1995年にNHKで放送されたものだけど、ちょっと機会があって見た。何度見てもわかりやすく、うまくできていて、最後のイギリス首相チェンバレンの悲痛なラジオ放送で涙が出そうになる。ヒトラーがどのような時代背景のなか、どのようなやり方で首相の座につき、その後どのようにして戦争まで突き進んでいったのかが、とてもわかりやすく描かれている。見たことのない人には是非見てもらいたい。
でもそれ以上に怖いのは今の日本と重なる部分がものすごく多いことだ。
すでに3年前に、今の日本は第一次大戦後のナチス台頭前夜のドイツに似ていると書いたことがあった。そして、今はすでにナチス台頭前後のドイツと似ていると言って良いだろう。しかし、1995年当時、これを見たとき、よもや日本がここまでこの当時のドイツと重ねることができるような国になるとは想像もしなかった。
ヒトラーはまず破綻していたドイツの経済を立て直し、同時にユダヤ人をはじめとする少数派に対する差別を煽り、全権委任法を成立させて独裁者となり、ドイツ民族の存亡が脅かされていると危機感を煽り、ヴェルサイユ条約を無視して軍備を増強し、領土問題で人々の愛国心に火を付けて、あとは一気に戦争へ邁進していく。
現在の日本の誰かがヒトラーだなんて言うつもりはない。そもそもヒトラーの経済政策(ヒトラー個人の手柄では決してない)の成功に対して、株価が上がったと言って喜んでいながら、生活が楽になったという実感がないような経済政策が成功するかどうかは怪しいものである。ヒトラーのような個人崇拝的なカリスマ性がある政治家もいない。全権委任法みたいなものが承認されて独裁国家になるとは思わないし、戦争へ邁進するといっても第二次世界大戦のような戦争がおこるとは無論思っていない。でもこのまま行けば10年以内に憲法を改悪して、自衛隊(その頃には名称も変わっていることだろう)がアメリカの戦争に加わる可能性はかなり高いと思っている。
若い人達は、自分は戦争に行くはずないと思っているかもしれないけど、どこぞの幹事長は軍法会議を復活させて出撃拒否の自衛官(この時点では軍人)は死刑にすると言った。確かに自分は軍人になんかならないという人も多いだろう。これは自衛隊員だけの話だから、と言って擁護しているような記事すら目にする。しかし、現在のような格差社会、原発へ行くか戦場へ行くか、この二つの選択肢を迫られる若い人達がこれからたくさん出てくるのではないか。そもそも憲法改悪後に徴兵制度が敷かれる可能性だってゼロではないだろう。
自分は関係ないと思っている人には、拙ブログではこれまで何度も書いたニーメラー牧師の次の詩を読んでもらいたい。
*
ナチスが共産主義者たちを連行したとき
わたしは黙っていた
だってわたしは共産主義者ではなかったから
やつらが社会民主主義者たちを投獄したとき
わたしは黙っていた
だってわたしは社会民主主義者ではなかったから
やつらが労働組合員たちを連行したとき
わたしは黙っていた
だってわたしは労働組合員ではなかったから
奴らがわたしを連行したとき
抗議してくれる人は
もうだれもいなかった
*
ついでながら、昨今ヒトラーの経済政策、社会政策が素晴らしかったと賞賛する若い人が多いようである。でも、だったらなぜ、同じ時代の経済恐慌とは無縁だったスターリン率いるソ連の経済政策が素晴らしかったと賞賛する人は出てこないのだろう? この「ヒトラーの野望」でも描かれるように、当時のソ連を訪れたバーナード・ショーをはじめとする多くの文化人がソ連のやり方を賞賛した。彼らはむろんその当時に、ソ連で大量虐殺とラーゲリでの強制労働が行われていたことは知らなかった。その後ソ連がどうなるかも知り得るはずがなかった。でも、今わたしたちはそれを知っている。だからもうソ連の当時のやり方を賞賛する人はいない。
同じように、かりにヒトラーの経済政策が素晴らしかったとして、そのウラで行われていたユダヤ人や同性愛者、障害者や少数民族などに対する迫害、スラブ民族奴隷化の計画、並びにその後に訪れる悲劇を知った今、まだそんな世迷い言を信じるような若い人がいるのが驚きである。
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