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映画「魂のゆくえ」(ネタバレしてます)

2020.04.06.11:28

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前にあげた「スターリンの葬送狂騒曲」と一緒にツタヤディスカスで借りた映画です。で、同じように二回続けて見ました。いろんな過去の映画のオマージュ満載の映画です。僕は面白かったし、大好きな部類の映画です。自然光だけで撮影していると思われる暗く寒々しい風景は、特に夜景が美しく、また日中も灰色が基調で見ていて気持ちが良いし、左右シンメトリーで正面から写す家の画像や、室内シーンのバランスと静謐さも心地いいです。会話が途中をカットすることなく、おかげで途切れ途切れに言い澱むような間があってドキュメンタリーのような雰囲気です。

主人公の牧師(イーサン・ホーク)がろうそくの火のもとで毎晩日記を書いていく、その日記が朗読されていく、そしてその牧師は胃がんで、日記を書きながらアルコールだけを摂取しているというところは全てロベール・ブレッソンの「田舎司祭の日記」の設定を使っています。そしてブレッソン風のそっけない撮り方を意識しているのも間違いありません。
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ブレッソンの「田舎司祭の日記」は新たに赴任してきた若い田舎司祭が教区の信者たちに馬鹿にされたり、娘たちにからかわれたりしながら、胃が痛いので安いワインだけを飲んで、美味しいものも食べず、カトリックの坊さんですから妻も子もなく、いいことがないまま死んでしまうんですが、こちらの「魂のゆくえ」の方はプロテスタントの牧師ですので妻帯した過去があり、子供もいた設定ですね。そして飲んでるのはワインではなくウィスキーでしょうか。

(ブレッソンの田舎司祭はただ一つ、最後の方にオートバイに乗って楽しかったと言うシーンがあります。こちらの「魂のゆくえ」でも、自転車に乗って楽しかったと言うシーンがあり、ひょっとして、これもオマージュの一つかな?)

また、礼拝に集まる信者の数の少なさや、牧師自らが神の沈黙に悩み、キリスト教を疑い始めているところや自分の受け持つ信者が自殺してしまう点は、これも間違いなくイングマール・ベルイマンの「冬の光」と重なります。ベルイマンの「冬の光」では主人公の牧師はキリスト教を疑い始めているという生易しいものではなく、もうキリスト教など全く信じてません。教区の信者たちから総スカンをくらい、最後は愛人(牧師に愛人がいるというのも驚きですが)が一人しか聞いていない教会で、立派な説教壇から神の栄光について語るという、むちゃくちゃ酷い映画でした 笑)
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そして、その中で自殺する男(上の写真で右側のマックス・フォン・シドーがやってます)は中国が原爆を開発したことで第三次世界大戦が起きるのではないかと不安で死んでしまうんですが、このシーン、川の流れがものすごい轟音で、警官や牧師らがウロウロするだけで何を話しているのか全く聞こえないという悲痛なシーンで、あまり取り上げられませんが映画的にすごいシーンだと思います。

こちらの「魂のゆくえ」では自殺するのは地球環境に不安を感じている環境活動家です。どちらも自分の教区の信者が自殺してしまうという、牧師としては最悪の結果を迎えます。他にも「冬の光」を思わせるシーンは、元妻?に対してむちゃくちゃ酷いことを言うところもそうですね。「冬の光」では愛人に対して酷いことを言いますが、こちらでは元妻に対して君を軽蔑する、なんて酷いことを言います。

*
お話は、建てられて250年を迎える教区教会の牧師が主人公です。彼は元従軍牧師で、息子も軍へ入隊させたんですが、息子はイラク戦争で戦死し、そのせいで従軍牧師を辞め、妻とも離婚しています。その彼が教区の信者からの相談で、環境保護活動家の男の相談に乗るけど、男はすぐに自殺してしまいます。

牧師は血尿や嘔吐の症状があり、明らかに体調悪そうです。250周年記念の催しを大々的に祝うよう本部の上司の牧師から言われていますが、その本部をはじめ記念式典は、自殺した環境保護活動家が敵視していた企業から多額の寄付を受けていることがわかります。夜な夜なネットで環境問題を調べ、その企業が政府の環境保護施作の邪魔をしながら環境破壊をしていることを知り、上司の牧師に訴えますが、事なかれ主義の上司は彼のいうことに耳を貸そうとしません。

この上司が言うセリフで、キリスト教が政治的に保守的になる理由がよくわかります。神の意志は現在に反映されているのだから、それに逆らうことをしてはいけない、と言われれば、戦争だって貧困だって格差だって環境破壊だって、神の意志だと言えてしまうわけですから。それはワークショップでの少年の超保守的・右翼的な発言にも垣間見られます。

それと並行して、牧師は自殺した環境活動家の妻メアリーの相談や精神的なケアもしなければならず、二人の間は徐々に接近していきます。その二人が「ミステリーツアー」と称する神秘体験をするシーンでは、あからさまなタルコフスキー的シーンも出てきます。これはテレンス・マリックの「ツリー・オブ・ライフ」でも出てきた空中浮遊で、もうこういうシーンが出てきたら間違いなくタルコフスキーのオマージュですね 笑)

最後は250周年式典です。すでに牧師は環境問題から、いわゆる神の沈黙の問題に行き着き、キリスト教信仰に疑問を感じ始めています。そんな牧師がとった(とろうとした)行動とは?

以下、ネタバレします。特に最後が衝撃的??なので、この映画をこれから観ようと思っている人は読まないよーに 笑)

でも、ネタバレと言いながら、実はよくわからないんですよね。僕はラストのシーンはもうすでに主人公の牧師は死んでいるんじゃないか、その魂が見ている夢なんじゃないかと思ったんですけどね。

何しろ、よくわからないことだらけです。牧師は環境保護活動家の家にあった自爆ベストを着て250周年式典に出席しようとしています。つまりその式典には問題の企業のCEOも出席しているし、上司も市長もいます。自殺した環境活動家に変わって自爆テロをしようというわけです。

ところが、その式典に、来ることを禁じていた活動家の妻メアリーが来てしまいます。牧師はうろたえ、自爆ベストをかなぐり捨て、その代わりに少し前に墓地で拾った有刺鉄線を体に巻いて、まるで鞭打ち苦行僧のように血まみれになり、さらに正装した上でトイレの詰まり防止剤?をコップについで飲もうとします。

と、こう書いてもよくわからないですよね。なんかシュールな展開なんですよ。

250周年式典の現場では牧師が現れないので、上司が牧師館へ迎えにきますが鍵が閉まっているので引き返す。なのに、最後の瞬間にメアリーが現れるんですね。なんで? 二人が抱き合いキスする。その長いキスシーンは、この映画で初めてだと思うんだけど、カメラが二人の間をぐるぐる移動します。それまでのカメラはほぼ固定で、パンすらしなかったと思うんだけど。で、そのグルグルの途中で突然画面が真っ黒になり、下からゆっくりクレジットが上がってきます。

え?? え? なに? 何が起きたの?? という感じで、このあまりに唐突な終わり方にもびっくりさせられます。あのメアリーはどこから入ってきたんでしょう? 

うーん、わからん。以前書いた韓国映画の「コクソン」のような、自分で納得できるお話を作りたくなります。


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プロフィール

アンコウ

アンコウ
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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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