漱石は大好きで、学生時代から繰り返し読んだ。一番好きだったのは「それから」だった。その後、松田優作が代助を演じた映画が作られた。間の緊張感がものすごく、なかなかに良い映画だと思ってもう一度原作を読んだ記憶がある。
だけどそんななかで「坊ちゃん」はどうもあまりおもしろいと思わなかった。痛快とか青春小説とか言われてたけど、赤シャツと野太鼓はボコボコにされても、校長の狸はまったく安泰だし、ボコボコにしたところで赤シャツはマドンナと結婚して、どんどん出世するんだろうし、野太鼓は相変わらず、男芸者みたいなまんまなんだろう。それに、そもそも本当に赤シャツは悪党なのかどうかだって、ひょっとしたら坊ちゃんの神経衰弱からでた妄想じゃないのか、っていう気もしたし。。。むしろ痛快だと思ったのは「野分け」の方だった。
図書館で大分前に出たこの本が目について借りてきた。まず40年ぶりかもしれない、「坊ちゃん」を読み直してから、読んでみたら、とってもおもしろかったけど、でも不満もある。舞台は昭和9年で、最初と最後に坊ちゃんと一緒に赤シャツをボコボコにした会津っぽの山嵐とうらなりの二人がが再会して、当時の話をする。その間に、延岡に転勤させられたうらなりのその後が、本人の思い出の形で描かれるとともに、「坊ちゃん」の中で坊ちゃんの視点から描かれた一連の事件がうらなりの視点を通して見直される。細かい道具立てや、うらなりからみた坊っちゃんや送別会の様子はおもしろいし、その後のうらなりの人生も、そこそこ幸せな人生だったはずなのに、なんか寂しげで哀しい。
ただ、マドンナの話は、うーん。作者がうらなりに同情しすぎたあまりなんだろうなぁ、こういう結末にしちゃうのはちょっと不満。それに、うらなりの性格からして、もっと引きずるんじゃないかなぁ。。。というか、漱石の登場人物たちはみんな昔の恋に祟られているんですよね。岩田宏の詩「いやな唄」のこんな一節みたいに。
むかしの恋が
借金取のきもの着て
ぼくらに歌ういやな唄
「忘れたか おい 忘れたか
忘れたいのか たくないか」
なんか出たばっかりの頃に買ったけど、まだ読んでない水村美苗の「続明暗」も、まず漱石の「明暗」を読み直してから 笑)、読んでみたくなりました。
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