例によってイマジカです。面白かったです。
「ジェネレーション・ウォー」の主人公の二人が出てました。まあ盛大な嘘っぱちだらけでしたが 笑) しょっぱな、シューベルトの「糸を紡ぐグレートヒェン」の変奏(?)で、うーん、23才のゲーテでこの曲かぁ、と思ったんですがね。この「糸を紡ぐグレートヒェン」ってのは、たしかにゲーテの「ファウスト」に基づいてシューベルトが作曲したんだけど、ちょっと恋に狂った女の狂気みたいな曲で、イメージがちょっと違うし、まだ若きゲーテはグレートヒェンの話なんか思いついてないしね。
さらに最初のほうでロッテが教会で歌っているシーン、ゲーテの時代に教会でバッハのカンタータなんか歌うかよ、って思わず突っ込んだんだけど、その後にも出てくるわ、出てくるわ、史実と全く違うぞっていう話が 笑)
ウェルテルのモデルになったる人物の自殺がゲーテの目の前だったり、ロッテの婚約者とゲーテが決闘したり、収監中に「ウェルテル」を書いたり、極めつけは、その「ウェルテル」をロッテが本屋へ持っていって出版することになっていたり。
だけど、そうは言っても、若いゲーテもロッテもとっても魅力的で、見ていて楽しかったし、ロッテの婚約者の、何でもできちゃうカメレオン俳優モーリッツ・ブライプトロイも、今回はなかなか渋かったし、ゲーテとロッテの関係がばれちゃう婚約発表のパーティーのシーンなんかは、ハラハラドキドキ、見応えがあったし、風景がきれいだし。
町のメインストリートの泥だらけで水たまりだらけの様子や、室内の汚い感じなんかも、18世紀のヨーロッパの風景ってこんな感じだったんだろうと思わせたし、服なんかも、シミが付いててもそのまま着てでちゃうわけで、こういうリアリティも見ていて楽しかった。
原題は「ゲーテ!」 まあ、これだけでもモダンなゲーテが出てくるだろうと想像できる。実際は現在の若者とは考え方も価値観も立ち居振る舞いもずいぶん違っていただろうから、現代の若者ふうに脚色すれば、当然嘘だらけにならざるを得ないでしょうけどね。
見終わって、なにかデジャヴ感があったんだけど、これはゲーテの「若きウェルテルの悩み」が出来上がり、ゲーテが文豪になるきっかけ秘話みたいな作りになっていて、これも1990年頃に見たロシア映画の「ドストエフスキーの生涯の26日」という、まだ大長編を書く前、賭博に狂って破滅寸前のドストエフスキーが将来の妻の女性の導きで小説「賭博者」を完成させるという話で、最後は「罪と罰」が暗示されて終わっていた。残念ながらアマゾンにはビデオもDVDもブルーレイもないですね。アナトリー・ソロニーツィンのドストエフスキーはもう一度ぜひ見たいところですが。。。
こういう大作家誕生秘話みたいな映画って、まあ多少の嘘はつきものかもしれません。ベートーヴェンでもこんなの無かったっけ? 大昔の「未完成交響曲」なんかもこのタイプでしょう。だけど、「ゲーテの恋」はこの嘘がちょっと大胆不敵 笑)
そういえば、以前書いた
モーツァルトの姉の映画「ナンネル・モーツァルト」も、
シューマンの奥さんの「クララ・シューマン」も嘘といえば嘘、どちらも史実に反する映画でした。ただ、ナンネルとクララに関する嘘は、ある意味、当時の女性たちに対する慈しみのようなものがあって、とくに後者は痛快な感じがしたけど、こちらはどちらかというと、お話を面白くするために作り話をしましたっていう感じがないこともない。
そういえばこれまたイマジカで半月ほど前に見た「シャドウ・オブ・ヴァンパイア」という映画もむちゃくちゃな嘘でした 笑)ここまでくるとギャグまであと一歩。こちらは大昔、1920年頃の無声映画「吸血鬼ノスフェラトゥ、恐怖の交響曲」のなかで吸血鬼の役をやったマックス・シュレックという俳優が、実は本当の吸血鬼だったという話。
この「ノスフェラトゥ」は、ムルナウという映画史に残る名監督の、映画史上最初のホラー映画とされている映画で、まあ、昔の映画だから俳優の演技は大げさだし、場面展開はあっち行ったりこっち行ったりと洗練されていないけど、影だけで吸血鬼の接近を表したり、門の向こうの暗がりの中に現れたり、帆船の帆を背景に下から煽るように出てきたり、棺桶を抱えて無人の町を歩いたりする吸血鬼の姿なんか、今見てもたしかに怖いし、映画の教科書なんだろう。
そういえば、
以前書いたドライアーの「吸血鬼」も、ハッとするような白黒のコントラストのはっきりしたシーンがたくさんあったっけ。あれも怖かった。どぎついカラーより白黒のコントラストがはっきりした画面のほうが怖い。
で、この「シャドウ・オブ・ヴァンパイア」のほうだけど、シュレック役のウィレム・デュフォーは正直に言ってマックス・シュレックほどの怖さがない。眉毛と耳がちょっと違うような気がするし、もっとシルエットが禍々(まがまが)しかったと思う。むしろ本物の吸血鬼を使ってまでも、傑作を作りたいという監督ムルナウ(これはジョン・マルコヴィッチが演じている)の狂気のほうが怖い。こういう狂気って、小説家とか音楽家よりも、画家や映画監督なんかの、世界を切り取って枠の中に押し込めたいという情熱=狂気に似合っているような気がします。死を賭しても撮りたいという戦場カメラマンとかね。
ところで、「ノスフェラトゥ」はヘルツォークという監督が作ったリメイク版もあって、これも傑作です。
こちらの吸血鬼をやったのはクラウス・キンスキー。これがまたものすごいおぞましさなんだけど、ホラーと言うよりも、むしろキンスキーの吸血鬼が恋に焦がれる、ある意味で可哀想な話。幻想的で、この映画に関しては、白黒映画をカラーにした甲斐があったという映画です。ヘルツォークについてはまたいずれ。
というわけで、今回はゲーテから吸血鬼に行きつきました 笑)

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