なんとなく芥川賞をとったときの印象がヤンキーのねえちゃんみたいで読んだことがなかったんだけど 苦笑)、初めて読んだこの小説はものすごく面白かった。何年も後に読んでも面白く読めると思う。文章もへんに凝ったことをしない、読みやすさがある。なるべくネタバレにならないように紹介したいけど、まあ、以下ネタバレ、かなりしてます。
4人の人物による独白という構成。最初は原発事故後の放射能に対する危機感を妻と共有出来ない男の焦りが、とてもうまく描かれていると思った。あの当時、僕も同じような不安を感じ、いても立ってもいられないような気持ちになったのを思い出した。
二人目は海外から戻ってきたエリート女性の独白。最初の男の独白はこの女性と一緒に酒を飲みながら、自分の幼い娘と妻との放射能に対する意識の齟齬が回想され、その顛末が語られるのだが、この章ではそれを引き取って、女の一人称で、店を出た後の話(かなりH 笑)が続くと共に、一見エリートで怖いものなしのように思われたこの女性も。。。このエピソードは、同じような経験をしているので、読みながら非常に辛かった。
この二人の会話と女性の回想の中に2,3回ほど出てくる女の妹(シングルマザー)の独白が三つ目の章になる。彼女もまた原発事故が怖くて英国へ移住している。はたからみると天真爛漫で、なにごとも良い意味で、行き当たりばったりの、なんとかなるさという軽やかさがあるように見られているのだが、当たり前だが、本人にして見れば、当然行く末に対する不安もあるわけである。
この三つ目の章で、会話の中に一度だけ出てくる女が四つ目の章の主人公。英国へ赴任した夫について行って、英国になじめず、やっと日本に戻ってきたのだが、家に戻ると。。。という話で、このエピソードはかなり読ませる。特に三人目の自由人の女との比較で、チマチマした「くだらない」日常で一喜一憂するリアルさは、この章だけでも独立した小説になりそう。(後日記 いや、独立させると3番目の女との対照がなくなってしまうから、これでいいのでしょうね 8/23)
最初の章はむろん原発事故が大きなモチーフになっていて、夫婦の間でその危機意識に大きな差があることがポイントになっていて、この後もこれが前提に話が進むんだろうと思っていると、ほかはそれほど直接的に原発事故が大きな影響を持っているわけではない。三つ目は放射能が怖くて英国へ逃げてきたはずなのに、実は成りゆきで英国にきてしまったことになっていて、原発事故についてあまり深刻に考えているわけではない。そして、最後の章は原発事故はまるで無関係。だけど、ある意味で原発事故後の話であって、濃淡はあっても「それぞれの家庭に、それぞれの原発事故がある」(46ページ)し、それぞれの人に、それぞれの事情がある、ということなのかもしれない。だからこそ、この後、最後の章に出てくる芳子さんの独白も想像してみるといいんじゃないだろうか。
それぞれ主役の性格や置かれている立場は全く違うけど、どの話にもものすごいリアリティがある。それと、心理描写の細かいところで女流作家らしい発想がある気がする。傑作だと思う。

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