僕はスポーツ映画が苦手です。だからあんまり見てないけど、「ロッキー」のシリーズは嫌いだし、当時評判になった「炎のランナー」は退屈だっただけでなく、スローモーションで感激を煽るようなレースシーンには白けた。ドイツサッカー映画の「ベルンの奇蹟」なんてのも、ハンガリーチームの悲劇を描けよ! と怒っていた。
いずれにしても、どんなにリアルであっても劇映画のスポーツシーンは何か白けてしまう。感動的なシーンであればあるほど、嘘っぱちを意識させられてしまう。ま、私はそういう性格なんです 笑)
こういう劇映画に比べて、例えばグルノーブルオリンピックの記録映画「白い恋人たち」や市川崑の「東京オリンピック」の持つ、本物の迫力には圧倒された。特に「東京オリンピック」の女子ハードルの依田選手といったか?
クレヨンしんちゃんの隣のおばさんみたいに、ひっつめ髪のこめかみに絆創膏を貼って、スタート前に鼻歌を歌い続けるシーンなんか、本当に震えた。
というわけで、当初、この映画は見るつもりは全くありませんでした。そもそもアームストロングが嫌いだったし、多分アームストロングをある程度美化しているのではないかと思われたこともあります。でも、ある人から見て来たと言われたので、時間もあったし、見に行ってしまいました。この映画、自転車の疾走感はなかなかなものだけどね。感動はしませんでした 笑)
で、唐突に、全く変な連想ですが、ヒトラーを思い出したのは拙ブログらしいのではないでしょうか 笑)
以前にも書いたことがあるけど、ヒトラーの暗殺計画は40回ぐらいあったのに、そしてその中には本当に際どかったものがいくつもあったのに、ことごとくそれらを逃れているんですね。しかも、きわどく暗殺計画を逃れ続けたヒトラーは、ますます、自分は神によって選ばれた人間だという誇大妄想に取り憑かれていき、最後まで自分はドイツのために善を為しているのだと信じ込んで、ドイツを破滅に導きました。
アームストロングも何度か危ないところでドーピング疑惑を逃れ続けたわけです。この映画でも描かれているようにコルチゾン検出は股擦れの薬と言い、ツール・ド・スイスでの陽性反応はUCIを抱き込み、自分は検査で陽性になったことはない、がん患者のために走るのだと、批判しづらい結界を張り、ますます、何をしても大丈夫と思い込むようになったのではないか? さらには美談が好きなマスコミには飴と鞭で批判を封じ込め(安倍政権を連想します 笑)、良心的な選手たち(映画でもバッソンやシメオニが出てきます)は脅して黙らせ、自分が勝つことで自転車競技の世界的な人気が高まるのだと盲信、自転車競技に破滅的なダメージを与えました。
まあ、当時リアルタイムで最初からアームストロングの疑惑については様々な情報を聞いてましたから、この映画で描かれていることも、ああ、あのことだ、と思ったんですが、それでも不満はあります。アームストロングはフェラーリを出会う前はドーピングをしていなかったような描きぶりですが、それはどうなんだろう? 映画ではフェラーリと出会って、ドーピングに開眼することになっているようだけど、そんなはずはないと思うんですよねぇ。
だけど、最大の不満はUCIの当時の会長二人、拙ブログでも散々批判したフェルブリュッヘンとマッケイドが全く出てこなかったことですね。この点はものすごく不満です。他にも当時のサルコジ大統領に進言して、フランスのアンチドーピング施設の責任者をクビにさせたり、権力ある者たちとツーカーになって、かなりとんでもないことをやっているわけで、そうした共犯者としての権力者たちをもっと大きく取り上げて欲しかったと思うんですよね。
それから、ランディスの描き方。アーミッシュの家庭に育ったことが強調されているけど、これってどうなのかなぁ。映画でもランディスが告白するのは、アームストロングに救いを求めて拒まれたことが原因となっているけど、同時にアーミッシュであることが余分に強調されているような気がしました。
映画だからしょうがないんだろうけど、小児癌の施設訪問のエピソードのように、アームストロングという人を複雑な人間にして、ドーピングをめぐる事件を単純化しているような印象を受けました。主役は複雑に、ストーリーは分かりやすく単純に。これって非常にハリウッド的な感じがします。
ちなみに、アームストロングは、ベルギーで小児癌施設の訪問を拒否したこともあると聞いているし、ファンの集いでの酷い話も聞いたことがあるから、必ずしもああいう人間的な感情の豊かな人だったかどうか。むしろもっと単純な、異常に上昇意欲の強い、なんでも自分を守るために利用する人間だったのではないか。映画の中で、サイン会でガンの女性から、勇気をもらったと言われて感謝されるシーンがあって、そこでアームストロングが非常に複雑な表情をします。でも、このエピソードがどれだけ事実に基づいているのか知りませんが、もしこういうことがあったとしたら、アームストロングはほくそ笑んだのではないか、何て思っちゃいます。かなり意地悪かな。何れにしても、上に書いたように、悪に手を染めてバレなければ、どんどんエスカレートしてしまう人だったんでしょうね。
ところで、ダスティン・ホフマンが保険会社の社長として出てきましたが、この人、80年代にコロンビア映画で製作された「イエロー・ジャージ」という映画で主演をつとめたんだそうです。ただし、この映画は完成したのに公開されることはなく、いわゆるお蔵入りになってしまったのでした。何か変な因縁を感じます。
ところで、金曜3時からの渋谷の映画館でしたが、客の入りは惨憺たるものでしたねぇ。15人いたかなぁ。。。

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