この人の本はずいぶん前に「私の西洋美術巡礼」という本を読んでいて、なにしろ痛そうな絵ばかり選んで見ているという印象があった。韓国が軍事政権だった時代に政治犯として刑務所に入れられ、耳がなくなるような拷問を受けた兄二人を持つ人の書くものだから、必然的にそうなるのだろう。
今回もナチスから「退廃美術」のレッテルを貼られた
エミール・ノルデを初め、
オットー・ディックスやアウシュヴィッツで殺された
フェリックス・ヌスバウムなど、美しい癒しや慰めとはかけ離れた、むしろグロテスクで醜いとすら思われる絵が主に取り扱われる。主に第一次大戦からワイマール共和国の混乱時代を抜けてナチスの時代へ向かう時代の画家たち。ノルデのような絵は常にいつでも見ていたいと思わせるものではないが、長い人生にはきっとこういう絵が必要な時があるだろうと思う。そしてディックスは、こちらはこういう絵が必要な「時代」があるのだろう。
それにしても、これらの画家が活動していた時代、第一次大戦末期、キール軍港の水兵反乱に端を発した「ドイツ11月革命」により、戦争が終わり、皇帝は退位し、各地での武装闘争の後、大混乱の内に世界史上もっとも民主的と言われたワイマール憲法が生まれたが、その実体は混乱と対立、そしてヴェルサイユ条約による困窮の時代だったわけである。当時の反体制派に位置するある雑誌はこう述べたそうである。「革命は横領された。革命理念の横領者たちが支配し、俗物の立て直しを行っている」
この経緯は今の日本の状況とよく似ている。むろん水兵の反乱ではないが、ある意味で労働者の反乱により、日本も戦後50年以上続いた自民党による体制が終わった。このとき、多くの人が「革命」という言葉を使った。ぼくもいろんなことが変わるだろうと思った。期待した。そして実際に変わったこともあった。だけど、ここへ来て、期待は一気にしぼんでいく。どうやら菅内閣のめざすのは自民との大連立らしい。「革命は横領された」という上の文言がそのまま実感として感じられるのである。
ドイツではこの後差別意識をむきだし、勇ましく格好良いことを主張したナチスが選挙によって選ばれることになる。私たちの国、日本は10年後にどういう国になっているのだろう?
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