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「野戦病院でヒトラーに何があったのか」(ネタバレ)

2016.11.23.23:45



まゆつば物と思いつつ読み始めたんだけど、結構面白かった。

ヒトラーは第一次大戦末に毒ガスで失明の危機にあったというのは結構有名な話である。あのチョビ髭にしたのはガスマスクがしやすくなるためとかいう説を、どこかで聞いたか読んだかした記憶もある。いずれにせよ、毒ガスによる失明の危機は「我が闘争」にも書いているし、あっちこっちでヒトラー本人が言っていることでもある。

本書はそれをガスではなくヒステリー性の一時失明であり、それをフォルスターという精神科医が催眠治療で治し、しかもその催眠状態を解かないままにしてしまった。その結果ヒトラーが、いわば覚醒してしまったというのである。

ヒトラーの人生において一番の謎は、第一次大戦終了前までのヒトラーがあまりに目立たない、これといって取り柄のない、むしろ従順で卑屈な人物であったのに、戦後になると突然政治活動で頭角を現し、その演説術によって人々を虜にしていったというギャップである。第一次大戦中の集合写真が何枚か残っているが、どれも後列の端に目立たぬように立っていて、見た目も冴えず、まるでカリスマ性が感じられない。四年も軍務につき、勲章すらもらっているのに、最終階級が上等兵どまりだったというのは、つまり、彼に人の上に立つ能力があるとは認められなかったということである。

ところが終戦直前に毒ガス攻撃のためにパーゼヴァルクの野戦病院へ送られて、そこで一月を過ごした後、戦後のヒトラーは人が変わったようにカリスマ性を発揮する。この原因を、ほとんど残された資料のないなか、わずかな文書資料や証言や状況証拠によって、フォルスター医師による催眠療法でヒトラーが覚醒したと推測する。

ヒトラーの失明を直したのがフォルスターという医者だということ、そのフォルスターが当時のかなり有名な精神科医だったこと、さらにフォルスター本人を始めとする関係者の不可解な死(自殺と他殺)と、そのフォルスター本人から渡されたとされる手記を元に書かれたヴァイスという作家の小説の中の描写、多くの人たちの断片的な証言など、本当に細い糸を手繰るようにこの推測の根拠を固めようとするのだけど、正直に言ってかなり糸は細い。そもそも、ナチスが探し、見つけ、廃棄したと言われるフォルスターの手記なるものが本当に存在したのかどうかもわからない。これを決定的に裏付ける直接的な証拠はないのである。

お話としてはとても説得力がある。同時に、もしここに書かれていることが真実なら、当時の人々はまさに「催眠状態にあった精神的に問題のあった男」の誇大妄想にうまうまと乗せられてしまったということになる。恐ろしい話である。ただ、直接証拠はない。ここに書かれていることが、今後のヒトラー研究でどのぐらい重要性を持つのかも、専門家ではない僕にはまるでわからない。ただ、それでも、かなり面白かった。



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アンコウ

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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、クラシック音楽(特にバッハ)、友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎても困るが)。少し前から草食動物と化そうと「努力」しています。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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