二週間ほど前に読み終わったんだけど、ちょっと忙しくてまとめられなかった。
この人の小説は以前「ボラード病」を拙ブログでも書いたことがある。これより10年近く前に書かれた小説だ。かなりのエログロであるとともに暗喩に満ちている。以下、ネタバレにならないように紹介します。
三部に別れていて、第一部はテロが頻出する東京とおぼしき町。テロリストに怯えた人々が無実の人をリンチにかけ、自警団は警備を口実に強姦などやりたい放題、人々は愛国を叫び、政府は敵を殲滅せよ、大陸の戦闘に志願せよと叫ぶ。政府に対する疑問を少しでも口にすれば、その人間はすぐにいなくなる。オーウェルの「1984」や映画の「未来世紀ブラジル」なんかを連想するようなかなりすごいディストピア。これは時期的にもイラク戦争に触発され、東京を中東のどこかの町に見立てたという面もあると思うのだが、この前の「秘密保護法」と「戦争法案」のおかげでこうした管理社会が迫っていると思うし、テロの脅威はこの小説が書かれた時代よりも数段高まるだろう。
第二部に入ると主人公たちは志願して大陸の戦闘に従軍する。この様子が日中戦争を連想させる。同時に、第一部でのひょっとしてありうるのではという不安をかきたてるような話が、第二部では完全な怪奇と幻想のSFのような話になる。最終兵器と喧伝されている「神充」と呼ばれているものの正体が、ある意味で想像を絶する。だけどちょっといくら遺伝子操作したとしても、こんなのはさすがにあり得ないだろうというような話になる。いろいろな意味で非常に漫画的。でも、ここでもそうした遺伝子操作を含めた現在の生命科学批判になっているのかもしれない。
第三部はかなりひねった状況の種明かしとともに、なんとも暗澹たる結末。ただ、テロリストの正体はまあこうなるだろうな、というものだったかな。でもそれ以外は、特に主人公たちの末路は、なかなかすごい話です。
現実社会のいろいろなことを思い浮かべることの出来る暗喩に満ちた、しかしエログロと暗澹たる世界観の小説。以前にも書いたように、こういう救いのない世界を描いたSFは好きです。かなり長い小説だけど、読み始めたら途中でやめることはなかなか不可能だと思う。お勧めします。

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