以前紹介した「ラブレス」と同じアンドレイ・ズビャギンツェフ監督の2014年の映画。こういう映画が大好きだあ 笑)いろんな暗示があちこちにふりまかれていて、話をわかりやすく説明せず、重く暗く、最後もカタルシスなんてかけらも無い。
以下、ネタバレしますが、私は2度目に見たときのほうがよくわかったし、退屈せずに面白く見られたので(むしろ1回目の方が眠くなった 笑)、ネタバレが問題な映画ではないと思います。ロシアや東欧映画にはこういうタイプが多いですね。というか、僕がそういう映画を好んで見てるってことかな 苦笑)
さて、いろんな暗示と書いたけど、むしろ暗示は1つ、政治的なものだ。悪辣な市長の執務室にはプーチンの肖像が掛けられていて、これでもうすでにかなりアブない。主人公らがみんなで河原で小銃や機関銃をぶっぱなすシーンでは、歴代のソ連の指導者たちの写真をマトにしようとする。直接プーチンの名は出てこないが、最近のやつはしばらくは壁にかけて熟成させるなんて言う。
だけど、何よりひたすら悪がはびこり不公平がまかり通る理不尽な現代ロシア社会に対する批判がこの映画が描きたかったものだろう。その意味では黒澤明の「悪いやつほど良く眠る」を思わせる。
権力者は警察も司法も宗教も、そしてマフィア?すら支配下に置き、主人公たちを追い詰めていく。不当な立ち退き命令によって先祖伝来の家を追われそうになっている主人公は旧友の弁護士をモスクワから呼んで対抗しようとするが、市長に対する被害届を提出に行くと拘束され牢屋に入れられてしまう。これはすぐに釈放されるのだが。。。弁護士も市長の過去を調べ上げて資料を揃え、主人公の求める額の金で取引しようとするが、一旦うまくいったように見えながら、逆にボコられ脅されて逃げ帰ってしまう。
原題は「レヴィアタン」 旧約聖書に登場する海の怪物で、この映画の中でも海の中をのたうつクジラが決定的なシーンで出てくるし、海辺にクジラ?の巨大な骸骨が出てくるけど、むしろホッブスが「リヴァイアサン」でこの怪物を国家の比喩(良い意味らしいです)で使ったように、この映画ではおそらく権力のことではないかと思う。それは司祭が主人公に語るヨブ記の中のレヴィアタンを人間が逆らっても無駄な怪物という意味で語っていることからもわかる。
「レヴィアタンを鉤にかけて引き上げ、その舌を縄で捕らえて屈服させることができるか。ヨブは運命を受け入れて140まで生きた」
つまり権力を屈服させることはできない。運命を受け入れば幸せになれるということだ。それを受け入れなかったために主人公は妻を亡くし自らは妻殺しの冤罪(?)で刑務所に入り、先祖から受け継いだ家は最後パワーショベルによって破壊される。
最初に見たときに、一度は市長を追い詰めた弁護士が襲われ、そのまま泣き寝入りのようにモスクワへ帰ってしまうのが何故なのかと思ったのだが、もう一度見直したらすぐ前に市長と司教が会食するシーンがあり、そこで裏から何か手を回したのだと思われる。あるいは娘のことを言われたから家族のことを心配したのだろうか?
宗教が弾圧されていたソ連時代のタルコフスキーはロシア正教に対して強い敬慕の思いを繰り返し語っていたけど、ロシア正教が権力となったソ連崩壊後のズビャギンツェフの態度はそれとは真逆。ただ、映像はどこか宗教的な雰囲気があるので、監督が無神論者であるかどうかはわからない。ひょっとしたら廃墟の教会がなんども出てくるが、それがラストの立派な白と金の教会との対象で、本来の信仰が堕落してしまったことを示しているのかもしれない。
映像的にロシア映画に特有の長回しはあまりないけど、決定的なシーンは画面の外で行われるのはブレッソンやロシア系の監督たちに多いやり方。何しろ風景の荒涼感がすごい。プリブレジヌイという町の名前が出てくるので、どこらへんだろうと検索したらいくつか引っかかるんだけど、この映画の舞台とは思えない内陸だったり、ロシアの飛び地のカリーニングラードだったり、どうもよくわからない。ただ、海辺の寂れた町で、家々はどれも廃屋のよう。巨大生物の死骸のようなボロボロの半分沈んだ廃船が最初と最後(だけではないが)に非常に印象的に写されて、この映画の雰囲気を見事に表している。
ただ1つ救いがあるとすれば、最後に残された少年を引き受ける主人公の友人夫婦だろう。でもそれだけだな 苦笑)
「ラブレス」でも少年はどうなったのかわからないままだったが、この映画でも妻の死は自殺だったのか他殺(夫が犯人であるとは思えないので、市長の差し金か?)かは不明のままで、このあたりの作りも好みだわ 笑)
同時に、日本でもレヴィアタンは猛威を振るっているようで、ロシア社会を笑えなくなりつつある。
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