白黒の映像の美しい映画。第一次世界大戦が始まる1年前からほぼ1年間にわたる北ドイツの村の話。主な登場人物はやもめの医者と愛人の産婆、小作人家族、牧師一家、村を治める男爵一家、家令一家、それぞれに子供達がいる。厳格なプロテスタントの村で、子供達にはあまり笑顔が見られないし、大人達もあまり楽しそうではない。唯一の例外が語り手の村の学校教師で、彼はエーファという17歳の娘に恋している。
この村で次々と事件が起きる。(1)馬に乗った医者が、何者かが張った針金に引っかかり落馬して大怪我を負う。(2)その翌日小作人の妻が事故で死亡する。(3)その遠因を男爵に見た小作人の長男が男爵の畑をメチャメチャにして、小作人が職を失う。(3)男爵の息子が何者かに虐待される。小作人の長男が疑われるが、アリバイがある。(4)小作人は自殺する。(5)放火により村の倉庫が焼失する。(6)医者の愛人のダウン症の息子が襲われて大怪我をする。(7)医者と愛人の一家が失踪する。
針金を張ったのが誰か、男爵の息子を虐待したのは誰か、放火したのは誰か、ダウン症の息子を襲ったのは誰か、すべて犯人は暗示すらされない。あえて、そうかな、と思えるのは、医者の落馬事故の後に、牧師の息子が教師の制止を振り切って危険な橋の上を歩き、その理由を、神様が自分を罰するチャンスを与えたのだが、神様は自分を罰しなかったというシーン。子供達がみんな一癖も二癖もありそうで、医者の14になる娘は綺麗な顔立ちなんだけど、何か目に生気のない、不思議な顔をしているし、牧師の息子と娘もとても特徴的な顔をしている。
やもめの医者と40になる産婆の愛人関係も、完全に壊れていて、医者はどうやら娘と近親相関関係にあるのではないかと思わせるシーンもあり、男爵夫婦も破局を迎える直前である。何か村全体が不穏な雰囲気に包まれていて、最後にサラエヴォで皇太子が暗殺されたニュースが伝わり、戦争が始まる。だから、そうした不安な時代の雰囲気を、敏感な子供達が集団的に感じ取り、次々と事件を起こしたのだ、とも考えたくなるのだが、少なくとも映画の中では真相は全く明らかにされない。
上にあげたこと以外にも、エーファが男爵の子守の職をクビになったのはなぜなのかもわからないし、男爵の息子から笛を奪った家令の息子が父親から半殺しの目にあうようなのだが、それがどういう結末になったのかとか、同じく家令の娘がダウン症の子の襲われる夢を見たとされ、警察に調べられた挙句、どうなったのかもわからない。映像的にとても美しいシーンがたくさんあるが、そうした一つに、自殺した小作人の雪の中での葬式のシーン(自殺だから教会ではできないで、馬車に乗せて家族が後をついていく)があるけど、この小作人一家もどうなったのだろう? こうして、様々なシーンがその結末がはっきり示されないまま、宙ぶらりん状態で終わる。特に最後の医者と愛人の一家の失踪に至っては、何がどうなったのか、全くわからない。
監督はミヒャエル・ハネケ。拙ブログでは以前に
「愛、アムール」について書いたけど、あの映画はわかりやすかったし、ごく一般的な意味で感動的だったけど、この映画はそうした感動とは全く無縁。ただし、事件が次々と起こるから、2時間半近い時間は長いとは感じない。
うーん、何だろうなぁ。映画っていうのはカメラが切り取った部分しか描いてないのであって、実はカメラの見ていないところで様々なことが行われているのだ、と、監督が開き直っているような、そんな感じもする。何れにしても、謎解きがテーマじゃないし、謎解きしてみろと挑発しているわけでもないだろう。わけのわからない迷宮に迷い込んだような気分ではある。

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