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映画「未来を乗り換えた男」(ネタバレしてないが 笑)

2019.02.06.13:14



現代?のフランスに、ファシズムの国ドイツから政治亡命してきた男の話。いやSFではない。舞台も人々も完全に現代のフランスなのに、話している内容は戦争中の亡命者たちの話す内容だ。ナチスが出てくるわけではない、追ってくるのはフランスの重武装した憲兵たち。ただ、パリはドイツに包囲された、まだマルセイユは大丈夫だ、ピレネーを越えていく、などという切迫した会話と、通過ビザを取るためにアメリカの領事館?へ行ったり、メキシコ領事館で長蛇の列に並んだりする。

もちろんナチスの時代の亡命者たちってこんなだったんだろうなぁと思わせるし、それが現代のマルセイユでもちっとも違和感がないし、迫害者たちがナチスの制服ではなく、黒く分厚い防弾チョッキと防弾ヘルメットに身を包んだ現代のフランスの憲兵たちであってもおかしさを感じさせないのは、国を逃れて不法滞在する人たちっていつの時代にもいるからだと思う。

こういうやり方って例えばシェークスピア劇を舞台を現代にして、とか、ワーグナーのオペラの舞台を現代になんていうのは現代では普通にやることになってるから、それを思えがそれほど斬新とは言えないのかもしれないけど。


そういえば、ワーグナーの「ニーベルングの指輪」の現代劇版の話です。昔、NHKのFMで年末になるとその年のバイロイト音楽祭の録音を放送したんだけど、1976年初めてパトリス・シェローというフランス人が現代劇にアレンジして演出したのでした。現代劇にアレンジっていうのは地方のオペラ劇場ではそういう演出があったと聞いていましたが、ワーグナーの本家本元のバイロイトでやったというのが大ニュースだったわけです。

すごかったですね 笑) 幕が開くや否や音楽が聞こえないほどのブーイングの嵐。ワーグナーってナチスの音楽というイメージがあって、戦後イスラエルで初めて演奏したバレンボイムは観客に殴られたんじゃなかったかと記憶してますが、そういう「純粋アーリア人音楽の権化」笑)をフランス人が、しかも伝統をぶっ壊すような演出で行なったってことで、演奏中に爆竹が鳴ったりしたし、演奏会でブーイングの嵐って初めて聞いたし、あれ以降もあんなすごいブーイングを聞いたことなかったし、衝撃的でした。

ワーグナーを現代劇として演出するというのはナチス色を払拭するための方便だったと思いますが、そしてそれに反対したドイツ人聴衆たちがナチだったわけはないのですが、心情的にドイツ人たちの気持ちはわからんでもないです 苦笑)

今ではワーグナーに限らず、独墺系オペラを現代を舞台にしたアレンジって珍しくなくなっちゃいましたが、なぜか、イタリアオペラはそれをやらないですね。ある意味ドイツとイタリアの歴史や、戦後に背負わざるを得ないものの重さの違いなど、あるいは芸術に対する態度の違いなどを考えさせられます。


閑話休題。映画の話に戻ります 笑)主人公の男(フランツ・ロゴフスキという俳優で、以前紹介したハネケの「ハッピー・エンド」で息子役をやって最後パーティーをめちゃくちゃにしてました。悪党ヅラで、飴舐めながら喋ってない?っつう舌足らずな喋り方です)は、自殺した作家の身分証明書と渡航証明を手に入れ、彼になりすまして船に乗ってメキシコへ逃げようとしています。そこにその自殺した作家を探す妻(こちらも以前紹介したフランソワ・オゾンの「婚約者の友人」の老け顔の美少女パウラ・ベーアが良いです)と、その妻の愛人の医者が絡み、最後はこの監督の前々作「東ベルリンから来た女」の最後と同じ感動的な展開に。ただ、それだけでは終わりません。なんじゃ、こりゃあ?という結末が待ってます。

監督はクリスチャン・ぺツォルトという監督で、上記の「東ベルリンから来た女」で名を売り、その後「あの日のように抱きしめて」という映画で有名になりましたが、この映画、あちこちにこの前作と重なるところがあります。自己犠牲の結末は上に書いた通りだし、別の人間になりすましたらその妻が探しているのが実はなりすました男であり、それを男は彼女に言えないというのは「あの日の〜」のヒロインが夫から妻だと気づかれないという設定の裏返しのようです。そして最後に流れる歌が、映画の内容を補足説明する点も同じで、前回の「あの日の〜」の「スピーク・ロウ」に対して、今回は「ロード・トゥ・ノーホエア」です。

街中やカフェの中のシーンでの周囲の音声が変な臨場感を煽ってきます。無論途中に出てくる少年と聾唖の母親、彼らがいなくなった後のアパートの様子などがなくても、現代のマルセイユが舞台になっているだけで暗示しているものはわかります。最後の音楽とともに、ある意味、親切すぎるかな、とも思ったりしますが。。。

ネタバレしませんが、最後の結末と終わり方は、舞台を現代にしたナチス時代の話という目眩のするような設定でこそ成立するやり方でしょうね。

***追記(2/7、8:56)***
バレンボイムは殴られたの? と拍手コメントで質問されました。うーん、どこかで写真とともに見たような気がしてたんだけど、ネットで調べる限り、殴られてませんね。(Tさんご指摘ありがとうございます) しかもネットで探すと、バレンボイムよりも20年も前にズービン・メータがワーグナーを演奏したとある。一方で、演奏しようとしたけど、その場にいた収容所に入れられていた人たちの抗議でやめたと書いてある記事もあります。他にも無名の指揮者が演奏したことがあるとか、ラジオで間違って流して謝罪したとか、まあ、ワーグナー自身はナチスなんかよりずっと前に死んでるので良い迷惑でしょうけど。もっともワーグナーは確かに反ユダヤ的なことを書いたり言ったりしてるようですが。


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アンコウ

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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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