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ローラン・ビネ「HHhH」

2014.10.18.22:55


HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)
(2013/06/28)
ローラン・ビネ

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1980年代中ごろ、深夜に放送されたドイツのTVドラマ「ヴァンゼー秘密会議」というのがあった。ネットで検索をかけるとケネス・ブラナーが主演した同じ題材のアメリカのTVドラマ「謀議」は引っかかるけど、ドイツの方はほとんど紹介がないですねぇ。YouTube にはあるけど、字幕なしのドイツ語版と英語吹き替え盤。興味があれば、Wannseekonferenz で検索かけてください。

このヴァンゼー秘密会議というのは、ざっくり言えば、ナチスの高官行政官が集まって、ヨーロッパ中のユダヤ人をいかにして絶滅させるか、その際の担当部署や協調関係を確認するための会議だった。これ以前にもすでにユダヤ人の殺害はたくさんあったようだが、あくまでもユダヤ人をドイツ国内から一掃、つまり移送するというのが計画の本筋だったらしい。この会議のあと、600万と言われるユダヤ人大虐殺が本格的に行われていったわけである。

しかし、ナチスがやったユダヤ人虐殺のことを考えると、なんでナチスは第一次大戦に従軍してドイツのために戦ったユダヤ人たちも含めて(有名なアンネの日記のアンネの父親も第一次大戦で従軍している)、老若男女みんなひっくるめて殺しちまったんだろう、と疑問を感じるんじゃないだろうか? だって戦争中の人間なんて戦力だよ。ドイツ軍の軍人にすれば兵力が増えたわけだし、殺すのだって弾が必要だし、毒ガスで殺すとしても開発製造に手間がかかるだろうし、敵に向けて撃つべき弾をなにやってんだ?と思わない?? しかもこのヴァンゼー会議で決められたのは、ヨーロッパのユダヤ人を絶滅させることが戦争以上の最優先事項だという確認だったんだから、いよいよ呆れるしかない。たとえ戦争に勝つことが多少遅れても(負けても、という発想は彼らにはなかったようだ)、ヨーロッパのユダヤ人を絶滅するほうを優先するって、なんかわけが分からないよねぇ。

だけど、それ以前のことを考えると、ヒトラーはユダヤ人に対する人々の憎しみをかきたてて、国民を統合していったわけで、もしヒトラーが反ユダヤ主義じゃなければ、なんていう前提はありえないわけだ。げに、人間誰しも持っている差別意識、恐るべし。

さて、そのヴァンゼー秘密会議を主催したのがラインハルト・ハイドリヒという「金髪の野獣」と言われた男。この男はナチの高官で唯一暗殺された人物だ。その暗殺計画と実行、そしてその後の顛末を描いたのがこの小説、と前振りが長いこと 笑)

舞台はチェコのプラハ。主役はイギリスのチェコ亡命政権によって派遣されたチェコ人とスロバキア人の軍人二人で、この暗殺事件は有名だし、その後のナチの報復によってリディツェという村がひとつまるまる地図から消えてしまったことも有名だと思う。

この小説、作者がいわば手の内を明かしている。この暗殺事件を物語ると同時進行的に、書いている今も語られるっていう、非常に凝った構成で、まあ、書いている作者が物語り中で意見を述べる体裁の小説なんて、別に珍しくはないだろうけどね。ただ、ここで物語を中断して、頻繁に挟まれる作者の思いは、歴史的な事件を描くってどういうことなのか、司馬遼太郎的な描き方ってのは、どうなんだ、って、いろいろと考えさせられた。

小説は、ハイドリヒを暗殺するためにロンドンの亡命チェコ政府から送られたチェコ人とスロバキア人のパラシュート舞台の二人の軍人が、プラハの同志や協力者たちとともに、どうやってハイドリヒ暗殺までたどり着き、実際に計画を実行し(実際には暗殺は失敗したも同然なんだけど)、ハイドリヒはどう死に、その後、実行した軍人や協力者たちがどのように死んだかを追う。だけど、その話がハラハラドキドキの描写によって描かれるわけではない(最後のところは緊迫感があるけれど)。そして物語の最中に、頻繁にこの事件に関わる小説や映画の批評(場合によっては批判)が繰り返され、さらには歴史を描く作者の複雑な思いが吐露される。

「手の内を明かす」と上で言ったのは、たとえば登場人物たちの会話を描いた後に、こんな文章が続く。

この場面も、その前の場面も、いかにもそれらしいが、まったくのフィクションだ。(124)

そしてこう続く。

ずっと前に死んでしまって、もう自己弁護もできない人を操り人形のように動かすことほど破廉恥なことがあるだろうか! (124)

こう書かれちゃうと、もう歴史小説なんか書けないよねぇ。とは言っても、作者自身もそうしたフィクションをついやってしまい、たとえば、生まれたばかりのハイドリヒのことを想像するシーンなんかも挟まれる。そして上のような言い訳を繰り返す。自意識過剰なんだと言われるとそうかもしれないけど、果てはこんなことを書いて、作者の立場にいる自らを非難する。

こんな場面はどうしても必要なわけじゃないし、ほとんど僕が創作したようなものだから、残しておこうとも思わない。(249)

なにか堂々巡りのような、歴史を描くことの困難さがわかる話で、昨今はやりの「真実の歴史」とか言う言葉の無意味さを感じる。



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アンコウ

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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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