やれやれ、ソクーロフという監督はなんちゅう映画を作るんでしょうか!
エルミタージュはサンクトペテルブルクにある収蔵美術品数世界最大の美術館。サンクトペテルブルクは西洋かぶれのピヨートル大帝が18世紀初頭に沼地に作った人工都市なので、歴史はたかだか300年の新しい街です。ピヨートル大帝やエカテリーナ女帝、それに最後の皇帝ニコライとその一家、そしてそれらの間に現在のシーンが90分ワンカットで映し出されます。
ヒッチコックの「ロープ」だったか、確か全編ワンカットという映画はありました。また大島渚の「日本の夜と霧」でワンカットが異常に長く、当時の技術ではそんなに長くフィルムが続かないので、登場人物たちが電信柱に隠れたところでつないで、ワンカットのように見せるなんていうアクロバットみたいなことをやってました。
それをこの映画は、エルミタージュ美術館の中で延々と場所を移動し、時間を超えた場面を、ものすごい数の人の中を、豪華にして絢爛たる大舞踏会の中を、カメラがどんどん移動していきながらの文字どおり90分ワンカットです。ヴィキペディアで見ると4回撮影して4回目にやっと成功したとか。
それにしても、カメラが廊下をブレることなく移動したかと思うとそのまま空を飛ぶように移動し、果てはオーケストラの上空から映したりして、どうやって写したんでしょう? ちょっと魔法のような感じです。
ところで、この映画の結構は、カメラがナレーターの目になっていて、どうやら人々にはこのナレーターが見えないらしい。つまり、ナレーターは時空を超えて、様々な時代のワンシーン(全てたわいもないシーンばかりで、劇的なシーンはありません)を見ながらエルミタージュ美術館の中を移動していきます。同時にもう一人時空を超えている存在が、ちょっと吸血鬼的なシルエットの黒服の男です。この男とナレーターがやりとりしながら、カメラ(=ナレーター)は彼を追いながら、このエルミタージュで起きた300年の歴史の一場面を見ていくというのがこの映画の結構です。この黒服の男はナレーターとは違って、その場にいる様々な時代の人には見えていて、彼らと直接会話したり遮られたり踊ったりします。
ただ、ちょっとわかりづらいのはいつものことですね。廊下を進んでいくと、暗い部屋の中で、突然ピヨートル大帝が怒っていたりします。そして部屋を移ると突然現在の人々が絵を見ていて、そこで黒服の男は現実の美術館の館長と話し合い、また部屋を変わるとエカテリーナ女帝が演劇を見ていたり、ニコライの子供達や家族が食事をしていたり、最後は19世紀の帝政ロシアの壮大な大舞踏会のシーンで、その中をカメラが動き回るとともに、黒服の男もみんなと一緒に踊っています。
どうやら台詞から、この黒服の男は古い西洋の代表みたいな感じらしく、西洋に対する複雑なロシアの感情が表れているのかもしれません。まあ、ピヨートル大帝が西欧風の街を作ることを目指したのがサンクトペテルブルクの街ですし、そこに西欧の美術を大量に買い漁って集めたというのも、ある意味で後進国ロシアの西欧コンプレックスの表れですから、このあたりはそれを念頭に置いておいた方がいいのだろうとは思いますが、まあ、あまりよくわかりません 苦笑)
何しろ本物のエルミタージュの建物を使っていますから、ヴィスコンティもかないませんね。登場人物の数も物凄いし、それらの人たちの衣装なども素晴らしいです。とても贅沢な90分という感じですが、こちらの集中力も要求される面もあります。つまり、気を抜くと寝ちゃうってことですね 笑)

にほんブログ村
- 関連記事
-
スポンサーサイト