今日は午前中時間があったので国立新美術館のルーブル展へ行ってみました。午前中、それも開館すぐだから空いてるだろうと思ったら、いやあ、想像以上の人数でした。なんといってもフェルメールですからね。他に並んでいる同時代の風俗画や静物画と比べても際だっています。人も事物も輪郭が光にまみれて柔らかいし、なにより構図のバランスが凄いですよね。
実はフェルメールは実物を結構観てます。ドレスデンやアムステルダムやベルリン、ウィーン、フランクフルトと、たまたま旅行した先に偶然あったんですよね。それから日本であった展覧会でも結構観ています。数えてみたら今回の
「天文学者」で14作品目。まあ、このネットで何でも観られるご時世、本物を観たからなんだ、という気持ちもないことはないんですがね。
で、実は今回のお目当てはクエンティン・マサイスという画家の
両替商の夫婦の絵。
かわいい奥さんと、魅力的とはとても言えないダンナの絵で、この時代の北方ルネサンスの絵画にはこういうの、たくさんあるんですが、一番有名なのはファン・エイクの
「アルノルフィニ夫妻」。
なんか陰険で意地悪そうな夫と品の良い可愛い奥さんという取り合わせ。この
ダンナだけの肖像画というのもファン・エイクの絵にあって、そちらはこれより少しマシだけど、やっぱり意地悪そう。これがさらに極端になると不釣り合いな夫婦っていうテーマで、ルーカス・クラーナハ父子なんかが醜い老人と若く美人の奥さんの絵をたくさん描いています。
必ずしも夫が年寄りと決まっていなくて、逆に奥さんがお婆さんで若いハンサムなダンナという組み合わせもあります。まあ、これは必ず金が絡んでいるんですね。アルノルフィニも豪商でしたし、このマサイスの両替商もそうでしょう。可愛い奥さんは聖書をめくる手を止めて、ダンナが天秤で量っている金を思わず見つめています。
ブリューゲルの
農民の踊りでも右側にいる手をつないでいるカップルは老人と若い娘で、このテーマがさりげなく隠されているという説をどこかで読んだことがあります。
テーマはまあそんな感じなんですが、マサイスはイタリアでダ・ヴィンチの影響を受けたと言われていて、かつて私も観て感動したんですが、ベルリンにある
マグダラのマリアの絵はとてもいい絵だと思います。輪郭のおぼろな感じはダ・ヴィンチのスフマートという手法を取り入れたと言われています。
この両替商の夫婦はそうしたダ・ヴィンチ風の輪郭ではなくくっきりしていて、むしろ素朴な感じで、遠近法もずれているし、細部の思いっきり力(りき)の入ったリアリティに対して、大きな意味でのバランスがちょっとおかしいような気がするんですが、なんとも言えない静かなたたずまいに魅了されます。のちほど、納戸にある画集で見直すことにしましょう 笑)

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レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯、
以前にもすでに書いたことがあるけど、今回ひょっとしたら30年ぶりぐらいで見直すことができました。スカパーのミステリーチャンネルでこれを見つけて、大急ぎで契約。満足しました。他にもミステリーチャンネル、入って良かったと思う番組がいくつもありますが、それはまた別の機会に。
で、このレオナルド・ダ・ヴィンチですが、どうしても気になることがあります。どうもこれって、やっぱりダイジェスト版じゃないのかなぁ?
最初に書いたように、以前にも書きましたが、このドラマ、最初に見たのは高校時代だったと思うんですよ。で、その後再放送があって、それも見ました。それからしばらくして、また放送されたときにはダイジェスト版だったんですよ。ダイジェストと言っても、そんなにすごくカットされていたわけじゃなかったと思うんですけど。
今回のやつ(たぶんDVDで出ているやつでしょう)がダイジェスト版だと言うのは、記憶しているシーンが二カ所なかったんですよ。そのシーンがないという記憶はダイジェスト版を始めて見たときにもそう思ったので、記憶に鮮明に残っているんです。ただ、これって記憶の捏造の可能性も全くないわけではありませんけどね。
このドラマって、解説役の学者然とした男性が当時のシーンのなかに現れていろいろ解説するんだけど、そのスタンスがとてもイキにできているんですね。「ちょっと失礼」とか言いながら、そばにいる人物が持っている鉛筆を取り上げたりして、でも当時の人たちにはこの男性が見えていないかのような、見えていても無関心のような不思議な感じの反応をするんだけど、まさにその鉛筆(だったと思う)を取り上げるシーンがなかったのと、もう一つは晩年のレオナルドが生まれた家に戻ってきて、もう二度とここへ戻ることはないと知りながら部屋を見回すと、巨大な石臼の後ろから幼年時代のレオナルドがちょこんと顔を出すシーン。とくにこちらのシーンは最初に見たときに、ものすごく印象に残ったから、今回楽しみにしていたのに、なかったんですよねぇ。
想像ですが、このドラマってアメリカで賞を取っているんですよね。今回のは副音声が英語らしい(未確認)し、ぼくが最初に見た完全版はおそらくイタリア本国で放映されたもので、ダイジェスト版の方はアメリカ用に編集されたものなんじゃないかと思っているんですけどね。ほら、連中ってガサツだから 笑)、いかにも(彼らにとって)冗長と思えるようなところはカットしそうじゃない?
どなたか、この当たりのことを知っている方いませんかねぇ。いずれにしても、最初の奴を見たいよお。

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個人的には21世紀に入って一番良かった展覧会です、ってそんなにいくつも見てないけど。リルケの「マルテの手記」が学生時代のバイブルで、そのちょうど真ん中にこのゴブラン織りのタペストリーのことが長々と書いてあって、そういう意味では満を持して見に行ったわけですが、期待通り、いや、期待以上でした。
だけど、実物がこれほど大きいものだとは思いませんでしたね。他の展示品はそれほど多くなかったのですが、それがかえって意識を拡散させずに、この6枚のタペストリーに集中できたのでした。大きな展示室にどかんとこの6枚だけが飾られていて、薄暗い部屋の真ん中に突っ立ってぼーっとまわりを見回しているだけで、とても幸せな気分になれました。
帰りに、思わずATMで金をおろして大枚はたいて買ってしまいました。750ピースの木製ジグソーパズル。これで今月はおろか来月も、ひょっとして再来月も(?)お小遣いなしです 笑)でも、いつ作れるのかな?

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レーピンというロシアの画家の展覧会を見てきました。といっても、日本ではあまり知られてませんよね。19世紀末から20世紀初めの、ロシア革命前夜、怒濤の時代の画家です。
ロシアの革命前夜の画家たちは一時期好きで、画集なんかも随分集めました。そんななかで好きだったのは、なぜか、このクラムスコイという人の書いた荒野のキリスト。

© 講談社版 世界の美術館「トレチャコフ美術館」1969
ショックを受けたのは、一見シュールリアリズムの絵かと思うようなヴェレシチャーギンという画家の「戦争礼賛」という絵。

© G.Hallmann, Russische Realisten (ISBN 3-475-52543-7)
まあ、今回の展覧会はレーピンの作品だけでしたが。
そうそう、20年ぐらい前にトレチャコフ美術館、ロシア近代絵画という展覧会があったときに見たレーピンの娘の肖像画がまた来ていて、おお、お久しぶり、って気持ちになりましたね。
で、レーピンというとこの絵が一番有名でしょうか。


© G.Hallmann, Russische Realisten (ISBN 3-475-52543-7)
ボルガの曳舟人足の絵です。船を流れに逆らって人力で引っ張る人足たちの絵で、当時の帝政ロシア時代の貧しい人々の過酷な労働を描いたものです。むろん今回の展覧会には素描や下書きや別バージョンは来てましたが、この有名なのはさすがに来てません。
他にも政治犯を護送する馬車が泥沼のような道を行く絵とか、死刑囚が教誨師の差し出す十字架を拒否するシーンとか、あるいは民衆集会で弁舌をふるう学生革命家とか、革命前夜の雰囲気が漂う絵がいくつもありました。
レーピンという人は当時の帝政ロシアの民衆の悲惨さを告発するような絵や、革命家達の絵(発表禁止になったものもいくつもあるようです)を描いたかと思うと、とてもリリカルな絵や、肖像画、あるいはロシアの歴史に基づいた劇的な絵を描いた人で、今回の展覧会にもそういうタイプの違う絵がいろいろ出ていました。それほど混雑していなかったですが、東京では10月8日までですね。
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昨日のジロ・デ・ロンバルディア、ジルベールがアルカンシェルを着て両手を挙げるシーンを確信していたので、ちょっとがっかりでした。しかも勝負所が豪雨で放送電波不良になっちゃったしねぇ。まあ、ロドリゲスが勝ったことに不満は全くないんですが。。。
というわけで、
レオナルド・ダ・ヴィンチの新しいモナリザのニュース。うーん、本家がなんか能面のような気品というか、不気味さの底にへんなかわいさがあるのに対して、新しいのはちょっと妖艶な嫌らしい媚びのようなものが感じられて、どうもなぁ。モナリザとしてお互いを比べると、どうも新しいのよりも本家のほうが圧勝っていう感じだけどねぇ。個人的にはモナリザはレオナルドの自画像だという説が一番好きだけど。
数日前にBSで岡田准一の司会でレオナルドについての番組をやっていた。内容そのものはそれほど目新しいこともなかったんだけど、最初のほうで再現ドラマとして写っていたのが、僕が高校生の時にNHKで連続ドラマとしてやっていた「レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯」からの場面だった。このドラマ、あの当時、ぼくは昼休みになると図書館の画集のコーナーでジョルジュ・ド・ラ・トゥールの薄っぺらな画集を繰り返し見ていた高校生だったけど、、ものすごく感動した。ちょっともの悲しげな古楽のテーマミュージックまで覚えている。当時の場面に背広姿のいかにも学者然とした語り手が入り込み、説明を加えるんだけど、その手法がものすごくおしゃれでおもしろかった。
その後、何回かの再放送を経て、あるとき古本屋で見つけたのが、そのドラマを本にしたもの。


1976年の出版。当時の写真ってこんな程度だったんだねぇ。しかし、BSの番組でちらっと出てきたということはDVDになっているんだろうかと、調べたら、ありました。しかし値段が2万オーバーじゃあねぇ、だれも買わないよ。
ひょっとしてYouTubeは、と探すと、おいおい、スペイン語版だけどあるじゃないの。しかも
パート5まであるよ。
時間的に見ると、再放送時に見たダイジェストじゃなく完全版じゃないかな?冒頭、レオナルドの死のシーンから始まります。そして解説の紳士登場。伝説ではレオナルドをフランスに招いた国王フランソワ1世の腕の中で息絶えたと言われてますが。。。
後世のアングルなんて画家はそのシーンを見ていたかのように絵にしてます。

©
http://www.salvastyle.com/さて、最初の新モナリザ、まあ、これをモナリザと比べなければレオナルドの他の中性的な肖像の雰囲気があると言えないこともありません。しかし、モナリザは古来偽物がたくさんあるようだしね。それになんか、どこかこの肖像画、不純ないやらしさを感じちゃいますけどねぇ。どうなんでしょ。
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先日久しぶりに都心へ出ました。国立新美術館。始めていきました。でかいことでかいこと。ついでに入り口で音声ガイドも借りて中野京子さんの解説付きでした。イタリアルネサンスからバロック、ロココと来て、フランスアカデミーから印象派、それにセザンヌやピカソやマチスもそれぞれ1枚展示されてました。
僕の好みはアルプスより北の絵で、しかもバロックよりもっと前のほうが好きだからねぇ。そういう意味では。。。。でも、ヴァン・ダイクのやたらと美男の自画像とか、むかし読んだ若桑みどりさんの「女性画家列伝」に出てきたヴィジェ・ルブランとカウフマンのそれぞれ美人画家の自画像なんかが展示されていて、ヴィジェ・ルブランのいかにもフランス風の洗練されたかわいらしい自画像と、いかにもドイツ人らしい田舎の美人といった感じのカウフマンの自画像が並べられていてうれしかったです。
中野京子さんは印象派に駆逐されてしまった感のあるフランスアカデミーの画家に思い入れがあるようで、ジェロームという僕は全く知らなかった画家の「舞踏会の後の決闘」という絵の解説に、ずいぶん力が入っているようでした。ぼくも印象派って好きじゃないんで(だって、印象派の画家って絵が下手じゃない??)、うんうんと音声ガイドを聞いていました。
で、ふと思ったんだけど、印象派が出てくるまでは絵は物語性があったんじゃないか。印象派によって、それ以前の絵画の物語性(文学性)が否定されたんじゃないか、ってそんなことを考えました。
映画でもそうだけど、映画は映画であって文学ではないって言って、ストーリーの話とか、演出や役者の話は映画本来の批評対象ではない、みたいな風潮がはやったことがあったけど、絵画でも同じように、絵画に物語性は不要だという風潮が大勢を占めて、それに対して印象派って言うのは絵そのものの図像性というのかなぁ、文学性(=物語性)がない絵が多くて、ある意味で印象派が持てはやされたのは、絵そのものの評価以上に、物語性を排除したい批評の側から、特に印象派が批評しやすかったということはなかったのかな、なんて、まあ、素人の戯れ言ですけどね。ただ、印象派ってどうしてそんなに(日本だけではなく世界的にも)人気があるのかな、ってどうも僕にはよく分からないんですよね。
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昨夜、自転車ロードレースの本をたくさん出している未知谷の20周年記念があり、末席を汚して参りました。頂き物の写真集です。18世紀のウクライナの彫刻家ということで、今までほとんど無名。その生涯もほとんど不明。だけど、だんだん広まってきて、今度ルーブルでも展覧会が開かれるとのこと。

これはサムソン。
なんというか、まあ、マニエリスムというかバロックというか、連想したのはトレドの画家エル・グレコの絵でした。なにか、デフォルメの仕方がちょっと不気味というか、気持ちが悪いというか、それなのになんか惹かれてしまう絵ってありますね。私の印象はそんな感じです。好きかと言われると、私の好みはいずれ書くこともあるでしょうけど、北方ルネッサンスの静謐なたたずまい。こういう強烈な感じではないので、好みだとは言えません。でも、一見して心が波立つというか、なんとも目を引きつけられるものであります。

これは一般にはイサクの犠牲と言われる奴ですね。
NHKでも特集番組が放映されたそうで、今後もっと有名になるのかもしれませんが、いずれにしてもキリスト教を題材にした作品ばかりなので、日本で人気が出るかどうかは何とも言えませんね。

この老婆はなにかの寓意像らしいです。
あれ、Nacoさんにすでに先を越されてしまった 笑)
ピンゼルについてはこちらが詳しいようです。
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ブリューゲルのこれまで知られていなかった絵が見つかったというニュース!!
うーん、右の自己紹介にも書きましたが、ヤン・ファン・エイクからブリューゲルぐらいまでの、いわゆる北方ルネサンスの絵画って大好きなんですよ。リビング(と呼べる代物ではないが)には2000ピースのブリューゲルの「バベルの塔」のジグソーパズル(仕事から帰ってきて、毎晩、連れ合いと酒を飲みながらチマチマと作ったのでした)が、もう10年以上前から壁に掛かっていますし、パソコンのバックグラウンドも「狩人の帰還」です。ブリューゲルの絵のなかでは、これが一番好きですね。ちなみにタルコフスキーという映画監督の「ソラリス」でも、実に印象的にこの絵が使われていました。


これ以外にも押し入れには「ネーデルランドのことわざ」の3000ピース(!)が手つかずのまま眠ってます。一応老後の楽しみの予定。

さて、ブリューゲルの画集はいろいろあるけど、このニュースの絵はもちろん初めて見ました、っていうか、世界中のほとんどの人が初めてでしょう。雰囲気はたしかにブリューゲルの宗教画(サウルの回心とかゴルゴダへの行進)の色合いがありますが(もっとも宗教画ばかりではないんでしょうが)、ずいぶん痛んでいるようにみえますね。
巨匠ブリューゲルの大作見つかる プラド美術館「聖マルタン祭のワイン」という題名がつけられたようですが、所有者がずいぶん変わってきたようだから、この題名だって怪しいものでしょう。ただ、たしかに聖マルタン祭はフランス北部からフランドルへかけてのお祭りのようですけど。ブリューゲルの絵って主題は絵の中でまったく主題らしくなく描かれているんですよね。イカルスの墜落なんかも、初めて見たときにはどこにイカルスがいるの?って思ったし、ゴルゴダへの行進もイエスはどこって感じだし、サウルの回心なんか、手前の馬の尻ばかり印象に残って、神の声に打たれて落馬したサウル(後の使徒パウロ)はどこ?っていう絵ですから、この絵もひょっとして主題ははじっこのほうにあるのかも。それにブリューゲルの父ちゃんの絵って息子たちがずいぶん模写して、父ちゃんの名前で商売していたということですし、もうしばらくこのニュースは眉に唾つけたままのほうがいいのかも。。。
ブリューゲルがらみでお勧めの本はこれですね。著者はだいぶ前に亡くなりましたが、結構クセのある人だったみたいで、好き嫌いが分かれるかもしれません。でもこの本はまちがいなくお勧め。
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