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ルトガー・ブレグマン「隷属なき道」覚書き

2018.05.30.21:34

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最近良く聞くベーシックインカム、どんなもんなのか知りたくて読んでみました。ただ、この手の本は苦手で、あれだけ話題になったピケティも手に取ろうともしなかったんですが、こちらは厚さもそれほどでなかったので 笑) まあ、結果から言えば、とても読みやすかったし、何より章ごとにまとめの1ページが付いていて、それが理解をさらに容易にしてくれたと思います。

僕はこのところ、人類はこのまま行けばホーキング博士が言っていたように、後100年ぐらいで滅んでしまうのではないかと思っていました。これだけ格差が広がり、排他的な感情が広まって、弱い者同士がいじめあっているような社会の中で、しかもこの先の具体的な理想の未来像も見つからない。

個人的には、このところ繰り返し思うのはジブラルタル海峡で夕日を見ている最後のネアンデルタール人のイメージばかり 苦笑)

科学技術は進歩発展し、人類は宇宙の果てまで見つけそうな勢いだけど、一方で地球上ではご覧の状態。あらゆる元凶は「お金」というものなんだろうと思いはすれど、あまりに巨大な経済システムの前に、ではその元凶をどうすればいいのかは皆目見当もつかない。まさか今更の共産主義はありえないだろうから、僕としては北欧の社会民主主義なんてもの(それが具体的に細かいところでどういうシステムになっているのかわからないけど、大雑把に言えば教育や福祉、医療に金を使う制度)に期待したりもしたわけです。だけどその本家の北欧でも新自由主義的風潮が強まっているようで、同時に排他的な勢力も人気を得はじめているような話が伝わってきます。

この本はそんな中でユートピアを想像することの大切さを強調しながら始まります。現在はほとんどすべての人が貧しく飢えていた中世の時代に考えられていたユートピアそのものでありながら、逆にこの後のユートピアを思い描くことができないのが現在の状況だと。

そこで出てくるのはベーシックインカムという制度。すべての人に(貧しい人だけではなく全ての人に)生活するに十分なだけの額(フリーマネー)を給付するというシステム。もらったからといって、何か義務が生じるわけではない。何に使ったか報告する義務もない。

そんなことをしたら、みんな遊んで暮らし、賭け事やクスリや酒などに使ってしまうのではないか。私も「小人閑居して不善を為す」なんていう言葉を連想しました(もっともこれは本来この意味ではないようですが 笑)。ところが、これまで様々に行われてきた実験では、まったくそうならない。例えば2009年にロンドンで行われた実験では、十三人のホームレス男性にフリーマネー(自由に使えるお金)として日本円で約45万円が支給されしかもその見返りに何かをする必要はなく、何に使うかは自分で決めて構わない。その結果は、詳しくはこの本を読んでもらいたいけど、簡単に言えばヘロイン中毒の男も含めてみんな生活が改善し、路上生活から救い出されることになった。

この実験によりかかったコストはソーシャルワーカーの賃金を含めても日本円にして750万。しかし、それ以前にこれらの十三人のために使われていたコスト(警備費、訴訟費用、社会福祉費など)は年間6千万。「エコノミスト」誌でさえ、「ホームレス対策費の最も効率的な使用法は、彼らにそのお金を与えることだ」と結論付けた(p.33)そうです。あるいはカナダで1970年代に行われた1000世帯を対象にしたベーシックインカム実験では、入院期間が8.5%減少、家庭内暴力やメンタルヘルスの悩みも減少。

そしてアメリカでベーシックインカムによる貧困撲滅にかかる費用はGDPの1%以下、軍事費の四分の一だそうです。こんな例がたくさん出てきます。

勘違いしてはならないけど、本書の帯に描かれている言葉がそれをはっきりと表しています。曰く、

「福祉はいらない。お金を直接与えれば良い」

先進国に限れば、ものは余っていて人々はもう欲しいものなどないわけで、世の中にはあらゆるものがあふれるようになった時、人々はもう欲しいものなど無くなってしまったような感じです。なのに相変わらず成長戦略とか言って、経済は成長しなければ人々は幸福になれないかのような妄想が世界を支配し、世界の富は1%の人に集まり、格差はどんどん広がっています。

多くの人が言うように、環境破壊や温暖化のことを考えれば、この辺りで人は考えを変えなければならないはずです。だけど、一度便利なものを知ってしまったら後戻りできないのは、冷房に慣れてしまったら、もう扇風機にはなかなか戻れないのと同じこと。このままではまずいだろう、人類は一度コンピューターをやめてグローバルもやめて、200年前の産業革命前の生活スタイルに戻る方がいいんじゃないかとか思ったりもするけど、これは絶対無理でしょう。

そこでこの本が提案するのが、AI と人間が競争しても多くの仕事ではAIに絶対勝てない。ならば、人間がやるべき仕事は教育や医療や福祉の分野ではないのかということと、週15時間労働の提唱がもう一つの本書のキーです。AI (ロボット)の開発により生産性は過去最高レベルなのに、人々の平均収入は落ち、雇用は減っています。AI(ロボット)が「中流」の人々の仕事を奪い、不平等はどんどん広がっていくけど、これが嫌だと言って、産業革命時のラッダイト(打ち壊し)をやるわけにもいかないだろうし、何よりも便利で快適になったわけだから、それを手放したくなければ残る選択肢はベーシックインカムと労働時間の短縮しかない、というわけです。

そして最後に主張されるのが国境を開くこと。これは結構反対する人が多いでしょうね。ただ、著者は世界の貧困を一掃する最良の方法は「開かれた国境」だといい、実現すれば世界を二倍豊かにすると様々な研究結果を上げています。

想像してみましょう。単純にすべての人に生活できるだけの額のお金を直接与えることで、現代社会の様々な問題が一気に解決するでしょう。「生活保護なめんな」なんていう差別的なことを言う公務員はいなくなるだろうし、不正受給(実際はほとんど無い)に対する不満もなくなるでしょう。変な妬み嫉みはなくなるだろうし、そもそも、あらゆる人がひとまず生活するための金を稼ぐためにあくせくしなくて済むなんて、素晴らしい社会ではないでしょうか?

そんな金はどこから出てくるんだ、という人もいるでしょうけど、大丈夫、課税のシステムを変えれば問題ない。

まあ、これらはすべて現在の安倍政権のもとで行われようとしている経済政策の真逆を行くもので、「強欲」というやつが、このユートピア実現のための一番の手強い敵になるんだろうなぁ。

まあ、正直に言って今ひとつ何か納得しきれないところもあるけど、このベーシックインカムという制度をもう少し本気で考えてみるのは悪いことではないだろうと思うし、これをベースにいろいろ考えてみたいと思います。同時にまた、一つのユートピア像のかけらのようなものが見えたような気がしています。

最後に一つ苦言。著者はオランダ人だそうで、英語からの訳だからこうなるのはしょうがないのかもしれないけど、ルトガー・ブレグマンという表記は困ったものです。なんでも英語読みすればいいってもんじゃないでしょ? オランダ語ならルトヘル・ブレフマンでしょう。こんなのインターネットの時代で、すぐに調べられると思うんだけどね。まあ、過去にも音楽家のドヴォルザーク(本当はドヴォジャーク)や童話のアンデルセン(アナーセン)の例もあるから目くじら立てなくてもいいのかもしれないけど。


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アンコウ

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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

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