アマゾンへ(FC2のアマゾンへのリンクがうまくいかないので写真抜きです)朝日新聞による「慰安婦報道」とその訂正に対する世間、特に(あろうことか!)他のマスコミの猛烈な、時に常軌を逸したとすら思えるような批判を当事者の元記者らのインタビューと当時の記事などを丁寧に読み直して、いかにこのバッシングが日本社会が遂げつつある歪(いびつ)な変質によるものであるか、この事件が日本のメディア界全体にとって歴史に残る大敗北であるかを検証した本。
嘘やデマで怒りを増幅させて、あたかも自分が正義に基づいているかのような幻想を抱いたまま、他人をバッシングする。
それはぼく自身も経験したことがある。そこでは「在日外国人は税金も払っていないのに生活保護を受給するなど憲法違反もいいところだ」という大嘘に、呆れるほどたくさんの人が、汚い言葉で怒りのリツィートを連ねていた。
余りにひどいと思ったから、在日外国人も税金は支払っているし、憲法違反になる論拠などないと返事を書いたら、ものすごい勢いの罵倒と嘲罵、嘲笑の返事がきた。そのすべてが、要するに、論理などない、ただ感情的な反応で、俺たちが盛り上がっているのに水をかけるな、というレベルのものだった。まともな反論などひとつもなかった。ましてや、そうか、知らなかった、なんていうコメントはあるはずもない。
つまり自分の私怨を晴らす怒りの対象を、嘘でもいいから創り上げ、みんなでそれを叩こうというわけである。彼らにとっては嘘=捏造=デマであるのかどうかなんて、どうでも良いことなのだ。自分は匿名という安全地帯からだれか「自分よりも弱い=自分より劣っている」とみなせる相手に向けて、みんなで、怒りをぶつけることに快感を得ているのである。
同じことが朝日新聞の従軍慰安婦報道問題にも言える。まさにそのことがこの本には書かれている。
実は僕はこの朝日が問題にし、取り消した吉田清治の本「朝鮮人慰安婦と日本人」を80年代に読んでいる。本も実家に戻ればどこかにあると思う。当時、金石範(キム・ソクポム)という在日作家が好きで、その関連で読んだんだと思う。もちろん僕なんかにはこの本に書かれていることが嘘だと見破ることはできなかったけど、この吉田清治という人の主張には、いま言われているのとは全く違う意味で違和感を感じた。あとがきにあるのは反西洋で、日本と朝鮮は一緒になってヨーロッパに対抗していかなければならないというような主張が述べられていた。日本が朝鮮でやった蛮行は英国に代表されるような西欧植民地主義に責任があり、日本本来のものとは違うというような、言い訳じみた弁解が書いてあった。
いま、この吉田清治という人は、きっとサヨクの反日捏造者というレッテルと貼られているんだろうけど、僕がむかし読んだときの印象はむしろ右翼的な印象を持ったし、この人がなぜ嘘を書いたのかはわからないけど、自らやってもいない汚名をかぶってまでアジアの融和をもとめたのだ、と言われれば、それはそれで、今、巷間伝わっているようなイメージとはずいぶん違うような感じもするのではないだろうか。いずれにしても、吉田清治の書いた本を論拠に、当時朝鮮人慰安婦強制連行の記事を書いたのは朝日だけではない。今回朝日を叩きまくった読売も産経も吉田清治の主張を過去に紹介しているそうである。
吉田清治が、あのように、やってもいないことを言ったのがなぜなのかはわからないけど(僕は上記のような反西洋=汎アジア主義(?)をうたうための方便だったような気がしているが)、それをもって慰安婦問題がすべて「なかったこと」になるわけはないし、そのようにしたがっている勢力こそ日本を貶めていると思う。
この青木の本を果たしてどのぐらいの人が読むのかわからない。著者の言う「このようなことをする連中は真正のクズである」(p.100) という怒りも納得できる。問題はこの言葉が元記者をバッシングした人たちにどのぐらい伝わるのか、また、それによってどのぐらいの人たちが心を入れ替えるのか、だ。だけど、それを考えると、なんとも暗い気分になる。こんな時には、以前紹介したガンジーの呪文を唱えることにしよう。「あなたの行う行動がほとんど無意味だとしても、 それでもあなたは、それをやらなければならない。 それはあなたが世界を変えるためではなく、 あなた自身が世界によって変えられないように するためです。」

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