせたところで、上記の北朝鮮の青年の時代とは比較にならないほど世界は狭くなっているのだ、世界に出た時に大恥をかくことになるだろう。


さて、戦後生まれの僕ら個人に責任はない。当たり前だ。ただし国家は別だ。国としての罪を認めて謝罪するのは当たり前の話である。そして、僕ら個人に責任はない、と言っても、だからどうでもいいというわけにはいかないのも当たり前である。結局、僕ら個人としてやるべきことは、この本のあとがきにもある言葉に行き着く。

知ろうとしないことはやはり罪なのだ。(273)


南京事件について興味があれば、こちらの過去記事もどうぞ。
堀田善衛「時間」など
辺見庸「1☆9☆3☆7☆」

……
同日13:20加筆修正しました。

……追記 2017,3/25……
東京大空襲についても書かなくちゃならないだろうというコメントをつけてくれた方がいましたので、コメントに少しだけ書きました。こちらも一緒に読んでいただけると嬉しいです。

……追記 2017,3/26……
この記事に不満で、南京虐殺なんて嘘だ、一方的な意見しか見てないという人もいるかもしれませんが、まずはこの本を読むことをお勧めします。様々な「まぼろし」説に、具体的かつ信頼性のおける証拠を提示した上で反論しています。例えば陸軍の公式記録はほとんど残されていません。残っていて、そこでこんな事実が書かれていなかったなら「まぼろし」論も信ぴょう性を得ることでしょう。しかし、資料はないのです。破棄されたのです。だからなかったなんていうのは、資料を無くしちまったもの勝ちの話でしょう。将来、北朝鮮が開かれた国家になった時に、拉致問題の資料がないから、そんなことはしていないと言われて納得しますか?

この本の中に、ほとんど消滅してしまった公式資料の中で奇跡的に残った「第66連隊第1大隊の戦闘詳報」の「虐殺は軍の組織的命令だった」ことを明らかにする文書の紹介があります。これなどはこの文章を捏造だというのなら、もう何も検証できないでしょう。

何れにしても、この記事に不満の方は、まずはこの本を読んでもらいたいと思います。決して一方的な方向から書かれているのではありません。


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comment

アンコウ
私の書いたことをちゃんと読んでますか? それとも長すぎて 笑)理解できないのでしょうか? 文章の長い短いがどうして批判の対象にされるのでしょうか? そして長い文章を反省するようにって、笑うしかない。

口はばったいけど、学問というのは多くの人々が検証に足るものを少しずつ積み上げてきたもののことを言うのです。陰謀論や謀略史観で分かったような気になってはいけません。先人の積み上げてきたものに対するリスペクトが「教養」と呼ばれるものです。

あなたは南京へ入った兵隊たちがみんな野宿していたと思っているのでしょうか? 室内で日記をつけたの当たり前でしょ?? 飢餓と病気に苦しめられた戦争後半の南洋戦線とごっちゃにしているんじゃないですか? 戦場のリアルすら想像もできずに、思いあがっているのはあなたの方。ゲームじゃないんだよ、戦場は。

まずはこの清水の本を読んでみましょうね。そしてその後笠原十九司の「南京事件論争史」も読んでみましょう。http://tatsuya1956.blog48.fc2.com/blog-entry-3012.html 私はもうすでにあなたと同じようなことを書いてきた人たちとは何度もやりあってきています。http://tatsuya1956.blog48.fc2.com/blog-entry-2997.htmlもう一度同じようなことをやるのはうんざりですので、これが最後です。今後はよっぽどまともなことでもかんてこない限り消去しますが、あしからず。
2020.12.19 21:58
歪曲歴史認識修正学派
およそ学問・歴史認識は、長さと量にあらず、中身ですよ。歴史認識左翼は不必要に長い文が多い。反省するように。南京攻略戦当時・とうちは、雨天多かったとの由。携行日記が、万年筆のインク書きにて、"にじんでいない"のは、極めて不自然。特にNNNで紹介された「陣中日記」は、極上捏造品の可能性おおきいですね。白表題紙に何らの汚れ痛み剥がれていないのは、室内捏造品の証ですね。さらに、公表:「資料批判」を封殺しているとは、真贋はおろか、中身に何が記載されているかも検証が不可ということですよ。
思いあがっていますね。
2020.12.19 19:39
アンコウ
歪曲歴史認識修正学派志望者 さん、

同じコメントを2つもらったので一つは消しましたが、あしからず。

ハンドルネームの仰々しさにちょっとビビったけど 笑) コメントを見たら、アホらしく、いっそ二つとも消そうかと思ったけど、こういうのってただの嫌がらせだから、そういうのに対する抑止効果としても返信をするべきかと思い、ここに書いておきます。

まず、この本を読んでないのがバレバレですよ。この本の87ページ以降に、あなたが書いた疑問に対する答えが書いてある。万年筆については88〜9ページに詳しく書かれている。原本不提出・不公表?? とんでもない。この本に写真が載っているし、著者が預かっている。

これでおしまいにしてもいいんだけど、もう少し書いておきます。

あなたの書いたこととほぼ寸分変わらない文書をFBでも書いてきた人がいた。同一人物ですか? 違うでしょうね。おそらく想像するに、どこかのネトウヨサイトにテンプレートがあるのでしょう。しかもおそらくはこの本が書かれるより前に作られたものでしょうね。あなたのコメントは要するにただの「嫌がらせ」であって、真実を究明しようとするものなどでは全くない。名前に「学派」などと入れるのもおこがましい。

それから「吉田清二」って誰? 吉田清治ですよ。つまり、吉田の本も読んだことがないですね? 多分見たこともないでしょう。お貸ししましょうか? あなたがイメージしている左翼の作家では、全くないですよ。少なくとも自分で読んだ上で判断するのがまず最初の一歩でしょ??? 
2020.12.14 18:43
歪曲歴史認識修正学派志望者
小野賢二氏 集めたる「幕府山第56連隊陣中日記」は ゴーストライターの産物?
記載者全員偽名、なぜだか万年筆✒️記録。常にインク瓶補充?鉛筆記載が 当然では。
第2の「吉田清二?」。さらに原本不提出・不公表。筆跡いかん?
17-9名 全員が インク万年筆とは 不自然ですね。小中学生の夏休み宿題日記ばりに 誰かが 一括一度書きしたのでは。
齢90代で 仮名なれば 検証難あり。
2020.12.13 18:29
アンコウ
コメントをくれた方へ、匿名であっても、せめて何か名前はきちんと名乗りましょう。それがコメントするマナーです。

このコメントの意図は、日本軍の非道を書くなら、バランスをとるためにアメリカ軍や中国軍の非道もかけ、という意味に解しましたが、違うでしょうか?

まずは、あなたはこの本を読んでないのだろうと推測されます。この本の中には中国軍による一般日本人の虐殺事件についてももちろん語っています。戦争では被害者にも加害者にもなるのです。しかも、自分の意思ではなく、命じられてそうなるのです。

私の今年89歳の父は疎開していましたが、87の母は世田谷に住んでいて兄弟7人とともに家族で逃げたそうです。母の兄弟の長兄はもうなくなりましたが、予科練で、もう少し戦争が長引けば特攻隊へ送られたのかもしれません。

東京大空襲について語れ、とのことですが、一言で言って、。あんな無差別爆撃が戦争犯罪でないはずはありません。

● しかし、戦後になって日本国は、あの時の無差別爆撃の軍最高責任者のカーチス・ルメイに、勲章を授与しています。

この事実は無論ご存知ですよね? 

日本人としては許しがたいことではないでしょうか? 勲章を与えたのは小泉元首相の父親だってこともつけそえておきます。

広島や長崎はいうまでもなく、各都市の空襲はいうまでもなく戦争犯罪で、日本人はその被害者でした。この事実を知らない日本人はいないでしょう。東京大空襲の死者は8万とも14万とも言われています。

しかし、これをアメリカの若者たちがそんなに多いはずはない。せいぜい8千、いや、写真も残ってない(石川カメラマンが写した写真しかないのだから)せいぜい100人ぐらいだろう、みんな疎開していたんだから、東京にはそんなに人がいたはずはない、そもそも東京に残っていた人間は軍事産業に関わって兵器を作っていたのだ、兵士と同じだったのだ、なんて言い出したら、日本人はどう感じるでしょう。

もちろん戦争による被害の面を強調したくなるのは人間として当たり前です。加害者の面は目をそらしたくなる。記事の中で映画「キャタピラー」について書きました。この本を読むのが嫌なら、せめてこの映画ぐらい見ることをお勧めします。
2017.03.25 08:50
次は310の
東京大空襲についてでも語ってください。
2017.03.25 06:50

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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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