いやあ、気持ちの悪い映画でした。短いクローズアップのショットを重ねたり、広角レンズ(?)のアップを使ったりして、白黒映画ですが、ちょっとおどろおどろしい雰囲気。主人公の男がまたなんか気持ちが悪い。ぶつぶつ喋り続けるんだけど、どうもその内容も火葬という自分の仕事に取り憑かれているような狂気を帯びている。ユーチューブに全編があったけど、字幕なし。でも、映像の雰囲気だけでも味わえますので、おヒマでしたら適当なところを見てみてください。短いカットと不気味なクローズアップに気持ち悪くなること請け合い 笑)
チェコスロバキアというと、気持ちの悪い人形劇映画のシュヴァンクマイエルという監督がいる。このコマ撮り人形による不気味な世界とは違うんだけど、どこか不安を煽るような感じに、それに通じるものがあるのかも。あるいは半年ぐらい前にミステリーチャンネルでやっていたチェコ製のミステリー。これもグロテスクでなんか独特の雰囲気があった。そういえば、そのミステリーでキーになっていたのがヒエロニムス・ボッスの絵だったけど、この映画でも全く同じ絵が出てくるシーンがある。
オーストリアがナチに併合された(1938年)とか、チェコの国境そばまでナチスが近づいているというセリフがあるから、舞台設定は1938年末か39年初めだろう。戦争直前の雰囲気の中で、主人公は20年間プラハの火葬場に勤めている男。彼は自分の職業に取り憑かれていて、単に死人を火葬して灰にするだけでなく、自分はそれによって魂を解放しているのだと信じている。
そんな男が、ナチスの脅威の中、第一次大戦で戦友だったドイツ系の友人にそそのかされ、自分にドイツ人の血が混じっていると思い込むとともに、それまで気にもしていなかったユダヤ人を気にしだす。そして愛する妻が半分ユダヤの血が混じっていると知ると、彼女を殺し、さらに4分の1ユダヤの血がまじっている息子も殺す(娘は取り逃がす)。つまり彼らのユダヤ人としての魂を解放したつもりなのである。
妻と子供を殺すとドッペルゲンガーのように自分自身が現れて、下から見上げるようなカメラ目線。これが広角レンズを使っていて気持ち悪い。それから、主人公は櫛を持ち歩いていて、遺体や自分の子供の髪の毛をとかした後、必ず自分の髪の毛もとかしたり、妻を首吊りさせた後にその解けていた靴ひもを結び直したりする。こういうちょっと神経質なこだわりのようなところも気持ち悪さを倍増させる。
見ながら、これってギャグだよな、と繰り返し考えていた。繰り返し出てくる騒々しい人たちの様子などスラップスティックギャグみたいで、一方で顔のパーツのクローズアップはホラー映画のよう。しかもそれを1、2秒ぐらいの長さで重ねる。内容は寓話風で不条理そのものだし、さすがにカフカの生まれた街だ。
ナチスが迫る時代設定は、この映画が作られた1968年という年を思えば、完全にプラハの春にオーバーラップするし、火葬人の主人公は最後にナチスに雇われることから、収容所の火葬炉を連想させる。
渋谷のイメージ・フォーラムで、上映10分前に着いたら外まで長蛇の列で、整理券番号は72番だった。最近見た映画館では一番人が入っていたかも 笑)

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