人工授精のレベルが驚異的に上がって、もはや、子供を産むために性交渉を必要としなくなった世界の話。夫婦の間での交渉は「近親相姦」と呼ばれて忌み嫌われ、家族が子供を得るためには人工授精に頼っている。かろうじて残された性欲は恋人(本当の人間の場合もあるが、大抵はアニメキャラ)との恋愛ごっこに委ねられる。
そんなショッキングな、というか、センセーショナルな設定で有名になってしまったようだけど、僕は後半の主人公たち夫婦が人工授精により受胎したことで、どんどん気持ちが離れていってしまうところがとても哀しかった。
そして、そんな実験都市の「楽園(エデン)システム」に徐々に慣れていって「家族システム」を忘れていく主人公たちの様子が、ちょうど現代の社会の中で、これだけ無茶苦茶なことが起こっているのに、慣れていってしまっている僕らに重なった。
設定はSF的で、昔読んだ伊藤計劃の「ハーモニー」という小説のような、裏返しされたディストピア小説のような感じがした。最後のショッキングなシーンでは、なぜか河野多惠子の「幼児刈り」なんかを連想したのは、子供が出てくることと、生理的、感覚的な気持ち悪さのせいかもしれない。
主人公の雨音(あまね)は両親の「近親相姦」によって生まれた娘だが、母親はそれを誇らしげに娘に語る。娘もそんな母親の呪いにかかったように性欲を捨てきれない。最後のところも含めて、ある意味で母と娘の葛藤という古風なテーマが真ん中を貫いている小説なのかもしれない。
設定が設定だけに、かなりあけすけで露骨な言葉やシーンもあって、電車の中で読むのが憚られたが、とても面白かった。ただ、宣伝文句のような「近未来の日本の姿」だなんて、まるで思わないけど。

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