fc2ブログ
2023 11 << 12345678910111213141516171819202122232425262728293031>> 2024 01

村田沙耶香 「消滅世界」 覚書き(ちょっとネタバレ)

2016.06.02.01:06



人工授精のレベルが驚異的に上がって、もはや、子供を産むために性交渉を必要としなくなった世界の話。夫婦の間での交渉は「近親相姦」と呼ばれて忌み嫌われ、家族が子供を得るためには人工授精に頼っている。かろうじて残された性欲は恋人(本当の人間の場合もあるが、大抵はアニメキャラ)との恋愛ごっこに委ねられる。

そんなショッキングな、というか、センセーショナルな設定で有名になってしまったようだけど、僕は後半の主人公たち夫婦が人工授精により受胎したことで、どんどん気持ちが離れていってしまうところがとても哀しかった。

そして、そんな実験都市の「楽園(エデン)システム」に徐々に慣れていって「家族システム」を忘れていく主人公たちの様子が、ちょうど現代の社会の中で、これだけ無茶苦茶なことが起こっているのに、慣れていってしまっている僕らに重なった。

設定はSF的で、昔読んだ伊藤計劃の「ハーモニー」という小説のような、裏返しされたディストピア小説のような感じがした。最後のショッキングなシーンでは、なぜか河野多惠子の「幼児刈り」なんかを連想したのは、子供が出てくることと、生理的、感覚的な気持ち悪さのせいかもしれない。

主人公の雨音(あまね)は両親の「近親相姦」によって生まれた娘だが、母親はそれを誇らしげに娘に語る。娘もそんな母親の呪いにかかったように性欲を捨てきれない。最後のところも含めて、ある意味で母と娘の葛藤という古風なテーマが真ん中を貫いている小説なのかもしれない。

設定が設定だけに、かなりあけすけで露骨な言葉やシーンもあって、電車の中で読むのが憚られたが、とても面白かった。ただ、宣伝文句のような「近未来の日本の姿」だなんて、まるで思わないけど。



にほんブログ村 自転車ブログへ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト



comment

post comment

  • comment
  • secret
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackback

trackbackURL:http://tatsuya1956.blog48.fc2.com/tb.php/2551-6dd7d719

プロフィール

アンコウ

アンコウ
**********************
あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

* 時々コメントが迷惑コメントとしてゴミ箱に入れられることがあるようです。承認待ちが表示されない場合は、ご面倒でも書き直しをお願いします。2017年8月3日記す(22年3月2日更新)

カテゴリー

openclose

FC2カウンター

Amazon

月別アーカイブ

検索フォーム