fc2ブログ
2023 08 << 123456789101112131415161718192021222324252627282930>> 2023 10

三木卓「K」読書感想文

2012.08.25.16:24


KK
(2012/05/22)
三木 卓

商品詳細を見る


全く赤の他人だったのに、たまたま時間的場所的に重なって、一緒に生活を始める。生まれも育ちも全く違い、なのに時空をともにした男と女なんて無数にいるはずなのに、たまたまその中のひとりと一緒になり、生活を共に始める。これが夫婦ってわけだけど、よーく考えてみれば、こんなん、お互いに理解し合えないのは当たり前だよね。

Kとは奥さんの頭文字だ。詩人三木卓と詩人福井桂子の夫婦。でも育ちが違いすぎるわけ。一緒に暮らし始めてすぐに三木卓がKに風呂を沸かしてと頼んだら、そんなことをしたこともない北東北の大店のお嬢様のKはプイといなくなってしまう。給料を渡したら全額自分の服を買ってしまって、「あれ、わたしに下さったんじゃなかったんですか」とのたまう。働いている出版者に遅刻ばかりするので、起こそうと引っ張ると「片方の手でふとんをしっかりつかんでいるので、ふとんごとずるずるとこっちへ近づいてくる」ありさま。

それでも昭和30年代の生活の様子は、貧しいけど楽しいことがたくさんあったというのがよくわかる。90リットルの冷蔵庫やシャボン玉ホリデー、東映フライヤーズや後楽園のボクシング、初めて食べるピザや東京オリンピック。まさに「幸せの総量は時代によってそう変わるものではない」っていうホイジンガの名台詞を思い出させる。

でも、Kもまた三木と同じく詩人である。ただでさえ理解しあうのが難しい夫婦が、芸術家同士って、ある意味どちらも自分のやりたいことがあるわけだし、相手の作品も気になるだろうから大変だろうね。さらに作品をどう批評するかだって大変そうだ。へたに善意から批評すると自尊心を傷つけることになる。だから「彼女の詩に対して不誠実のそしりをまぬかれないが、ぼくは共同生活者としての平和の方を大事に守るべきだ」と考え、批評は極力避けるようになる。Kのほうもわざと大学院へ行きたいと言い、三木が賛成すると、やっぱりわたしに詩を書かせたくないのだ、だからそんなことを言うのだと、むちゃくちゃな論理展開。こりゃあ、夫としちゃあ困るよね。

しまいには、「あなた、ここじゃあ、おちついて仕事できないでしょう」と言いだし、勝手に別のアパートを借りてくる。さらに「あなたに家へ帰ってきてほしくないの」と言い出す。男としては離婚の要求かと思いたくなるが、どうもそうではないらしい。なのに、自分が病気になると付き添うことを強要する。こう書くと随分身勝手な女だということになりそうだけど、むろんこれは男の三木の目からみたものだから、Kの側からすれば別の言い分があるだろうし、むろんそんなことは分かっているから、三木の書きぶりはやさしく穏やかで、時としてユーモラスなんだろう。

結婚して10年以上の、猫に翻弄されてもいいと思っている男性にお勧め。


良ければ、下のボタンを押してみてください。


にほんブログ村 本ブログ 読書備忘録へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト



comment

post comment

  • comment
  • secret
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackback

trackbackURL:http://tatsuya1956.blog48.fc2.com/tb.php/1037-bf4ead34

プロフィール

アンコウ

アンコウ
**********************
あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

* 時々コメントが迷惑コメントとしてゴミ箱に入れられることがあるようです。承認待ちが表示されない場合は、ご面倒でも書き直しをお願いします。2017年8月3日記す(22年3月2日更新)

カテゴリー

openclose

FC2カウンター

Amazon

月別アーカイブ

検索フォーム