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崔実(チェシル)「ジニのパズル」覚書き(完全ネタバレ)

2016.08.24.10:58



噂に違わぬ面白さだった。昨夜、読み始めたら、結局最後まで一気に読んでしまった。あえて言えば青春小説なんだろう。最後のシーンにはひどく感動した。

主人公は在日朝鮮人少女のパク・ジニ。小説の構造は枠構造のようになっていて、彼女はオハイオの高校で、今、退学しようかという状況にある。そんな状況でホームステイ先のおばさんのアドバイスで、彼女は自分の朝鮮学校時代のことを綴り始める。

彼女は、日本人小学校でも、朝鮮中学校でも、オハイオの高校でも、決して孤立しているわけではない。確かに、誰にでも好かれているわけではないけど、それぞれどこででも、気を使ってくれる友人がいるし、朝鮮学校では好意を寄せる男子学生だっている。確かに自分のためだけで、授業が日本語で行われたりして、朝鮮語がうまくできないことで、居心地の悪い思いをしたり、ちょっとしたイジメじみたことはあっても、それほど深刻な事態にはならない。教師たちも変な奴はいても、総じて教育熱心で生徒たちのことを親身に考える。

だけどテポドン騒動による日本人からの暴行がきっかけで、彼女は、大人たちの身勝手な建前、組織絶対の態度、朝鮮学校の教師や生徒たちの事なかれ主義に対して「革命」を起こそうとして、朝鮮学校としては決定的な騒動(金日成と金正日の肖像写真をベランダから投げ捨てる)を起こし、施設に閉じ込められる。

こうした辛い過去を文字化したことで、彼女はオハイオの学校、ホームステイ先のおばさんの元へ戻り、彼女の再生が暗示されて終わる。表題のパズルのピースがはまったのだろう。

これは朝鮮学校という、普段僕らはほとんど知らないところ(映画「パッチギ」ではヤンチャなやつらばかり出てきたけど、ここではいたって普通の中学生だ)を舞台にしているから、興味深いのではない。彼女が思う大人たちの欺瞞・偽善・事なかれ主義、周囲の生徒たちの、そうした大人たちへの達観したような無関心・順応に対する怒りの気持ちは、誰でも共感できるものではないだろうか。

それにしても、僕の時代の在日作家たち、イ・フェエソン(李恢成)やキム・ソクポム(金石範)の八方塞がりのような深刻で重苦しい雰囲気とはまるで違うし、文章そのものも、どこか全体にホワホワした軽やかな感じなのは、最近の女流作家に共通しているような気がする。

途中に挟まる北朝鮮への帰国運動で海を渡った祖父からの手紙で、このブログでも紹介した映画「かぞくのくに」を思い出した。当たり前の話だけど、在日韓国・朝鮮人だって、個人としては、みんな現在の独裁的な北朝鮮という国にはうんざりしているわけだ。

普通の人に、ぜひ、読んでほしい。



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プロフィール

アンコウ

アンコウ
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あんけ・たつや。欧州ロードレースに興味を持ってすでに30年以上。主にドイツ人選手を応援。特に青田刈りにいそしむ。歳にも関わらず、あらゆる点ですごいミーハー。そのほか好きなものは、読書、音楽はバッハと友川カズキ、北方ルネサンス絵画、映画、阪神タイガース(村山、江夏以来ですが、強すぎないこと希望、弱すぎはもっと困るが)。北欧の社会民主主義に対する憧れ強し。家族構成は連れ合いと娘三人。

* 時々コメントが迷惑コメントとしてゴミ箱に入れられることがあるようです。承認待ちが表示されない場合は、ご面倒でも書き直しをお願いします。2017年8月3日記す(22年3月2日更新)

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