オーソン・ウェルズが監督というので、少し前に撮っておいたのだけど、これがなんと、凄い映画だった。1958年の白黒映画。冒頭、時限爆弾のアップから始まるワンカットの長い移動撮影のすごいこと。舞台はメキシコとアメリカの国境の町で、主人公はチャールトン・ヘストンが演じるメキシコの麻薬取締官。その妻がアメリカ人のジャネット・リー。そしてアメリカの刑事のオーソン・ウェルズがものすごい悪党ぶりを発揮する。その悪党ぶりは「第三の男」でウェルズがやったハリー・ライムの比ではない。しかもハリー・ライムと同様にただの悪党ではなく、なにかニヒリスティックで深い闇を心の内に抱え込んでいるような悪党なのである。
この悪党がちんぴらを使ってジャネット・リーを監禁、薬漬けにしてヘストンをはめるところなどは緊迫感があってかなり見せる。ただ、あそこまで追い込んだのに、最後はちょっと間抜け。
ちんぴらの親玉のカツラとか、へんなギャグが挟まって、全体的になんとなく騒々しいけど、メキシコが舞台だからラテン的で、これでもいいのかもしれない。広角レンズ(?)を使ったりして空間が歪な感じだったりして、全体的に白黒の画面も相まって禍々しい感じがすばらしいと思う。最後にオーソン・ウェルズのかつての愛人のマレーネ・ディートリヒが「彼は凄い男だった」と言うんだけど、これはウェルズ本人のことを言っているのだと思わせる。現在の目で見ても傑作だと思う。
----- 11/22、17:00加筆 ----
たしかに傑作だと思うけど、「第三の男」と比べると、映画としてのレベルは「第三の男」のほうが段違いに上です。たしかに「第三の男」でのオーソン・ウェルズがやったハリー・ライムという悪党はその具体的な悪党ぶりが今ひとつはっきり出てこない。誰かを殺すわけじゃないし、ただの闇商売をやってるだけだ。むろんその結果として人が死ぬことはあっても。こちらのウェルズは人を殺すし、これまでも無実の人間を死刑にしているらしい。でも最後に彼が捕まえた一見無実の男は、冒頭を見直すと、どうやら真犯人なのかもしれない。
「第三の男」のヒロインでウェルズの元愛人のアリダ・ヴァリと、ここで同じくウェルズの元愛人のマレーネ・ディートリヒを比べても、女優としてはディートリヒのほうがはるかに大物で有名だけど、映画の中での役としてはアリダ・ヴァリのほうがはるかに魅力的だし、こちらの映画でのディートリヒは、なんかいてもいなくても構わないような、最後の台詞だけのために出ているような、そんな感じがする。
映画全体の雰囲気もメキシコとアメリカの国境沿いの町と、終戦直後の占領下のウィーンでは、やっぱり後者の方が圧倒的だと思う。

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