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映画「12人の怒れる男」(ロシア版)

2010.05.05.17:09

12人の怒れる男 [DVD]12人の怒れる男 [DVD]
(2009/01/23)
ニキータ・ミハルコフセルゲイ・マコヴェツキイ

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例によって、スカパーのシネフィル・イマジカで録画しておいた奴を昨夜見ました。少なくとも筋に関しては、なるべくネタバレしないように書いたつもりですが、シドニー・ルメットのアメリカ映画の方も見てないなら、そしてこれから見るかもしれないのなら、この先はパスしてくださいませ。

元祖と比較しなければならないものではないのだろうけど、ラストが両者の違いを明瞭に表しています。元祖のほうはヘンリー・フォンダとジョゼフ・スウィニイが、夕立があがった初夏のさわやかな夕方、裁判所の立派な階段を下りながら、互いに敬意に満ちた面持ちで別れを告げるのだったと記憶しています。一方ロシア版では、それまで何度かリフレインのように繰り返されながら、途中で切れていたシーン、土砂降りの中を野犬が走ってくるシーン(被告の少年の記憶か心象風景でしょうが、野犬が何をくわえているかがここで初めてわかります。あれって黒澤明の「用心棒」のオマージュかな?)をはさみ、ヘンリー・フォンダに対応する陪審員が一人会場に戻って、室内に紛れ込んだ雀を外へ出すために窓を開けると、窓の外は吹雪です。

監督のニキータ・ミハルコフは最初の作品「光と影のバラード」や「愛の奴隷」、「機械仕掛けのピアノのための未完成の戯曲」や「オブローモフの生涯より」を、公開当時に見ているんだけど、ヴィキペディアで調べると、その後もずいぶんたくさん映画を撮っているようですね。しかし、80年代中頃から映画館へほとんど行かなくなってしまったから、その後のものはなにも見ていないんですわ。当時、ロシア映画をよく見ていて、このミハルコフは他の監督たちとは違って、やけに饒舌で、きまじめなのに、どこかすっとぼけたような映画だと思ったもんです。

しかし、みんな相変わらずよくしゃべるねぇ。ロシア人ってあんなに自分のこれまでの人生を赤裸々に他人に話したがる人種なのか?そういやぁ、ドストエフスキーのマルメラードフもべらべらとようしゃべったっけ。しかしそうした自己吐露から、際だってくるのは、多民族国家であり、急激な資本主義の導入による格差社会と、相も変わらぬ官僚主義的なロシア社会の現状であり、その中で一番の問題はチェチェン問題であることがわかるような仕組みになってます。

でも、そうした饒舌な感情的な主張から、何人かの人たちが、有罪から無罪へ意見を変えます。このあたりの理屈以上に感情に偏ったやりとりが、陪審員としての冷静な判断といえるのか、ややあまいと言う気もします。そもそも元祖でもそうですが、凶器と同じナイフを購入したのなら、どうして最初からそれを見せないのか、筋としては少しずるいという気がするのですがね。

元祖にかなり忠実に、陪審員たちは徐々に有罪から無罪へと意見を変えるが、特にもっとも説得力を持つ根拠の一つとして取り上げられるのは元祖にはない、しかし、如何にも現在のロシアらしい推理です。この点で、元祖は被告の少年が本当に無罪なのか、一抹の不安を感じさせないでもない。でもこちらはこの推理はかなり決定的で、おそらく被告の少年は無罪なのだと確信できます。また、元祖ではリー・J・コップが最後まで頑強に有罪を主張しながら、ついには自分の子供との葛藤を被告の少年に投影していて、それを泣き崩れながら認め、ついに全員無罪と決定するのですが、こちらはコップに対応する役が結構簡単にそれを認めてしまう。そしてそれからが、元祖と決定的に違ってくる。こうした結末を見ると、元祖のほうにも、ここで語られる推測が当てはまるのではないのか。。。。おっと、これ以上言うとネタバレになるのでやめます。

いずれにしても、とたんにみんな及び腰になるのは、見ている我々にだって跳ね返ってくるんですよ。

元祖のやけにすがすがしい「あっぱれ!」とかけ声を掛けたくなるような(でもこのロシア版を見た後では、実は欺瞞が内包されていることに気づいてしまうんだけど)映画がいいのか、それともこのロシア版のようないわゆる考えさせる映画がいいのかは好みですね。

考えさせるところがあった方が高等だと思いがちだけど、そして、僕自身もそういう映画を好んで見てきたんだけど、でも、この映画の陪審員の立場という意味ではなく、一般論として言うのですが、考えさせられる映画を見たからといって、現実の行動に移せるかどうかは別の話ですからね。ここに出てくる陪審員たちと同じで、やっぱり誰でも及び腰になっちゃいますよ。

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comment

CYPRESS
Amazonのレビューは褒めてるのばかりだし、私は法廷小説のファンなんでちょっと厳しい意見を書きました。
それにへそ曲がり気味なので(笑)。
ブログ主殿はこういう変わった(笑)意見がお好みではないかと…

既にかなりネタばれになってるので具体的に書きませんが、個人的には非常に惜しいと思ってる場面があります。ずるい事をやっていて、やっている人物以外気付いていません。これに気付く登場人物がいると話がもっと面白くなるのになぁ。

>でもやっぱり見終わって一抹の不満が残る。あの少年は本当に無罪で良いのか?って。

→その通りです。
反対尋問で証言の信頼性を揺るがされた時、証人を出した側は信頼を取り戻すために再び証人を尋問します。
これを再直接尋問と言います。
この時、法廷小説でよく出て来るのが、相手側の論理をそのまま使って相手側の考え方だけでなくこちら側の考え方もあり得る事を証言させる事。
『十二人の怒れる男』ではこれがそのまま当てはまる場面があります。

ブログ主殿のコメントを読むとブログ主殿もこの点(とそれ以外も)を気付いていて色々書きたいの我慢してそう…(笑)。

ジョン ウェインがまだ元気一杯の頃に頭で問題を解決しようとする映画を作った事は素晴らしい。プロデューサーにも名前を連ねるヘンリー フォンダは自分がどんな人間か、この映画で示しました。

それにしても実際の裁判ならもっとあいまいな、あやふやな証言になるんでしょうね。
誰でも証人になろうとして「事件」を目撃するわけじゃないんですから。
2010.05.11 23:27
ヴァルデマール
CYPRESSさん、いつも貴重なご意見ありがとう。

まあ、映画に何を求めるかっていうことです。こんなこと、ありっこないだろうって言いだすと、ほとんどの映画は成り立たないでしょうからね。私自身は、元祖の映画はヘンリー・フォンダといいリー・J・コップといい、他の俳優たちもみんなその演技だけ見ていても楽しいですけどね。

ずいぶん前にどこかの小劇場で舞台版のものも見ましたけど、やっぱりすごいとおもいました。でもやっぱり見終わって一抹の不満が残る。あの少年は本当に無罪で良いのか?って。

あの時代のアメリカ映画ってほんとにすがすがしさと、何とも言えない楽天的な善意に満ちあふれていて、その後のベトナムから現在に至るアメリカの惨憺たる有様をみると、なおさら、その実現しなかった理想に涙が出そうになります。

でも、あまり読者のいない、こんな拙ブログのコメント欄にお書きになるより、おっしゃるようにアマゾンのレビューにお書きになった方がよろしいのではないでしょうか?そのほうが多くの反応があるでしょうし。。。
2010.05.09 21:44
CYPRESS
ではハリウッド版について

1:
ん~、まぁ面白いんですが…
群衆劇としても楽しめないなぁ。

2:
リチャード ノース パットゥスン、スティーブ マーティーニ、ペリー オショーネシーなんかの司法試験に合格したアメリカの本物の弁護士が書いた法廷小説を読むと、かなり見劣ります。
法廷小説の醍醐味は法廷での検察側と被告側の反対尋問にあります。
完全無欠な証言と証拠なんて無いから再尋問で「筋の通った疑問」を陪審団(=12人+補欠の陪審員)に示します。
これが私の様な素人には毎回意表を衝かれ興奮します。
(→ディベイトが人が死なない殺し合いで血が流れない殴り合いなのがよく分かります)
検察官も弁護士も相手のあいまいな点や弱点や思い込みを徹底的に(穏やかな声で)攻撃してきます。
それに比べこの『十二人の怒れる男』の有罪側陪審員達の弱いこと弱いこと。
興奮しやすく偏見に満ちた男(陪審員3番、リー J コッブ)を有罪側にするのはあまりにも安直であり思慮不足。
悪役が弱過ぎるから話が盛り上がりません。
有罪側の首席弁護人に当たるのが陪審員4番(リムレス(?)眼鏡のE G マーシャル)なんだけど、何にもしないからなぁ。

3:
無罪側の陪審員8番(ヘンリー フォンダ)がやってる事が被告側首席弁護人がやる事。
素人が弁護士になっちゃ困ります。素人が人の命を扱っちゃマズいでしょう。
日本の2時間ドラマで一般市民が殺人事件を解決する元凶はこの『十二人の怒れる男』では?

4:
陪審員全員が白人の男ってのも(移民第一世代らしきが一人)、今では有り得ない話。

5:
ヘンリー フォンダを被告側の弁護士にして法廷劇にすれば遥かに面白い映画になり、『戦場に架ける橋』の代わりに1957年のアカデミー賞を総嘗めにしたのに。

6:
Amazonなら私は星一つだね。
2010.05.09 18:42

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アンコウ

アンコウ
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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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