1944年のナチ政権下のミュンヘンから2004年のカリフォルニアまでの60年間、4代にわたるある一族の物語を、年代を逆にさかのぼるかたちで描いた小説です。
4つの章から成り、それぞれが2004年のカリフォルニアからミュンヘン郊外の村へ、1982年のニューヨークからハイファへ、1962年はトロントからニューヨークと舞台が移動しながら、最後の1944~45年のミュンヘン郊外の村、つまり最初の章の後半に戻ります。
それぞれが一族4代の少年少女が6歳だったときの一人称で描かれていて、最初の章にさまざまな伏線が張り巡らされていて、読み進めるうちにそれが解けてくるというミステリー仕立て。ただし、昨今の日本の小説のように、最後にビックリさせたり、親切すぎる謎解きはしてくれません。それぞれの章が描く年号の間に起こった決定的な出来事は宙ぶらりんのままだったりします。
本の最初に簡単な家系図が付いてますが、余計なお世話かも知れませんが、そこに登場人物の名前をどんどん書き込んでいった方が良いでしょう。そうしないと、章が変わるごとにそれまでのおじいちゃんが父親になっていくわけで、かなり混乱します。特にそれぞれ6歳の一人称の語り手が、アメリカンな自己中のクソガキだったり、素直な良い子だったり章ごとに変わるので、これも混乱度合いを強めます。もっとも、その混乱具合も読書の楽しみの一つだといえますが。
上述のように、60年間の中の四つの時代(ほぼ1年足らず)を切り取るような形で語られますが、そこで背景になっているのはナチスだったりパレスチナ問題だったり、イラク戦争だったり、どうやっても解決の付かない重い話です。しかし、そうした話題(ある意味でこれらの話題はそれほど新鮮みはない)よりも、最初の章の最後に書かれる赤いビロードの服を着た人形の謎が、とても良い余韻を残します。なんとなくオーソン・ウェルズの映画「市民ケーン」のキーワード「バラのつぼみ」を連想しました。

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