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カルロ・レーヴィ「キリストはエボリで止まった」覚え書

2020.06.08.22:40

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エボリはサレルノの南東に位置する南イタリアの町。キリストはそこまでしか来なかった、そこより南には足を踏み入れなかったと、イタリア最南端に住む人々は自虐的に語る。

地図で見るとエボリはイタリア半島を足に見立てれば、足の甲の少し上あたりにある。そこからさらに南方へ直線距離にしても100キロ以上南方の山の中の寒村、土踏まずあたりにある村に、反ファシズム運動で捕まった主人公(=著者)は流刑になったのである。1930年代後半の戦争が始まる前である。

その地での8ヶ月を、その村の人間模様や周囲の風景、風俗や迷信について書いた小説(?)である。主人公は医学部を出た作家で画家という、いわばインテリなので、まともな医者のいないこの地では流刑囚にも関わらず重用され、尊敬される。

この本を図書館で借りたのは3月末だったけど、コロナで家に閉じ込められ、慣れないパソコン相手の仕事で忙殺されて、最初のところを30ページ読んだところで長い中断を挟んで、やっと昨日読み終わった。

映画のシーンのように明確な像を結ぶ表現があるかと思うと、どうもダラダラと長くてよく頭に入りづらいところもあったけど、それぞれの逸話がかなり面白く読めた。特に前近代的な迷信(と片付けていいのか?)に、なかなか忘れられない話が多い。

洗礼を受けずに死んだ子供たちの霊モナキッキョは害のない悪戯もするけど、山賊が隠した宝のありかを教えてくれたりする。山賊といえば、イタリア独立時には欠かせない存在で、そんな山賊だった者たちの思い出も出てくる。

あるいは人々から雌牛の娘とされる農婦は、夫も子供もいるのに、自分でも雌牛の娘であることを認めていたりする。名前が呪術的な力を持っていて、現実に作用すると考えられていたりもする。人狼を排除するためのしきたりとか、親族が亡くなった時の泣き女みたいな儀式とか、どれも何か寂しく懐かしい童話のような話が色々出てくる。

「羊飼いたちの古い神々、つまり雄山羊や儀礼用の子羊は毎日人々の通う道を走り回っており、動物や怪物の神秘的世界と人間を分ける確固たる境界は存在しない」(p.156)

だから人と動物は対等なのである。

「見捨てられた村に、ある動物的魔力が広がっているように思えた。正午の静かさの中に、不意に、ある騒音が響いたが、それはゴミの中で転げ回っている雌豚の音であることが分かった。そしてロバの争いえない鳴き声が大きく響き、それがこだまとなって、男根風のグロテスクな不安を掻き立てながら、鐘の音よりもずっと良くとどろき渡った。」(92)なんていう描写はとても映像的な感じがしたけど、どうでしょう?

こういう迷信世界って昔魔女展で色々見たな、と思ったら、案の定魔女たちも出てくる。結局キリストがここまで来なかったおかげで魔女たちも大手を振って薬草を調合したり、呪文を唱えたりできたのだろう。

他にも、拙ブログとしては自転車選手になることを夢見ている労働者の青年とか、自転車キャップをかぶって仕事をしている修理工が出てきたりして楽しかった。

しかし、当時のイタリアでは、ムッソリーニに反抗した人たちって、南部の僻村への流刑っていう軽い(?)処罰で済んだのね。しかも8ヶ月ほどでエチオピア戦争勝利の恩赦で解放されるし。この後戦争が始まってからのことを考えれば信じられないユルさである。

なお、村人の名前はメモしておいたほうがいいです。たくさん出てくるし、しかも忘れた頃に再び出てきたりします 苦笑)


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プロフィール

アンコウ

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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

* 時々コメントが迷惑コメントとしてゴミ箱に入れられることがあるようです。承認待ちが表示されない場合は、ご面倒でも書き直しをお願いします。2017年8月3日記す(22年3月2日更新)

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