タイトルの件、このブログを読んでくださる方のほとんどは知らないだろうし、関心もないかもしれない。ぼくの中学生になる長女は生後8ヶ月で脳腫瘍の手術をし、命と引き替えに視力を失った。小学校4年の次女はダウン症である。だから、障害児の父親として、どうしても昨日のこのニュースには触れておきたい。
障害者自立支援法というのが、小泉郵政選挙の自民圧勝後、多くの関係者・団体の反対の声を無視して、実にあっさりときまった。この法律の看板は障害者を保護するのではなく、障害者の自立をうながすというもので、それだけ見れば悪くなさそうである。
しかしその基本的思考方法は、障害も自己責任であるということだ。障害者が生活するに当たって介助を必要とすることの一部は自己負担せよというもの。現実の問題として、障害者がトイレに行くにも金を取られるのである。世界中探してもなかなかない法律だそうだ。しかし、TVも新聞もこうしたニュースは読者が求めていないということなのだろう、ほとんど取り上げなかった。
その時の厚労大臣は自民の中で、数少ない良識派に数えられる尾辻秀久。最近も
与謝野馨に「ばかもの!」と一括した、あの人だ。この人はきっといい人だったんだろう。その後の民主党の癌で死んだ山本孝史議員の追悼演説をしたのもこの人だった。当時この法案がとおったとき、文字通り泣きながら、絶対に今より悪くしませんから、と言ってた。でも、結果は。。。
統計があるわけではないが、生活できなくなった障害者とその家族が何人も自殺した。だが、なにしろ年間3万人以上が自殺しているのだ。この10年(実はそれ以上)で30万人以上が自殺しているのである(甲子園がいっぱいになっても5万だよ)。その数からすれば、この法案が原因の自殺などわずかなものである。だからニュースにもならない。
この法律の立案者の一人だった京極高宣という人は、08年末に朝日新聞に「重度の障害者施設へ行ったら貯金が1千万近くもある人がいた、負担できるなら負担してもらわねば」と言って、自立支援法の意義を強調する文を書いていた。
だが、現実には日本中から、個人の負担増により施設利用をやめたり、障害者施設がいわば歩合制(!)になったおかげで補助金が減り、サービスが低下したり、先進国とはとても思えないような話があちこちから伝わってきた。
京極高宣の発想は、ごく少数の「お金持ち」(と言ったって、京極高宣のほうがはるかにお金持ちだろう)の障害者から金をむしり取るために、他の「お金持ち」ではない障害者にも負担を強いるというものだったと言ってよいだろう。不穏当なたとえであることは十分承知の上で、あえて言えばテロリストが潜んでいるから一般人もろとも爆撃してしまえという、アメリカ軍的、イスラエル軍的論理である。(しかも、実際にはこんなお金は国の予算全体から見れば微々たるもので、社会福祉予算の足しになどならないのだが、「取る」ということが大切だったのである。)
結局、この法律のバックグラウンドは、新自由主義とかいうアメリカの市場万能主義の後追いをし、競争をあおり、自己責任を言いつのるやり方だった。経済優先(つまり金儲け)のために、自己責任と競争原理を導入することを目的としたものだった。自立支援法だけではない、20世紀末に決まった有事立法以来、共謀罪も、少年法改正も、高齢者医療法も、そして昨今の裁判員制度も、ここ10年ほどの間に決まったトンデモ法はみなこの筋道に乗ったものだ。
前にも書いたが、こうした方向性を打ち出している人たちの狙いは、憲法改正、もっと端的に言えば9条をなくすことだろう。
しかし障害者自立支援法に戻ろう。スタートラインが平等でない競争など競争ではないし、ましてやそこに自己責任を問うことなどできない。当たり前の話ではないだろうか?自立支援法は障害者をこの同じスタートラインに立たせるために金を払えと言っているのだった。
個人的には嫌いなたとえだが、障害者は社会のカナリアだというたとえ話がある。ご存じのように坑夫は炭坑には必ずカナリアのかごを持って入った。有毒ガスが発生すると、人より敏感なカナリアが先に騒ぎ出すので、炭坑内部の状態を知るバロメーターになるというのである。社会がおかしな方向に向かうと、まず障害を持つ人々が生きづらくなるというたとえ話である。
このたとえ話に乗れば、今の世の中は長年にわたる自公政権のおかげで、有毒ガスが発生しているのは間違いない。そして各地で違憲訴訟が起こされ、カナリアが思いっきり騒ぎ、自公政権が終わったことで(間違いなくこれが一番の理由であろう)、ようやく社会は少しこの有毒ガスの発生に気がついたのかもしれない。つまり、このあまりに理不尽な法律は廃止すると長妻厚労大臣が明言し、各地の違憲訴訟でも和解が成立し、そして
昨日原告団と鳩山総理との面談も実現した。むろん、まだこれから、この法律に替わるどのような法律が作られていくのかはわからない。しかし、いまスタートラインに着いただけとはいえ、障害者を巡る状況は大きく変わったことは確かなのである。
障害者自立支援法訴訟の勝利をめざす民主党に対する期待が徐々に低下しているらしい。数日前の朝日新聞でも支持率は25%などと出ていた。むろん民主の足を引っ張ろうと躍起になっているとしか思えないマスコミの発信である。どこまで本気にして良いのかはわからない。
ぼくは、この障害者自立支援法の廃止と国による謝罪だけをとっても、自公政権が終わったことに、とてつもなく大きな意味があったと考えている。鳩山さん、原発推進や普天間の件など、不満や不安はあるが、頑張って欲しい。本当にそう思っている。
ちなみに、先の京極高宣は、
今年の初めに論文の盗用が発覚したことも付け加えておきたい。
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