fc2ブログ
2023 09 << 12345678910111213141516171819202122232425262728293031>> 2023 11

「東京物語」について

2015.11.29.14:43

常連コメンテーターのCYPRESSさんから、小津の映画は今ひとつ合わないというコメントをもらったので、ちょっと追加で書いておきましょう。

小津の映画を退屈だというのは理解できます。取り立てて事件も起きないし、話もオチがあるわけではない。たぶん世界中の半数以上の人はそういうかもしれません。また、どの映画も同じで区別が付かない、という意見もありますが、そういう意見があるだろうというのも想像できます。

たとえばCYPRESSさんが触れている北鎌倉駅。ここでのシーンで一番覚えているのが、原節子と誰だったか。。。「お読みになった? チボー家の人々?」という台詞がありました。でも、それがどの映画だったかは全く思い出せない。前のエントリーで書いた「●子さん、あんた何歳になった」「いやですわ、うふふ」も、何となくそんなイメージがあるだけで、どの映画のどのシーンだったかなんて全く覚えてない。そもそもひょっとしたら、そんなシーンなんかないのかもしれません。

でもそれはどうでも良いんだろうと思います。小津の映画は全部が渾然一体となって全部でひとつの世界なんだろうと思う。

俳優の演技もうまいとは言えない、というのもよく分かる。だけど、小津はたぶん俳優から演技の見せ所を奪っているんですよ。原節子が振り向くシーンだけを60回ぐらいやり直しさせられていた、というのを昔の誰か女優のインタビューで見た記憶がありますが、演技をさせないようにしていたんじゃないのかなぁ。いや、よく知らないけど。

例えば今回の「東京物語」でも東山千栄子が亡くなって間に合わなかった大坂志郎が悲しむシーンは俳優なら見せ所なんだろうけど、「そうかぁ、まにあわなんだか」と、なんとも緊張感のない台詞を言わせるだけだし、息子で医者の山村聡から明け方まで持たないと聞かされた笠が同様に、「そうか、おしまいかのう」と言うだけ。

あるいはこれは「秋刀魚の味」のシーンですが、飲み屋で吉田輝雄が佐田啓二に妹との結婚の可能性を問われると、吉田はすでに諦めて別の女と約束してしまったと言いながら、「ちぇっ、もっと早く言ってくれればいいのに」と言った直後に店の奥に向かって「おーい、ビールもう一本」と叫ぶ。最初に見たときは、このシーンで思わずずっこけました。ユーモアというのとも違う。普通なら深刻な、俳優の見せ所だろうと思うところで、実に巧妙に肩すかしを食らっちゃう。

最近の小津関係の本(書評で読んだだけだけど)によると、小津は従軍してどうやらとんでもないものをたくさん見たようです。なのに、映画ではまったくそうしたことは出てこない。せいぜい「戦争は嫌だね」、とか、「馬鹿が威張らなくなってよかった」とかいう台詞ぐらいしか出てこない。

こういう話を読んだり、上のようなシーンを思い浮かべるとき、小津の映画から、聖書の中の「祈るときは異邦人のようにくどくどと述べてはならない。異邦人は、言葉数が多ければ、聞き入れられると思いこんでいる。」という言葉を思い出します。



にほんブログ村 自転車ブログへ
にほんブログ村
送料無料!お取り寄せ通販特集
関連記事
スポンサーサイト



comment

アンコウ
CYPRESSさん、

「合わないです」から「楽しみであります」になったこと、ご同慶の至りであります 笑)
2015.12.03 22:30
CYPRESS
エドゥアール・マネの有名な『笛を吹く少年』の本物をご覧になったことがあるだろうか?
マネは特に好きな絵師でもないし、印象的な作品も無し。

でも、これの本物を去年、世田谷美術館で見た。
ビックリした。
とても強力な雰囲気を漂わせ、一瞬にして視線と心を釘づけにされた(@_@)。
この絵は、なぜか裸の女性がピクニックに来ている『草上の昼食』(サロンでは落選)、明らかに娼婦を描きサロンに展示はされた『オランピア』を描いた後の作品。
少年の指の描写と漂う雰囲気から明らかにサロンとサロンの保守主義への挑戦状だとひしひしと伝わる大作であります。

最近は出来るだけ色々な絵師を見に行こうと心掛けています。
好きでなくても有名な絵師はそれだけ多くの人の心を視線を捉える魅力があるのですから、少なくとも一回は本物を見て自分で判断すべきだと考えてます。
その好例が去年の『笛を吹く少年』との邂逅でした。

小津安二郎に関しても同じであります。
『麥秋』でビックリのカットに出逢いました。
玄人好みと言うよりプロ好みと言った方が正しい様な小津安二郎ですが、
まだ4本しか観てないので何が待っているか、楽しみであります。

女にだらしのないドン・ジョヴァンニもたまには良い事を言ったもんです。
「うまいまずいは食してから言うものだ!!」

酒のうまいまずいは飲み干してから言うもの
~by 無名氏~
2015.12.03 00:37
アンコウ
CYPRESSさん、

うーん、その4本が面白くなかったのなら、この先はないかも 笑)

いいんじゃない、ムリに好きならなくても。ウチの3女なんか、日本の国民食のカレーが大嫌いですからね 笑)
2015.12.01 23:11
CYPRESS
凄い実力の持ち主なのは、薄々分かります、ハイ。
でも、イマイチ、好きにはなれていません。

一番合わないと言うか、分からんと言うか、台詞と台詞の間の長さ。
これには参った(^_^;)。
あの杉村春子でさえ間の長さに困惑してるようなカットもある。
演出や脚本の意図が分からんし、全編にわたるから意図を考える気も起きんのです。
もう一つは原節子と笠智衆の演技。
拙さが目につき過ぎ、感情移入とか映画に心を任せるとか出来ない(溜息)。

それでも、ね、ローアングル中心の映像は、逆に苦にならない。

しかし、
重要なのは、まだ4本しか観ていない(東京物語、晩春、麥秋、秋刀魚の味)

>うまいまずいは食してから言うものだ!!

『ドン・ジョヴァンニ』
其ノ六 ドン・ジョヴァンニ化ける
p,129
福山庸治画より

でありますから(笑)。
2015.11.30 23:49
アンコウ
CYPRESSさん、

うーん、こうなると「合わない」の意味がわからんよ。凄いのは分かるが好きになれないという意味? 
2015.11.30 08:29
CYPRESS
「自分とは合わない」、デス(笑)。
確かにどうも退屈ですが、話の内容は悪くない。
でも、合わんのね。

朝日の「小津安二郎がいた時代」は全部取ってあるし、
原節子の新聞の追悼記事、朝日の分は全部切り取ってます。
(黒澤明関係を調べたら、藤田進の死亡通知の記事が一番古かった(笑))

「小津安二郎がいた時代」で印象的だったのは、小津自身の言葉で、

>おれの演出は、現実的におかしいかどうかということよりも、
もっと芝居の本質に観客の目がいくように作っている

『麥秋』には凄いカットがある。
黒澤明の映画には目が覚める様なカットが多く、この辺も黒澤明が好きな理由なんだけど、
『麥秋』にも目を見張った。
原節子演じる間宮紀子が務めている会社が入ってるビルの外観を撮ったカット。
これが凄かった。
名作、迷作の誉れ高き『コヤニスカッツィ』と同じ20世紀後半近代都市文明にもある美しさを撮っている。
ゴッドフリー・レッジョが撮る30年も前にこういうカットと撮る感受性の新鮮さと豊かさには、ビックリ、脱帽、完全に見直しました<m(__)m>。
このカット一つだけで並の映画監督でないのが改めて分かった次第(^_^;)。

小津はこれからの楽しみです。
黒澤明を全部観るのにも20年掛かったからネ。

最後に小津映画のいい点を。
『東京物語』を初め登場人物の言葉使いが丁寧でとても耳に心地いい。
特に年長者に対する言葉が非常に丁寧。
現在の我等も見習わなければ。

因みに、ビートルズも「ボックス」と「モノボックス」を買って全曲聞き直したけど、合いませんワイ(笑)。

2015.11.30 00:22

post comment

  • comment
  • secret
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackback

trackbackURL:http://tatsuya1956.blog48.fc2.com/tb.php/2376-c20cc102

プロフィール

アンコウ

アンコウ
**********************
あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

* 時々コメントが迷惑コメントとしてゴミ箱に入れられることがあるようです。承認待ちが表示されない場合は、ご面倒でも書き直しをお願いします。2017年8月3日記す(22年3月2日更新)

カテゴリー

openclose

FC2カウンター

Amazon

月別アーカイブ

検索フォーム