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中野好夫のエッセイ集 「悪人礼賛」

2016.12.12.22:01



図書館で借りてきて、先ほど読み終わりました。感心したので、アマゾンで注文したところです。

著者はすでに30年以上前にこの世を去った名翻訳家。主に敗戦直後から70年代までに書かれた短めのエッセイを集めたものだけど、あちこちに指摘される戦後の社会に対する批判が、今の社会に対する批判として読んでも完全に通用してしまうのが恐ろしい。

「超国家主義の勢力拡張時代」にそれを「心から積極的に支持していた国民は」少数派だったはずなのに、そして陰で軍部の専横を批判する人もずいぶんいたのに、「いたずらに面従腹背の市民たちが、卑屈の沈黙と心にもない権力追従を続けているうちに、ありもしない恐るべき国民の総意なるものが、いつの間にか作り上げられてしまっていた」(218ページ)

これなど、現在の日本、平和主義を国是としていたはずが、なし崩しに戦争のできる普通の国になりつつあるのに、多くの人たちが黙っている現在の日本の雰囲気につながるのではないか。

「かつて1931年ごろから日夜僕らの意識の中に流し込まれた「非常時」というスローガン」は「結局はその陰に隠れて、狂信的ミリタリストたちが彼ら自身の独裁を不抜のものたらしめるための、巧妙極まるプロパガンダであったことは、あたかも世界中に常に戦争危機の空気を振りまいて歩くあの「死の商人」たちの陰謀と同断であったことなど、今では中学生でも知っている」(207ページ)

これだって、中国が攻めてくる、北朝鮮がミサイルを日本に撃ってくるという不安をかきたてるマスコミのこと思い出す時、そのまま当てはまる言葉だ。私のコメントにも時々書き込んでくるネトウヨ(あるいはネトウヨまがい)の連中が言う中国脅威論を、大喜びしているのは「死の商人」とその周辺の利権あさりに余念がない連中だろう。

「現実が真理を作るという風に人は考えやすいが、これは甚だしい迷妄であり、むしろ狡知巧妙な扇動政治家たちのやり口というのは、必ずまずこうした言語の呪術性を利用して、一定必要な心理状態を作り上げ、それから逆に現実を作為的にでっち上げていく(212ページ)

他にも、「漫談・前島熊さんのキツネ哲学」というエッセイには笑った。前島熊さんという変人の話で、彼にはそれぞれの人の後ろについているキツネが見えるというのである。それらのキツネには上中下のランクがあり、偉い人が上のキツネがついているとは限らないという話など、現在の日本の権力者たちの無様で嘘つきで厚顔無恥な姿をみると、あいつらみんな下のキツネがついているんだろうと思えてくる。

それから、独特の死生観も、ちょっと池田清彦の死生観を連想した。それぞれのエッセイで話題になっている事柄は確かに戦後すぐの時代のもので、今となっては昔のことになってしまったんだろうけど、社会に対する考え方、姿勢という点で、まるで古びていない、それどころか、今こそ必要な見方ではないかと思う。



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comment

アンコウ
ミニさん、

こんにちは。まったく同感です。特にジャーナリズムは危機感を煽った方が売れるので、どんどん過激化します。さらに安部になってから顕著になったマスコミ統制により、社会はどんどん不安になっていく。普通の犯罪だってそうですよ。残虐な事件が増えた、凶悪犯罪が増えたと騒ぐけど、実態は昭和30年前後(私の生まれた頃)の殺人事件数は今の3倍以上だったわけです。せっかく中野好夫の本を紹介したところにコメントをいただいたので、この本から引用します。

「例えばこの巨大複雑な近代社会の動きのだね、仮に一面的ニュースばかり ― 何も必ずしも虚報だというんじゃないんだよ。ある意味じゃ確かに事実なんだもんね ― そいつを実に根気よく作為的に大衆の中に流してやる、そして他方都合の悪いニュース事実は全部抑えるとするね。いいかね、こうした目に見えぬニュース統制が一、二年間も続いてみたまえ、世論なんてものはどんな風にでも形成されると思うんだな」(192ページ)

そうですね。安部なども一等国という言葉こそ使わないけど、同じことを言ってます。無理して、あちこちに歪みが出ても、日本は一等国でなければならない、とばかりに。これも中野のこの本からの引用です。

「小国、三等国、決して自尊心を傷つけるものではない。例えば北欧3国など、軍事的にいえば決して一等国、タイ国とはいえないであろう。だが、その中で私たち日本人など考えも及ばぬ平和で高い生活が築き上げられていることは、戦後初めて多くの日本人も知ったはずである」(291ページ)

昭和の時代、日本は北欧みたいな福祉国家を目指していたはずなんですがね。古典的な用語ですが資本家が金を儲けたいと思うのは仕方がないんでしょうけど、一般労働者がその味方をして、金持ちをさらに金持ちにさせ、権力者たちにはさらに大きな権力を与え、自分たちは中流から滑り落ちていく、あるいはいつ滑り落ちるかと不安を感じているというのが21世紀に入ってからの日本社会だと思えます。

ミニさんがおっしゃる韓国・朝鮮や中国との過去に対する日本の態度も、これまたまったく同感です。拙ブログで何度も書いてきたんですが、いつまで謝罪すればいいんだ、という人がいますが、そういう人には、あなた謝罪したんですか?と問いたい。そもそも謝罪すべきことが何なのか、あなた知っているんですか?と。安倍にも問いたい。あの人も多分本当に真面目に知ろうとしたことはないんじゃないかと思えるから。

日本人が殺した韓国・朝鮮、中国の人たちの数と、その逆の数を比較してご覧なさいと言いたい。少なくとも20世紀に入ってから、その数を想像するだけでも、僕ら日本人に負い目があることは間違いないし、それを本当に謝罪していればともかくも、なかった、やってない、なんて言うのまで沢山いる。それも政府の要職に就いているような奴らまで。

逆の立場だったら、例えば、北朝鮮が日本人の拉致などしてない、以前謝罪したのは親父の間違いだとキムジョンウンが言い出したら、僕ら日本人はどう思うか、その程度の想像力を働かせれば十分この問題で、僕ら日本人がとるべき態度は明らかだと思うんですがね。戦後生まれの僕らが謝罪する必要はないかもしれない(と僕は思います)が、しかし、知らないでいることは許されないと思います。
2016.12.19 09:52
ミニ
あるふぁさんとアンコウさんのやり取りに勝手に頭突っこんですみません。


最近、陸続きの大陸人と海をはさんだ島国人との気質の違いのようなものを考えています。他国や他民族からの侵略をひんぱんに受けたりしたりしたかどうかの違いです。中国人はもちろん、朝鮮人も前者で、日本人は後者ですが、イギリス人は後者なのか、と言えば当然違いますね。すると、地理的に大陸と海を隔てているだけでなく、対外姿勢として好戦的な民族が近くにいるかどうかが重要なカギを握っていることになります。
朝鮮はもともとそういう侵略的性質を持たない上に、中華思想を持つ中国でさえ、朝貢して適当に付き合っていれば手出しはしてきませんでした。元は漢人の中国とは違いますし。結局、日本は辺境の島国だったからでしょう。

私はそういう点で、非常に楽観的に見ています。
日本は歴史的に見ても、侵略国にはなりえても被侵略国にはなりえない、と。日本には、あえて侵略してまで手に入れるような価値あるものはないでしょう。資源? 技術? 土地? 労働力? めぼしいものは何もありません。貿易を拡大し、資本を呼び込んだ方がずっと利益になります。
どっかの島だって、海底の資源がほしいなら、共同開発すればいいだけのことです。政治家と軍人と軍事産業が、自分たちの儲けのために国境の問題とかで国民の愛国心を変に煽って利用した歴史は、十分に学習済です。
どうでもいいような国境付近で、双方の肥大化した軍事力が覇を競っているうちに、不測の事態が起こることの方がはるかに危険です。第二のノモンハンが起こらないとも限らないでしょう。
安倍のプーチン招待は意味不明の茶番でしたが、その北方領土だって、明治中期以降の植民者である旧島民とかではなく、もともとの住民であるアイヌへの返還なら筋が通ります。自然環境のためにはむしろロシアが支配し続けた方がよいです。その点で、遠い小笠原諸島は参考にはならないでしょう。

軍事や外交や政治の専門家で、本気で北朝鮮や中国の侵攻を考えている人はいないはずです。危機感を煽っていろいろな利益を得るためにやっているだけでしょう。右翼マスコミももちろんその口です。
煽られて恐怖のあまり、防衛費をどんどん増やして自衛隊を増強しろ、米軍基地や自衛隊に反対する者は「非国民」で「反日」だ、とか叫ぶネトヨやその同類は何をおびえているのか、よくわかりません。漱石ではないが、無理して一等国であり続ける必要はないのです。
国内に異なる意見の者のいない、完全に単一色な全体主義国家でないと不安なのでしょうか。多分、彼らは学校時代でも、ちょっと毛色の違った者へのいじめに励んでいたのでしょう。自分に自信のないことの現れです。普通なら、他人と同じことを恥じるはずなのですが、文科省の右に倣えの官製国家主義教育の見事な成果の一つです。

彼らは、1931年から日本が始めた先の侵略戦争も、自衛のための戦争で正当だと言う認識らしいですから、知性や理性の入り込める世界ではなく、いわばオウム真理教と同じような信仰の世界に生きているのかもしれません。頼まれてもいないのに、よその国の土地へ出かけて行ってやる戦争は侵略戦争以外には分類のしようがないと思うのですが。
日本が、朝鮮や中国で国家としてやったのは、例えれば隣家に押し入っての強盗殺人および強姦殺人ですから、親類縁者に被害者のいる二代や三代で忘れ去られる罪ではありません。歴史的教訓として語り伝えられる性質のもので、100年や200年は謝り続けなければならないほどの罪です。
満足に謝ってもいないのに、70年くらいたったから忘れろなんて虫のいい話は世界に通用しません。日本人だって核兵器がある限り、ヒロシマ・ナガサキはあと100年たっても言い続けなければなりません。
ですから、被害者たった一人の現代の殺人事件で、すぐに死刑を! と叫ぶナイーブな復讐主義者は朝鮮や中国の言い分にまず素直にうなずくべきでしょう。

日本人のこのヒステリーな怯えぶりは最近の健康志向とも関係するかな、とも思います。テレビを見ても食べ物の話だらけ、ダイエットや健康・清潔志向は異常な感じです。死に近づいた病気がちな高齢者が不安を抱えて、というならわかるのですが、若い人の方がはげしい。煙草に対する態度も首をかしげたくなるほど容赦なし、です。
日本人は、生物として末期状態に入ったのか、ともチラと感じます。

本来は一部の社会階層の意識であったプチブルの不安感が、外向きの排外主義となって国民全体に広がっているのかもしれません。外に向かっては偏狂な排外主義、内に向かっては、少数弱者に対しての非寛容で差別的な攻撃。
悪意と憎悪に満ちてギスギスした日本社会の現状は、余裕のない貧しい格差社会の産物なのでしょうか。
金持ちケンカせず、心豊かであれば、他者への無用な非難はしないものです。温和で美しい昭和を知る者には現状は実に不愉快です。
結局、経済的・社会的な没落感・閉塞感と自信喪失感が集団的ヒステリーの背景にあるように思います。トランプを選んだアメリカも似たようなものかもしれませんね。
2016.12.19 00:02
アンコウ
あるふぁさん、

こんにちは。まあ、常識で考えれば中国だって北朝鮮だって戦争を仕掛けてくるはずないでしょうにねぇ。そもそも日本に何のために攻めてくるの? でもそういうことを言うと、お前は中国の覇権主義を知らんのだ、ノーテンキなやつだ、と言われちゃうわけです。そうやって「死の商人」を喜ばせているわけ。

しかし、そういう人たちってどうしたいんでしょうね? 日中関係、日朝関係を将来どうしたいんだろう?例えば10年後の日本がどんな国になっていればいいと思っているんだろう?いや、「死の商人」たちは戦争になってくれたり、あるいは軍備拡張してくれた方が都合がいいんだろうけど、一般の、特にネトウヨと言われてしまうような人たちは、日本がどんな国になればいいと思っているんだろう?具体的に10年後の日本のイメージを思い浮かべることがあるんだろうか? 

本当に不思議でしょうがないですよ。岩礁みたいな無人島の領土争いなんか、福島で住めなくなった場所の広さに比べて、なんだっていうんだろう? 本当に謎です。
2016.12.14 22:36
あるふぁ
北朝鮮の核開発は核保有国がやめろと言ったってやめるわけないに決まってる
誰が考えたってすぐわかることってことは
わざと作らせてる?なんて思っちゃうんですけど
どっかの国が裏でプルトニウムを売ってるとか
利権を得る者がいるんだろうとか
なんか勘ぐっちゃいますよね
2016.12.14 02:34
アンコウ
ミニさん、

嬉しい反応をいただきました。かく言う僕だってチャラチャラしたものでしたが、いつの間にやら立派な「サヨク」のレッテルを貼られるようになりました 苦笑) むしろ当時左翼を自称していた連中が、今何をしていることやら。僕の少し上の全共闘世代のおっさん、爺さんたちはどうしてることやら。

また、当時、私がついた先生は保守派の人でしたが、それでも今から思い出してみれば、今の保守を名乗っている人たちに比べてはるかにリベラルだったと思います。

中野好夫は自分のことをいつの日か社会主義社会がやってくることを確信している保守派だと、なんだかよく分からないヌエみたいなことを言ってます。でも右でも左でもどちらかに振り切れちゃうのって、結局危ないんでしょうね。こう言う日和見主義的なものが、一番大切だったんだろうと、今になってみれば思います。
2016.12.13 23:12
ミニ
中野好夫とは懐かしい名前です。
正統的なリベラリストで、政治的には無色透明で無害な人、受験勉強の頃に名前を見知ったのみ、と思っていましたが、今のご時世ではずいぶん反骨的な「反日」思想家に見えますね。
昭和の時代はこういう人が中立で、かつ圧倒的多数派、左翼からは日和見主義だの穏健派だのと言われて馬鹿にされていました。

今から見れば、左に30度くらいは傾いていたのでしょう。逆に言えば、今は右傾化が30度くらいは進んでいる、という感じですね。
1930年代の日中戦争期で右60度くらい、「自由・平等・平和」なんて言葉を口走っただけで警察に捕まる太平洋戦争期で右90度の全体主義国家と見れば、現代なら45度で改憲、60度で核武装というところでしょうか。徴兵制は、怯懦で何でも金で解決しようとする今の日本人には無理でしょう。
ネット世界では15度くらい先取りしてるみたいですが、見たくはない、おぞましく醜い日本の近未来の姿という感じです。
2016.12.13 22:13

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アンコウ

アンコウ
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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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