以前紹介した「原発ホワイトアウト」の続編。前回は某国のスパイのテロによって原発が二度目のメルトダウンを起こすところで終わった。今回はそれを少し遡って、原発マネーをめぐるおどろおどろしい政財官の仕組みを説明しながら、新崎原発の二度目のメルトダウンで首都圏が住めなくなるが、国民は相変わらず権力者の思うがままになり、良心的な官僚たちは無力感を感じるだけという話。
黒澤明の映画に「悪い奴ほどよく眠る」という映画があるけど、あの映画では一番悪いヤツ(画面には一度も出てこないけど、政治化であることは明らか)が想定されているんだけど、ここではもっと組織的なもので、その悪循環に対して一員である人間たちは自分の意志ではどうしようもないわけ。
正直に言ってツッコミ処は満載だと思う。そもそも某国のスパイがなんのためにテロを起こしたのかわからないし(だって、この小説みたいなことになれば放射能で汚染されるのは日本だけじゃないし、小説中でもその後の混乱に乗じて某国が何かしでかすわけでもないらしいしね)、原因究明や捜査が行われたのかどうかもわからない。また、天皇まで登場しちゃうのはどうなんだろうねぇ。確かに今上天皇はここに書かれているような人かも知れないけど、これはちょっと禁じ手じゃなかろうか? それから、反原発意識が露骨すぎることで、かえって読者をヒキ気味にさせてしまうんじゃないだろうか? デマゴギーが前面に出すぎた二流のプロレタリア文学(失礼)を現在読むような感じもある。確かに原発反対派の中にはそうだ、このとおりだと溜飲を下げるかも知れないけど、やや反対ぐらいの人は、こんなことあるかよ、ばからしい、となっちゃうんじゃないかと不安も感じる。
でも、そうは言っても、前回の「原発ホワイトアウト」より面白く読んだのは、語り口に慣れたからだろう。前回書いたように、官僚たちの一般の人々を軽蔑しきった本音があちこちに現れていて、しかも語り手の口調もそういう口調で、作者が本当にエリート官僚だと言うこともあって、なんとも不愉快な読書だったけど、まあ、あたりまえだけど、作者=語り手ではないからね。読者にハッパを掛けるという意味もあるんだろうね。いずれにしても、現実の世界はこんなにひどくないと思いたい。

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