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音楽に付随する物語に感動してはいけない?

2014.02.13.23:22

都知事選のなかで、大騒ぎになっていた偽ベートーヴェンの話題。あんなに大騒ぎになるなんて、みんなあの人のHIROSHIMAを聞いたことあったのかな、NHKのあの番組を見たのかな、と不思議な気持ちでしたね。確かにクラシックの現代曲としては破格の売り上げだったそうです。実は私のiTuneにも入ってます。で、はい、あっけなく、騙されました 笑) 

グレツキというポーランドの現代音楽の作曲家がいて、その人の交響曲にもアウシュヴィッツで死んだ少女の書き残した詩だったかを歌詞にした曲があって、こちらは初めて聞いたときに、あまりにベタなので、ちょっと違和感とまでは言えないまでも、なんか今ひとつ感動しきれない気持ちがしたものでした。だから、CDは、今見たら埃まみれです。この5,6年、聞いたことがないですね。

HIROSHIMAを聞いたときもグレツキーと同じような印象を持ったはずで、映画音楽みたいだな、と思ったはずなんですが、でも、そこに付随する作曲者の物語に、完全に感動して涙流れてました。まあ、しょうがないかな。音楽っていっても、やっぱりその周囲にある物語を知ってしまったら、それに引きずられるのは人情ってモンでござんしょう。

たとえば第二次世界大戦直前の1939年4月、復活祭の前の日曜日(棕櫚の日曜日)に演奏され、途中聴衆のすすり泣きが聞こえる(と言われている)、メンゲルベルクが指揮したバッハの「マタイ受難曲」なんて、もう絶対に音楽聞いてるんじゃないですね。滂沱の涙ですよ 笑)

あるいは、1947年5月の、戦犯容疑が晴れて、やっと指揮棒を持てたフルトヴェングラーが最初にベルリンで指揮したベートーヴェンの「運命」、もう最初から出だしがそろってなかったりするんだけどね。ジャジャジャジャーンがジジジャジャジャジャーンなんだけど、まあ、あれに感動しない人はヘンだよ。

あるいは白血病で若くして亡くなるディヌ・リパッティ、死期が近いのを知りながら、「約束だから演奏しなければ」と言って開いた最後の演奏会のレコードとか、鍵盤の獅子王なんて言われたヴィルヘルム・バックハウス、最後のコンサート。ベートーヴェンのソナタの途中で、「すいません、ちょっと休ませて下さい」と言って中断してしまうコンサート。そして、その演奏そのものはミスタッチだらけなんだけど、感動しない人はいないでしょう。

そして、その際、こうした物語の感動が、その全体の感動の何割に当たるか、なんて、わからんよね。これを音楽だけ純粋に聞いて、それだけで判断するのが、音楽に対する礼儀だろう、なんて言われたって無理です。この年になれば、いろんな経験をしてきて、そうしたものが、音楽以外の物語を肥大化させてしまいますから。

というわけで、いまこそ、あらためてHIROSHIMAを聞き直して見るべき時なんでしょうね。といっても、やっぱりそう簡単に聞こうという気にならないのは確かなんですが。。。

ただ、今回の騒動、その世間の反応と騒ぎぶりに、なにか嫌な感じがするのは、これがきっかけとなって、以前の不正な(といっても0.4%だよ)生活保護受給者バッシングのように、不正な障害者手帳受給者バッシング(問題の作曲者がほんとうに不正なのかどうかは知りませんよ)とかにつながらなければいいけど、と不安を感じるからでしょうか。

----2014, 2/14, 09:50 追記
ヴィキなどによると、ディヌ・リパッティは白血病ではなく悪性リンパ腫だったようです。訂正します。

また、なんとなく世間の騒ぎぶりに不快な気分になるのは、やっぱり、騙された当事者じゃない人たちの盛り上がり方が、どこか不安を醸し出すんです。今回の騒動で初めてこの人のことを知りました、というような人が、心底怒ってるのを見ると、こんなことに怒るなら、もっと怒りの矛先を向けるべきものがあるだろうに、と思うんです。



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comment

アンコウ
Maderna さん、

51年の第9? あ、わたしそれ知らない。わたしが言ったのは53年ですね。ウィーンフィルって二つあるのかぁ、と調べたら52年なんてのもありますね。

トスカニーニ、うーん、ほとんど聞いたことないですね。レコードもCDも持ってないし。。。数年前(?)にMadernaさんのブログで読ませてもらって知ったヴェレスという作曲家は、それ以来、気にはなっているけど、これまでのところ聞くチャンスがないです。ハインツ・シューベルトも同様で、初めて聞きました。残念、ウチのMacでは何度やっても途中で止まってしまいますが。。。

やっぱりフルトヴェングラーの交響曲は好みでしたか 笑) 実はぼくもレコード時代に一時期よく聞いていた、というか、これとブルックナーの9番しかかけなかった(というか、そんなにたくさんレコード持ってなかったし)時代があります。1970年代ですね 笑)どちらもグラムフォンのレコード。当時は陰気な曲が大好きでした 笑) あの時代だったらハインツ・シューベルトのこの曲もきっと大好きになっただろうと思いますが、現在の好みはだいぶずれてしまいました。陰気な曲が好きなのはあまり変わってないんだけどね。
2014.02.20 22:59
Maderna
フルヴェンの第九でヴィーン・フィルというと1951年8月31日のザルツブルク音楽祭のCDを持ってますが、これもなかなか良い演奏ですね。バイロイトのやつより良いと思います。
ただ、ピリオド系の演奏を聴いてしまうと、どうしてもフルトヴェングラーのベートーヴェンはベートーヴェン本来の様式と掛け離れ過ぎていて、同時代の指揮者としてはトスカニーニの方がベートーヴェンを正しく理解していたと感じざるを得ないです…。
結局フルヴェンはブラームスもブルックナーもなんか違うなぁ〜という想いを禁じ得ないのですが、ヴァーグナーと自作自演は良いですね。
フルヴェン作曲の交響曲はまさにヴェレスの1番や"HIROSHIMA"と同類の生真面目でありながら大仰で、悪い言い方でいえば「厨二病」的なキッチュ…こういうのは好みのど真ん中です(笑)

で、ご存知かもしれませんが、同種の雰囲気の曲にフランツではなくて「ハインツ」・シューベルトの「讃歌的協奏曲」(Hymnisches Konzert)というものがありまして、これも曲が好みだったので背景を調べてみたのですが、ハインツ・シューベルトはカラヤンと同じ1908年生まれで、ナチの権力掌握後にナチに入党、開戦の1939年にこの曲を作曲、終戦直前の1945年2月に戦死したそうで…
それを戦時中の1942年にフルヴェンが指揮した演奏がこちら http://www.nicozon.net/watch/sm21068532
もうまさに「滅び行く第三帝国」という感じです。

…という訳で、曲や演奏自体に感動してから、その後に歴史的背景を調べて、それを基に勝手に物語を想像して楽しむという面は私にもあります…。
2014.02.20 02:47
アンコウ
Maderna さん、こんにちは。

コメントをほんとうにありがとうございました。

数日前に Maderna さんのブログでくだんのエントリーを読ませていただきましたよ。 

ぼくは残念ながら、物語がついちゃうと(知っちゃうと)、もう純粋に音楽だけを聴くということができないです。そういう意味では、ぼくは今回の騒動は完全に開き直ってますね 笑) まあ、おセンチなだけだともいえますが 笑)

マタイがレオンハルトなのはぼくもそうです。プレガルディエンでしょ? でも、フルトヴェングラーの47年の出だしのズレなんかは楽団員の異常な精神状態を思い浮かべちゃいますからね。フルベンの第九だとウィーンフィルのも良いですぜ。

そうか、ワルター(ヴァルター)のマーラーもそうですね。ただ、マーラーをあまり聞かないから、思いつきませんでした。嫌いなわけじゃないんだけど。。。

フルトヴェングラーの作曲した交響曲なんてのは好みじゃないですか?
2014.02.19 21:24
Maderna
うーむ、これは自分のブログにも書かせて頂いたのですが、私は例の交響曲、なかなか良い曲だと感じましたので、今回の件で作者がロン毛にグラサンの怪しい「自称独学の天才」おじさんじゃなくて、音大でちゃんと勉強し音大の作曲科の先生をやっている人の書いた曲だと分ってむしろすっきりしています。
今後は障碍を出汁にした怪しい売り出し方もしないでしょうから二重にすっきりしています。
結果、以前よりもあの交響曲が好きになっているように感じます。そもそもHIROSHIMAという題ははCD発売直前に付けられたもので、私が2010年に東京初演を聴きに行った時は題はありませんでした。
既に完成されているらしい長大な交響曲第二番も是非とも聴いてみたいものです。

グレツキの第三交響曲は今でも時々聴きたくなります。しかも歌詞がアウシュヴィッツと関係のない第1、3楽章の方が好きなんです…個人的にはアンコウさんが以前推奨されていたペルトより好きです。ペルトはもう全然聴きたいと思えないのです…。

メンゲルベルクのマタイは私にとっては戦前の演奏様式を聴くことが出来る、という意味では、エヴァンゲリストのカール・エルプのおじいさんのような声、イエス役のバスの鼻にかかった声とか、当時の声楽家はこんな発声をしていたのか、という意味で興味深いのですが、あれを聴いても泣くということはないです。オランダにナチの手が迫り…という状況はバッハともマタイ伝とも直接関係がないので、それによって演奏がより感動的に聴こえる、ということは私にはないです。マタイならレオンハルトあたりで聴きたいです。
似たような例としてはヴァルター/ヴィーナー・フィルハルモニカーのマーラーの9番がありますが、これも亡命直前の演奏ということでナチの足音が聴こえる中での切迫感溢れる演奏、などと言われていますが、私にとってはナチの足音は関係なく、戦前の演奏様式を伝える名演の1つ、という印象です。

もっとわからないのはフルトヴェングラーの復帰時期の演奏で、47年の運命やバイロイトの第九がなぜこんなに賞賛されるのか分らないのです。フルトヴェングラーの運命なら戦中の43年の放送録音の方が良いと感じますし、第九ならバイロイトより晩年のルツェルン音楽祭のフィルハーモニー管との演奏の方が良いと感じます。ヘンな人で済みません(笑)。
でもベートヴェンなら私はフルトヴェングラーよりトスカニーニの演奏の方が好きです…。

バックハウスの最後のリサイタルの話は初めて知りましたが、話自体は大変感動的ですが、そのリサイタルのCDを買おうとは思いません…むしろ指の良く回る(らしい)モノラル時代の録音が聴きたいです。モノラル録音のハンマークラヴィア、素晴らしい演奏だと思います。

というわけで、私も音楽に付随する物語に感動はしますが、それはその物語自体に感動するのであって、それに関連する演奏や楽曲が、その物語によって、より感動的に聴こえる、ということはないです…

2014.02.19 02:22

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アンコウ

アンコウ
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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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